參照)
【クイリーノ】(槍を揮ふ者、勇士の義)、神に祭られし後のロムロスの一名。ローマの建設者なるロムロスの父は身分賤しき者なりしゆゑ、人々軍神マルテ(ギリシアにてはアレス)をばその父なりと稱するにいたれり
一三三―一三五
神の攝理諸天星辰の影響となりて世に及ぶにあらずば、子は親と全くその性を同うすべし
一三六―一三八
【汝の後に】九四―六行參照
【表衣となさん】最後に表衣《うはぎ》を着て身の裝ひを終ふるごとく、この最後の教へを受けて汝の知識を全うすべし
一三九―一四一
人もしその性向に逆ひその本分にあらざる業をなし職を選べは、地の利を得ざる種の如く(『コンヴィヴィオ』三・三・二一以下參照)決して良き結果にいたらじ
一四二―一四四
【自然の据うる基】諸天の影響より生ずる性向
第九曲
ダンテなほ金星天にありて暴君エッツェリーノ・ダ・ローマーノ三世の姉妹クニッツァ及びマルセイユのフォルコと語る
一―三
【クレメンツァ】クレマンス。カール・マルテルの女、一二九〇年頃生れ、一三一五年フランス王ルイ十世に嫁す、その死はダンテの後にあり
一説に曰く、こはマルテルの妻クレメンツァ(天、八・六七―七五註參照)の事にてその女クレメンツァの事にあらずと。前説後説何れにも難あり、「美しきクレメンツァよ、汝のカルロ」といへる言葉の上より見れば妻たる者に適はしく子たる者に適はしからず(スカルタッツィニの『ダンテ事典』參照)、されどマルテルの妻は一二九五年に死したればこれに向ひてかく呼びかくること穩當ならず、今しばらく前説に從ふ
【欺罔】特にマルテルの子ロベルトがナポリの王位を叔父ロベルトに奪はれしこと(天、八・六一―三註參照)
四―六
【汝等の禍】汝等カルロの子孫の受くる禍ひ。カルロ・ロベルトのうくる虐はとりもなほさずその一家その姉妹等の禍ひなればかくいへり
【正しき歎】虐ぐる者その虐の爲に正しき罰を受くること。但し王ロベルトの受くる罰とはたゞ一般にアンジュー王家の衰頽を指していへるなるべし
七―九
【生命】カール・マルテルの靈
【日輪】神。神は至上の善にましまし、萬物にその力に應じて福を與へ給ふ、かくの如くかの靈もまた神より眞の福を受く
一六―一八
【さきのごとく】カール・マルテルと語るの許を請へる時の如く(天、八・四〇―四二參照)
一九―二一
【速に】わが問を待たずして我に答へ、汝が神の鏡に映してよくわが心の中を見るを得との證《あかし》を與へよ
二二―二四
【さきに歌ひゐたる】天、八・二八―三〇參照。深處[#「深處」に白丸傍点]とは光の内部をいふ
二五―二七
邪惡の國イタリアの一部なる
【リアルト】ヴェネツィア市の一部を形成する島の名、ヴェネツィア市を代表す
【ブレンタ】アルピより出でゝヴェネツィア附近に注ぐ河(地、一五・七―九參照)
【ピアーヴァ】アルピより出で、ヴェネツィア市の東北に當りてヴェネツィア灣に注ぐ河
マルカ・トリヴィジアーナはヴェネツィア(南)とアルピの峰(北)の間にあり
二八―三〇
【山】ローマーノ山、山上に「エッツェリーニ」家の城ありき
【炬火】エッツェリーノ・ダ・ローマーノ三世。傳説に曰く、その母夢にマルカ・トリヴィジアーナの全土を燒盡せる一炬火を生むと見て彼を生めりと。エッツェリーノは第七獄第一圓にあり(地、一二・一〇九以下參照)
三一―三三
【一の根】同父母。父はエッツェリーノ二世、母はその第三の妻アデライデ・デーリ・アルベルティ
【クニッツァ】エッツェリーノ二世の末女、性放縱にして情人多く三たびその夫を更ふ、されど晩年フィレンツェに住して改悔の歳月を送り慈善の行爲多かりきといふ(十三世紀)
【この星の光に】金星の影響を受けて多情なりしため
三四―三六
我はかの多情の罪の爲に今わが心を惱まさずかへつて喜びをもてこれに對することをう、これ汝等世俗の人の解し難しとするところならむ
戀愛の情は一たび淨まれば即ち神にむかひて燃ゆる愛の火となる、クニッツァ改悔によりて濁れる愛を清《す》める愛に變じ、自らその救はるゝにいたれるを喜ぶなり
【命運の原因】在世の日の罪、即ちクニッツァをしてさらに高き天の福を受けざらしめしもの。まづ神に赦され而して後自ら赦すなり
三七―三九
【珠】フォルコの靈(九四行以下參照)
四〇―四二
【第百年は】定數五百年を不定數多年の意に用ゐたり
【第二の生】死後世に殘る美名
四三―四五
【ターリアメントとアディーチェ】マルカ・トリヴィジアーナをその東(ターリアメント)西(アディーチェ)の境にある二の河にてあらはせるなり
【これ】善行によりて美名を竹帛に垂るゝこと
【撃たる】エッツェリーノ及びその他の暴君の壓制を受けて苦しめども
四六―四八
以下六〇行まで、己が郷國に關するクニッツァの豫言
【パードヴァ】註釋者曰く。一三一四年カン・グランデが皇帝の代理としてヴェツェンツァのギベルリニを助け、パードヴァのグェルフィを破りて沼(即ちバッキリオネ河がヴェツェンツァの附近にて造る沼)の水を紅に染めしをいふと
カーシーニの引用せるアンドレーア・グローリア(Andrea Gloria)の説に曰く。こは一三一一年以降におけるパードヴァ、ヴェツェンツァ兩市の爭ひをいへり、ヴェツェンツァ人水の缺乏によりてパードヴァ人に勝たんと欲しバッキリオネ(即ちヴェツェンツァを經てパードヴァに流るゝ河)の河水を他に轉流せしむ、パードヴァ人すなはち疏水工事によりてブレンタの河水の一部を導き、水なきバッキリオネの流域に流れ入らしむ(一三一四年)、ダンテの所謂水を變ずとは是なり、沼(palude)とはブルセガーナ附近の名にてブレンテルラの細流バッキリオネに落合ふところなり、パードヴァ人工事を施してこの細流を延長しかつ廣大ならしめ、由て以てブレンタの水を引けりと
四九―五一
【落合ふ處】トレヴィーゾ。シーレ、カニアーノの兩河こゝにて落合ふ
【或者】リッカルド・ダ・カーミノ。淨、一六・一二四に出づるゲラルドの子にてニーノ・ヴィスコンティの女ジョヴァンナ(淨、八・七〇―七二)の夫なり、一三一二年怨みを受けて不意に殺さる
ゲラルドの死は一三〇六年なれど一三〇〇年頃リッカルド既に實際の政治にたづさはりゐたりと見ゆ
【網】regna(島を捕ふる網)網を造るは殺害を企つるなり、傳へ曰ふ、リッカルド己が邸内にて將棊を差しゐたる時、相手の客、リッカルドの家僕と示し合せてこれにその主を殺さしむと
五二―五四
【フェルトロ】(フェルトレ)トレヴィーゾの北にある町
【牧者】アレッサンドロ・ノヴェルロ。一二九八年より一三二〇年までフェルトレの僧正たり、一三一四年七月フェルラーラの君にてグエルフィ黨なるビーノ・デルラ・トーザの請に應じ、己の許に保護を求めし多くのフェルラーラ人(ギベルリニに屬する)をこれに渡し、かれらを死に致らしむ
【マルタ】僧侶を罰する一牢獄の名として最有力なるは、(一)ボルセーナ湖畔の「マルタ」、(二)ヴィテルボの「マルタ」なり。されどダンテがこの中何れを指せるや或はまた他の「マルタ」を指せるや明ならず
近時このマルタをもて一般牢獄の名となすの説あり(一九二〇年一月二日發刊「タイムス」文藝附録トインピー博士寄書參照)、但しダンテがこゝに、重罪を罰する一牢獄の名もしくは一種の牢獄の名としてマルタの語を用ゐたりと見なす方語氣に力を添ふるに似たり、しはらく後日の研究に俟つ
五五―六〇
【黨派】グエルフィ
【かゝる贈物】かく恐ろしき贈物も、背信非道の行の盛なるマルカ・トリヴィジアーナの慣習としてはめづらしからじ
六一―六三
クニッツァは己が豫言の的確なるを記せんとてかく曰へり
【上方】エムピレオの天
【寶座】第三位の天使。直接に神の光を受けてこれを諸聖徒に傳ふるがゆゑに鏡といふ
【審判の神】神の審判は皆この天使を通じて我等に啓示せらるゝがゆゑにわが言眞なり
六四―六六
【さきのどとく】天、八・一九―二一參照
六七―六九
【知りし】クニッツァの言によりて(三七行以下參照)
【喜び】聖徒
七〇―七二
天上の喜びは聖徒の強き光に現はれ、地上の悦は人間の笑に現はる、たゞ地獄にては魂の内部の悲外部の黒さにあらはるゝのみ
七三―七五
【目神に入る】よく神を見るをいふ、聖徒達は神を見、その鏡に照してまたよく萬物を視るなり
【いかなる願ひも】言葉に現はれざる願ひも
七六―七八
【火】セラフィーニ(天、八・二二以下參照)。輝くが故に火といふ、六の翼あり(イザヤ六・二)
七九―八一
【もしわが】わが心の中を汝の知る如く汝の心の中を我知らば、換言すれば、我もし汝なりせば、問はるゝを待たで答ふべし
八二―八四
【地を卷く海】大洋
【を除きては】Fuor di フラティチェルリの説に從ふ。「より出でゝ」と解する人あり
【最大いなるもの】地中海
八五―八七
【相容れざる】discordanti 南北の反對面にある意の外、ヨーロッパとアフリカとの政教習俗等相異なる意をも含めしならむ(ムーアの『ダンテ研究』第三卷一二六頁脚注參照)
【日に逆ひて】西より東に
【さきに天涯と】西瑞[#「西瑞」はママ](ガデス)より見て天涯なる圈は東端(イエルサレム)より見て天心なり。西端の日出は東端の正午に當る、換言すれば、東西の兩端相距ること九十度なり
地中海の延長は四十二度に過ぎざれども、ダンテはその時代の謬見に從つて約九十度と見做しゝなるべし
さきにといへるは單に測定の出發點としての時を指せるにて先後あるにあらず、人もし地中海の一端より忽ち他端に到るをえば、西端にて地平線上に見えし太陽は東端にて子午線上に見ゆべしとの意なり(トーザー H.F.Tozer)
八八―九〇
【エブロとマークラ】イスパニアのエブロ河とイタリアのマーグラ河(ルーニジアーナにあり)。フォルコの郷里マルセイユは即ちこの兩河の間にあり
【短き】マーグラは六四キロメートル程の小河なる上、昔トスカーナとゼーノヴァ兩共和國の堺を劃せるはその一部に過ぎざりき
九一―九三
【己が血をもて】ブルートゥスがカエサルの命を受けてマッシリア(マルセイユ)の海戰に勝ち殺戮を行へる時(前四九年)の事を指す
【ブッジェーア】アフリカの北岸アルゼリアにあり、中台の要港(特にマルセイユとの通商上)としてこゝに擧ぐ、マルセイユと略その經度を同うするが故にかく
九四―九六
【フォルコ】(或はフォルケット)、ゼーノヴァよりマルセイユに移住せる商人の子、十二世紀の後半に生れ、トロヴァドル派の詩人となり、情事多し、後無常を觀じて僧となり、一二〇五年トロサ(フランスの南にある町)の僧正に任ぜられ、アルビジョア派(十二世紀に起れる異端派)の人々をいたく迫害し、一二三一年に死す
【象を】フォルコの象を捺すはその光を金星天に輝かすなり、金星天の象を捺せるはその影響によりて戀の火を燃せるなり
九七―一〇二
【ベロの女】ディド(地、五・六一―三註參照)、チュルス(聖書ツロ)王ベルスの女。アエネアスを慕ひて、亡夫スュカエウス及びアエネアスの先妻クレウザの靈を虐げしなり
【ロドペーア】フュルリス。トラキア王シトネの女、ロドペ山(トラキアにあり)の附近に住めるよりこの異名あり、傳説に曰、テセウスの子デモポオーン(デモフォーンテ)これを娶らんと約してその郷里アテナイに赴き期に至れども歸らざりしかば、フュルリス欺かると思ひて縊死すと
【アルチーデ】ヘラクレスの異名、ヘラクレス、テッサリア王エウリュトスの女イオレを愛して、その妻ディアネイラの嫉妬を招きネッソスの毒に感じて死す(地、一二・六七―九註參照)
【齡】pelo(毛)老ゆれば白くなるによりて齡の義あり、齡に適はしき間とは若き時の續く間をいふ
一〇三―一〇五
【再び心に】レーテの水に洗ひ去られて
【定め、整ふる力】星辰の影響を人に與へつゝ(定め)、遂に救に到らしめ給ふ(整ふる)神の力
一〇六―一〇八
我等は天地萬物を美《うつくし》うする神の微妙の御働《みはたらき》を見、諸天の影響を下界に及ぼしこれを導いて向上せしめ給ふ神
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