ノ燃さんとて、まづわが兒クーピド(エロス)をアエネアスの子アスカニウスの姿に變へ、ディドの膝に抱かしめしこと見ゆ
一〇―一二
【或ひは後或ひは前】宵の明星となりて現はるゝ時は日沒後なれば後[#「後」に白丸傍点]といひ、明《あけ》の明星となりて現はるゝ時は日出前なれば前[#「前」に白丸傍点]といへり
【星の名】金星をヴェーネレと名づく
一三―一五
【いよ/\美しく】ベアトリーチェは天より天と、神の御座《くらゐ》に近づくに從つていよ/\その美を増すなり
一六―一八
【一動かず】一音に變化なく、一音に震動高低の變化あるとき
一九―二一
【かの光】光る星、金星
【多くの光】諸聖徒
【永劫の視力】永遠に神を視ること。※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]る早さは見神(即ち福の度)の多少に準ず
二二―二七
【見ゆる風】電光
【冷やかなる雲】アリストテレスの説に曰く。熱くして乾ける氣上昇し、冷やかなる雲に當りて空氣を亂し風を生ずるにいたると、又曰く、電光とは單に風の燃燒によりて見ゆるにいたるものの謂と(ムーアの『ダンテ研究』第一卷一三二―三頁參照)
【セラフィーニ】諸天使中最高貴なるもの(天、四・二八―三〇註參照)
【舞を棄て】エムピレオの天にてセラフィーニと共に舞ひゐたる諸靈ダンテに現はれんとて降り來れるなり。一九―二一行にいへる舞はエムピレオの天にて始まれるものなるがゆゑにまづ[#「まづ」に白丸傍点]といふ
三一―三三
【その一】カール・マルテル(カルロ・マルテルロ)。シャルル・ダンジュー二世の長子、一二七一年に生れ、一二九〇年ハンガリアの王冠を受け(されどその實權は分家なる三世の手にありき)、一二九五年に死す。註釋者曰、カールはフランスより歸り來れるその兩親に會はんため、一二九四年の始めナポリよりフィレンツェに赴き少時かしこに滯在せることあればその際ダンテと相識るにいたりしならんと
三四―三六
【君達】principi 天、二八・一二五にいづる principati と同じ天使諸階級の一にして金星天を司る者
【圓を一にし】共に圓を畫きて轉ること、空間を表はす
【※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉を一にし】共にめぐりて永遠に亘ること、時間を表はす
【渇を一にし】神を慕ふ心、衷なる情を表はす
三七―三九
【汝等了知をもて】『コンヴィヴィオ』第二卷の始めに出づる第一カンツォネの起句、この解同書二・六・一五一以下に見ゆ
但し、金星天を司る天使、『コンヴィヴィオ』にては principati に非ずして troni なり(天、二八・九七―九註參照)
【少時しづまるとも】神の愛と同胞の愛との相矛盾せざることを表はす(フィラレテス Philalethes)
四〇―四二
ダンテはかの靈と語らん爲その許をば目にてベアトリーチェに請へるなり
四三―四五
【約しゝ】三二―三行
四六―四八
【新たなる喜び】問者に答へてこれに滿足を與へ己が愛を現はすをうるの喜び(天、五・一三〇以下參照)
四九―五一
【もし】我もし長命なりしならば、今より後に起らんとする多くの禍ひは、未發に防ぐをえたりしものを
カーシーニ曰く。こゝにいふ禍ひは、ラーナの説によれは貪慾なるロベルトの惡政を指し、オッチモの説に從へばアンジュー方とアラゴン方とのシケリア爭奪戰を指す、されど恐くはダンテは或る一の確たる事實を指せるにあらで、シャルル二世及びロベルトの下《もと》にナポリ王國を苦しめし種々の禍ひを總括していへるならむと(七六行以下參照)
五二―五四
光のわが身を隱すこと、繭の蠶をかくすごとし
五五―五七
【葉のみに】さらに深き根強き愛を表はせるならむ
ダンテはマルテルに對し深き敬愛と大いなる希望とを懷きゐたりと見ゆ、されど兩者の關係については定かなること知り難し、マルテルが金星天にある理由も恐くはたゞダンテのみよくこれを知れるならむ
五八―六〇
【左の岸】プロヴァンス。ローン河の東にある伯爵領地、ソルガはアヴィニオン附近にてローンに合する小川の名
プロヴァンスはカルロ一世の代にナポリ王の所領となれるものなれば(淨、七・一二四―六註及び淨、二〇・六一―三註參照)シャルル二世の死後は當然マルテルに屬すべきなりき
【時に及びて】シャルル二世は一三〇九年に死せり、マルテル早世してこの時[#「時」に白丸傍点]を見ず
六一―六三
ナポリ王國もまたマルテルの君臨を望みゐたり
【バーリ】アドリアティコ海邊の町
【ガエタ】チルレーノ海邊の町
【カートナ】カーラブリア州の南端の村
【際涯を占め】s'imborga カーシーニの説に、borghi は中古、市の境に列なれる家屋の意に用ゐたればこゝにてはこれらの町々がナポリ王國の際端にあるをいへるならんとあるに從ひてかく
【トロント】マルケとナポリとの境を流れてアドリアティコ海に注ぐ河
【ヴェルデ】ガリリアーノ河のこと(淨、三・一三―三二註參照)
【アウソーニア】イタリアの古名(ウリッセの子アウソネに因みて呼べる)。アウソーニアの角《つの》とはイタリア南方の一端なるナポリ王國を指せる也
マルテル一男二女を殘し父に先立ちて死す、而してシャルル二世の死後、マルテルの弟(即ちシャルルの第三男)ロベルトはマルテルの子カルロ・ロベルト(一三四二年死)を斥けてナポリ王國の權を握れり(一三〇九年)
六四―六六
マルテルがハンガリア王冠を戴けること
マルテルの母マリアはハンガリア王ラヂスラーオ四世の姉妹なり、一二九〇年ラヂスラーオ死して嗣子なくマルテルその王冠を受く
【ダヌービオ】ダニューブ。ドイツより起りてハンガリアを貫流する大河
六七―七五
我またシケリアに君たりしならむ、この國惡政に苦しみてその主權に背き、遂にフランス人の覊絆を脱するにいたらざりせば
【灣】カターニア灣。東風(エウロ)最も多し
【パキーノ】シケリア島東南端の岬、今カーポ・パッサーロといふ
【ペロロ】同東北端の岬、(今のカーポ・ファーロ)
【ティフェオ】或ひはティフォ(地、三一・一二四)、ゼウスの電光に撃たれシケリアに葬られし巨人、その頭エトナ山下にありて口より火焔を吐出す(オウィデウス、『メタモルフォセス』五・三四六以下參照)
【トリナクリア】Trinacria シケリアの古名(三の岬あるより呼べるギリシア名、三の岬とは前出パキーノ、ペロロの二と、島の西方にあるリリベオ即ち今のカーポ・マルサーラの岬とを指す)
【カルロとリドルフォ】父(或は祖父)のカルロと外舅ルドルフの子孫我より生れて
マルテルの妻クレメンツァは皇帝ルドルフ(淨、七・九四―六參照)の女なり
【虐政】アンジュー家の
【パレルモ】シケリアの首都にて、かの有名なるシケリアの虐殺(一二八二年)の始まれるところ。この虐殺の後シケリアはアンジュー家を離れてアラゴン家に歸せり
【死せよ】フランス人に對する群集の叫び
七六―七八
【わが兄弟】弟ロベルト(ルイ)シャルル二世自由の身となりし時(淨、二〇・七九―八一並びに註參照)、その第三子ロベルト(ルイ)は兄のルドヴィコ(ルイ)と共にアラゴン方《がた》の人質となりて一二八八年より同九五年までカタローニア(イスパニアの)に止まれり、この幽閉の間ロベルトは多くのカタローニア人と交りを結び、一三〇九年ナポリ王となるに及びて彼等をかしこに招きかつ重くこれを用ゐぬ、しかるに彼等強慾にして民を虐げしかば、民心アンジュー家を離るゝにいたれり
【豫めこれを】虐政の臣民に及ぼす結果如何を、王位に即かざる先に知りたらんには
マルテルはロベルト即位後の非政及びその結果を豫知してかくいへるなり
七九―八一
【彼にても】ロベルト自身かまたはその親戚知友等
【荷の重き彼の船】ロベルトの貪欲の爲既に重き負擔に苦しむかの三國
【さらに荷を】廷臣等の貪慾によりてその負擔をさらに重くする莫らん爲
八二―八四
【物惜しみせぬ性】父シャルル二世の。シャルル二世がその女ベアトリスをフェルラーラの君に與へて莫大の金をえしこと淨火篇(二〇・七九―八一)に見ゆ、さればこゝにては單にその子ロベルトと此していへるか、或はシャルルに貪慾と寛仁の相混れる性あるをいへるか明ならず、なほ言者がシャルルの子なるを思ふべし(ムーアの『ダンテ研究』第二卷二九三―四頁參照)
八五―九〇
汝の言の我に與ふる喜びは汝自らの(これを神の鏡に映《うつ》して)知るところなるを信ずるによりて愈※[#二の字点、1−2−22]深し、而して汝のわが喜びをば神を視てさとることもまたわが悦ぶ所なり。前者は主として明かに友に知らるゝの事實を指し、後者は主として友の知る所以を指す、但し九〇行の il の意明らかならざるがゆゑに異説あり
【一切の善の】一切の善の本末なる神によりて
九一―九三
【苦き物】良き種より惡しき果の生ずる如く、良き父より惡しき子の生るゝをいふ
九四―九六
【顏を】顏を向くるはその事、前に現はれて知るゝなり、背をむくるは後にかくれて知れざるなり
九七―九九
生るゝ者の性情はたゞ生む者の性情によるのみならず、また諸天の力を受くるものなる事をいはん爲、以下一一一行まで、神の攝理が星辰の力となりて萬物にその影響を及ぼし、神の豫め立て給ふ目的《めあて》に向つて進むを論ず
【善】神。神は諸天運行の本にてまたその悦びの始なり
【大いなる物體】神の攝理は諸天において一種の力となり、この力諸天を通じて人間及び他の被造物にその影響を及ぼす
一〇〇―一〇二
神はたゞ自然の諸物の存在を定め給ふのみならず、またその安寧をも定め給ひ、諸物皆秩序を保ち健全にかつ永續して神の立て給ふ目的《めあて》にむかふことをえしむ
【自ら完き意】神意。被造物の完きは自ら完きに非ず、神によりて完きなり
一〇三―一〇五
諸天の影響は神の豫め定め給へる目的《めあて》に達せんがため諸物に及び、あたかも狙ひ放たれし物の、的に向ひて進むごとし
一〇六―一〇八
若し諸天の影響にかゝる目的なくその働き偶然ならば、その結果萬物の間に調和なく美なく、自然は渾沌に歸するあるのみ
一〇九―一一一
諸天の働きもしかく盲目的なりとせば、こは諸天を司る諸天使(諸ての智[#「諸ての智」に白丸傍点])の不完全に歸せざるをえず、諸天使もし不完全なりとせば、こは彼等を不完全なる者に造り宇宙の秩序を保つに堪へざらしめし神の不完全に歸せざるをえず、而してこはありうべき事ならじ
一一二―一一四
【自然】諸天の働き
一一五―一一七
以下一二六行まで、神の攝理が世人の福祉と一致すること。即ち人は皆社會の一員なれば、各※[#二の字点、1−2−22]その性情傾向及び才能を異にし從つてその職分を異にするを論ず
【一市民たらずは】一社會を形成して互ひに扶助することをせず孤獨の生を營まば
【問はじ】問はずして明らかなれば
一一八―一二〇
【汝等の師】アリストテレス。『倫理學』及び『政治學』の諸處に(『コンヴィヴィオ』四・四・四四以下參照)
一二一―一二三
【業の根】行爲の本なる性情傾向
一二四―一二六
【ソロネ】ソロン。有名なるアテナイの立法家にしてギリシア七賢の一なり(前七世紀)
【セルゼ】ペルシアの武將(淨、二八・七〇―七二並びに註參照)
【メルキゼデク】舊約時代の祭司長(創世、一四・一八)。サレム王メルキゼデクが祭司の典型として重きをなす所以ヘブル書(七・一以下)に見ゆ
【わが子を失へる者】工匠の典型としてダイダロスを擧ぐ(地、一七・一〇六以下並びに註參照)わが子[#「わが子」に白丸傍点]は即ちイカルスなり
一二七―一二九
以下一三五行まで、諸天の影響はよく人界に及びてさま/″\の性向を生ずれども種族家系等の區別を立てざるが故に父子同じからざることあり、要するに是皆神の攝理にもとづくものなるを論ず
一三〇―一三二
【エサウはヤコブと】エサウとヤコブ(ジャコッベ)とは共にイサクの子にて雙生《ふたご》の兄弟なりしもその生得の性(種[#「種」に白丸傍点])同じからず、エサウは獵を好みて野の人となり、ヤコブは平和を愛して天幕に住めり(創世、二五・二一以下
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