メ倶に非なり
【黄の百合】フランス王家の紋章、青地に三の金の百合
【公の旗】全帝國の旗なる「鷲」
一〇三―一〇五
ギベルリニは己が野心を滿たすに當りて鷲の旗を用ゐるべからず、この旗は正義を世に布く爲の物なれば、ギベルリニの如く不正不義の爲にこれを用ゐるは、即ちその神聖を汚すなり
一〇六―一〇八
シャルルはその率ゐるグエルフィと共にローマの帝業を地に倒さんとするごとき非望を抱かず、彼シャルルよりもさらに強き君主等を征服したる帝國の力を恐るべし
【新しきカルロ】アプリア王シャルル(カルロ)二世(淨、二〇・七九―八一註參照)。新し[#「新し」に白丸傍点]といへるは九六行のシャルルマーニュ(カルロマーニオ)に對してなり
【爪】鷲の爪即ち帝國の力
一〇九―一一一
【子が】彼その非行を改めずは報《むくい》或ひは子に及ばむ。シャルルの多くの子の中、父のために禍ひをうけし者ある意を含む、されど誰を指し何を指しゝや明ならず
【紋所】鷲の。この紋所は神がその定め給ふところによりて地上平和の使命を帶ぶる帝國の徴號《しるし》なれば
【變へ】「鷲」廢れて「百合」のみ殘ること、即ち帝國の大權シャルル一家に移ること
一一二―一一四
【小さき星】水星(天、五・一二七―九註參照)
一一五―一一七
人その最大の目的を離れて地上の榮耀を望む時は、神の愛必ず減ず。眞の愛[#「眞の愛」に白丸傍点]とは神に對する愛を指す
一二一―一二三
われらは神の過不足なき應報を知るが故に、情清く、さらに大いなる福をえんと願ひまたはこれを受くる者を嫉むが如きことたえてなし
一二四―一二六
【下界にて】〔giu`〕『ダンテ學會版』にこの一語なし(Diverse voci fanno dolci note)
【さま/″\の座】天上の福に種々の階級あり、階級によりて諸靈の音異なれども皆よく相和して一美妙の調を成す
スカルタッツィニは、こは思ふに諸天の和合音【天、一・七六―八參照)を指せるならんといへり、樣々の福はさま/″\の天に現はさるればなり
一二七―一二九
【眞珠】さきには月を指してかくいへり(天、二・三四)。水星
【ロメオ】註釋者曰。ロミュー・ド・ヴィルヌユーヴ(ロメオ)の實説左の如し、ロミューはプロヴァンスの伯爵レーモン・ベランジェ四世の執事なり、一二四五年レーモン死せる時その領地を司どりて伯の末女ベアトリス即ちシャルル・ダンジュー一世の妻となりし(淨、七・一二七―九註參照)者の後見となり、一二五〇年プロヴァンスに死す。されどダンテ時代の傳説(特にヴィルラーニの記録)によればロミューは生れ賤しき一巡禮者なり、彼レーモン伯の徳を傳聞してこれに事へその擢拔を受けて財政を整理し他の收入大いに増加す、彼また伯の四人の女をして悉く王妃とならしめ誠心誠意その主の爲を謀れるもプロヴァンスの貴族等の讒にあひて伯の許を去る、而して何人もその行方《ゆくへ》を知らずと
ロミューが何故に水星天にあるやは明かならず、スカルタッツィニは謙讓による功名家(umili ambiziosi)の一例なるべしといへり
一三〇―一三二
【笑】ロミューを陷るゝも何等利する所なきをいふ、プロヴァンスは温和なるレーモンの手より苛酷なるシャルル・ダンジュー一家の手に移りたればなり(淨、二〇・六一以下並びに註參照)
【他人の】或は、「他人の善行を己が禍ひに轉ずる(人の善行を見妬み誹りて自ら罪に陷る)者は」
一三三―一三五
【王妃】長女マルグリットはフランス王ルイ九世に、次女エレオノールはイギリス王ヘンリー三世に、三女サンシヤは同ヘンリーの兄弟にてローマ人の王となれるリチャードに、末女ベアトリスはシャルル・ダンジュー一世に嫁す
【賤しき】或は、「謙讓の」
【放客】註釋者曰。romeo は巡禮者特にローマへの巡禮者の意なれば、このロメオを巡禮者となすの説出でしなりと(岩波文庫版ダンテ『新生』一〇〇頁參照)
一三六―一三八
讒者の言によりてロミューの誠實を疑ひ、收支の決算を求む、しかるに決算に及びその資産のかへつて膨脹しゐたるを知れり
一四二
【ほむべし】衣食の爲に志を屈せず逆境に處して亂れざる。ダンテが自己の境遇にひきくらべ、ユスティニアヌスの口を藉りてかくいへることいふまでもなし


    第七曲

ユスティニアヌスの靈去りて後、ベアトリーチェはダンテの爲に、キリストの死、十字架の贖、及び靈魂の不滅を論ず
一―三
【オザンナ】神を讚美する語
【火】諸天使及び諸聖徒
四―六
【二重の光】神の光と己が光(一―三行)。或ひは曰、皇帝と立法者との光を指すと
【聖者】sustanza(主要の本質即ち靈)、ユスティニアヌスの靈を指す
一〇―一二
【甘き雫】眞理の滴
一三―一五
されどたゞ淑女の名の一部を聞きてさへわが心に湧く畏敬の念はわが頭《かうべ》を壓し、我をしてこれを擧げて敢て彼女に問ふ能はざらしむ
一六―一八
【火の中】(淨、二七・五二以下參照)
一九―二一
【正しき罰】ユスティニアヌスのいへること(天、六・八八―九三)
二五―二七
【生れしにあらざる】神の直接に造り給へる人即ちアダム
【己が益なる】意志の銜(禁斷の果《このみ》に就いて意志の上に神の加へ給ひし制限)に堪ふれば己が益なるを、しかせずして
二八―三〇
【迷ひ】正路を失ふこと
【幾世の間】淨、三三・六一―三並びに註參照
【神の語】キリスト(ヨハネ、一・一以下)
三一―三三
【その永遠の】たゞ聖靈のはたらきにより(魔女の懷胎に於ける)
【性】人性
三四―三六
【己が造主と】キリストのうちなる人性は、個性としては、創造時の如く至純至善なりしも
三七―三九
全人性の上より見れば、始祖の禍ひを受けて刑罰に價す
【眞理の道と】眞の道眞の生命なる神を離れ
四〇―四五
キリストの中なる人性は罰すべし、神牲は犯すべからず
四六―四八
さればキリストの磔殺といふ一の行爲よりこの結果生じたり、(一)神は人類の罪の贖はるゝによりてこれを喜び給ひ、ユダヤ人は己が怨みのはれしによりてこれを喜べり、前者は正義にもとづき後者は嫉みにもとづく、而してこの死によりて地は震ひ(マタイ、二七・五一)、天は聖者の爲に開けぬ
四九―五一
【正しき法廷】ティト。イエルサレムを毀ちて仇をユダヤ人に報いしがゆゑにかくいへり(淨、二一・八二以下並びに註、及び天、六・九一―三並びに註參照)
五二―五四
【※[#「(米/糸)+頁」、第4水準2−84−60]】疑ひ
五五―五七
【方法】キリストの死
五八―六〇
經驗によりて神の愛を知りよく天上の事物に通ずる者にあらざれば、奧妙なる贖罪の理をさとる能はじ
六一―六三
【目標】贖罪の教理
六四―六六
【嫉み】livore 愛に反する凡ての情を指す
【あらはす】その徳を一切の被造物の中にあらはす
六七―六九
直接に神の善より滴るもの即ち神が自然を介せずして直接に造り給へる物は永遠に存在す、これ神の御手の業《わざ》は不朽不變なればなり
七〇―七二
神の直接に造り給へる物はまた全く自由なり、これ神以外のものゝ影響に從屬せざるによる
【新しき物】第二原因(第一原因なる神に對して)、變化するがゆゑに新しといへり
但しこゝに所謂直接の被造物のうちには、天、二九・三四にいづる「純なる勢能」を含まずと見ゆ
七三―七五
神の直接に造り給へる物は神に最も近きがゆゑにまた最も神意に適ふ
【聖なる焔】即ち神の善、神の慈愛の光
七六―七八
【これらの】不死、自由、神に似ること
七九―八一
【自由を奪ひ】惡を行ふ者は罪の奴隷なり、自由なし(ヨハネ、八・三四)
八二―八四
【空處を】、罪の爲に失へるものを再び得るに非ざれば
八五―八七
【種子】祖先、即ち始祖アダム
九一―九三
【淺瀬】罪より神恩に歸る道。この道二あり、(一)神がたゞその慈愛によりて赦し給ふか、(二)人自らその罪を贖ふか、是なり
九四―九六
【永遠の】神慮の奧深きところを見よ
九七―一〇二
人が神の如くならんと(創世、三・五)欲して神命に背けるは是無限の僭上なり、無限の僭上は無限の謙遜によりてはじめて贖はる、しかるに人は有限にして不完全なる者なるがゆゑに、いかなる謙遜いかなる從順を以てすとも始祖の僭上始祖の悖逆を償ふに足らず、從つて自らその罪を贖ふの力なし
一〇三―一〇五
【己が道】慈悲と正義の二道
【その一か】慈悲のみによるか
一〇六―一一一
すべて行爲はその源なる心の善を現はせばあらはすほど他の者を悦ばすがゆゑに、宇宙萬物に愛の光を注ぎ給ふ神は、汝等人間をば昔の尊さに歸らせんため、その道を盡すをよしとし給へり
一一二―一一四
世の始め(最始の晝[#「最始の晝」に白丸傍点]、即ち神が光を造り給へる日)より世の終り即ち最後の審判にいたるまでの間に、贖罪の如く尊き業《わざ》は、慈悲によりても正義によりても爲されじ。贖罪は空前にして絶後なる神の尊き御業《みわざ》なり
一一五―一一七
【神は】神は人類をその墮落より救はんため人の肉體に宿りて苦しみを受け給ひ
一一八―一二〇
【正義に當るに】神の正義にふさはしき贖ひをなすに
一二一―一二三
以下滅するものと滅せざるものとの別を説く
【溯りて】六七―九行にいへること
一三〇―一三五
諸天及び天使は今現にあるごとき完全なる状態において直接神に造られしものなれば滅びず、されど地水火風の四原素及びその化合より成る一切の物は他の力によりて形成せらるゝものなるがゆゑに滅ぶ
【造られし力】神の直接に造り給へる力、第二原因、星辰の影響
一三六―一三八
地水火風の材となる物質、及びこの四原素の周圍を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉する星辰が物を形成する力は、ともに直接の被造物なり
【とゝのふる力】〔virtu` informante〕 特殊の存在を保たしむる力(不滅の物質を材として地水火風及び其他の物を形成しこれに各※[#二の字点、1−2−22]その性質を保たしむる如き)
一三九―一四一
【聖なる光】星辰
【これとなりうべき原質】complession potenziata 星辰の影響により、集合して禽獸草木の魂と成るの可能性を有する物質
一四二―一四四
汝等人間の魂は神の直接に造り給へる物なれば滅びじ、而して神はこの魂に神を愛するの愛を與へ、これをして常に神と結ばんことを求めしむ(淨、二五・七〇以下及び『コンヴィヴィオ』三、二・五六―九參照)
一四五―一四八
神の直接に造り給へる物は不滅なりとの原則より推して、人の肉體の甦をも信ずるをえむ、神がアダム、エヴァを造り給へる時はその肉體をも直接に造り給へるなれば(創世、二・七)、たとひ罪の爲死とともに滅ぶとも最後の審判の日至れば再び魂と結ばれてその不朽の衣とならむ


    第八曲

ダンテ、ベアトリーチェと金星天にいたり、世にて戀の炎に燃えし多くの靈を見る、その一カール・マルテル、ダンテを迎へこれと語りて人の性情の相異なる所以を陳ぶ
一―三
【危ふかりし】異教の神々を奉じ、永遠の刑罰を蒙るの恐れありし昔
【チプリーニア】戀の女神アプロディテ(ウェヌス・ヴェーネレ)、キュプロス島に生立ちしよりこの異名あり。金星
【エピチクロ】大圈の周邊に中心を有する小圈。プトレマイオスの學説によれば諸遊星は東より西にめぐる外、二の固有の運動を有す、その一は即ちその軌道の周邊(その天の赤道)に小圈を畫きつゝ西より東に※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]るものにて、この小圈をエピチクロといふ(ムーア『ダンテ研究』第三卷三四頁以下參照)、第三のエピチクロは月より數へて第三の星即ち金星(昔の天文による)のそれなりと知るべし(圖解中太陽以外の星の周圍の點線はエピチクロなり)
七―九
【ディオネ】オケアヌとテティス(共に古の神の名)の間の女。アプロディテはゼウスとディオネの間の女なり
【クーピド】エロス。アプロディテの子にて戀の神なり
【ディドの膝】『アエネイス』一・六五七以下に、ヴェーネレ(アプロディテ)がアエネアスに對する戀の火をディド(地、五・六一―三註參照)の胸
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