Aその一ピッカルダ・ドナーティ、ダンテに己が身の上の事と皇妃コンスタンツェの事とを告ぐ
一―三
【さきに】世にて(淨、三〇・三四以下參照)
【日輪】ベアトリーチェ
一六―一八
【人と泉】泉に映れる己が姿を戀慕へるナルキッソスの傳説を指す(地、三〇―一二七―九註參照)
【誤りの裏】ナルキッソスは影を實物と思ひ誤り、ダンテは實物を影と思ひ誤れり


二二―二四
【光】目の
二五―二七
【汝の足は】汝の思ひは眞理を基礎とせず、たゞ官能に信頼するがゆゑに誤り易し
二八―三〇
【こゝに】聖徒はすべてエムピレオの天にあり、たゞその受くる福の一樣ならざるをダンテに示しかつこれに天上の眞を教ふる便宜上かりに諸天にわかれて詩人の目に現はれしに過ぎず(天、四・二八以下參照)
【長の】影ならぬ
三一―三三
【光】神。眞の光を離るとは眞そのものにまします神を離れて眞にあらざることをいふ義
三四―三六
【最も切に】俗縁の關係上(淨、二三・四六―八註參照)
【魂】フォレーゼ及びコルソ・ドナーティ(淨、二四・八二―七註參照)の姉妹ピッカルダ
【願ひ】ダンテにおいてはピッカルダと語るの願ひ
三七―三九
【甘さ】天上の悦び
【永遠の生命の光によりて】神の光を仰ぎ見て
四三―四五
【己が宮人達】すべて天堂に福を受くる者
【等しきをねがふ】愛は神の愛なり。神は愛にましまし天堂擧りて己の如く愛に燃えんことを願ひ給ふ
四六―四八
【尼】vergine sorella(童貞尼)聖キアーラ(九七―九註參照)派の此丘尼
四九―五一
【球】月天。古説によれば最小の天にしてその運行最遲し
五二―五四
我等はたゞ神がその聖旨《みむね》のまに/\われらに與へ給ふ福をのみ求むるが故に、神の立て給ふ秩序に從つていかなる程度の福を享くともこれに滿足せざることなし
六四―六六
【さらに多く見】さらに多く天上の福を見かつその福をうくる魂のうちに友をうるを求むること
但し、〔piu` vedere〕 を近づきて神を見るの意とし、〔piu` farvi amici〕 をいよ/\神と親しむの意とする人多し
スカルタッツィニは amici を前後に通はしめ、前者を舊友と再會する意に、後者を新らしき友を得る意に解せり
七〇―七二
【愛の徳】愛は嫉まず(コリント前、一三・四)
七六―七八
【性】聖徒を完全に神意と適合せしむるものは愛なり
七九―八一
【一となる】神の聖意《みこゝろ》と
八二―八四
【諸天】di soglia in soglia(soglia=soglio)座より座に、即ち天また天と
【王】神。われらの意《こゝろ》を聖意《みこゝろ》と適合するにいたらせ給ふ
八五―八七
神の直接または間接(即ち自然を通じて)に造り給ふ宇宙萬物は、その終局の目的、福祉の本源(平和)なる神を望み神に合せんとして進む、ゆゑに神はさながら諸水の四方より注ぎ入る大海に似たり
八八―九〇
いかなる天にある者もみな福を受く、たゞ己が功徳に從ひ、そのうくる福に多少あるのみ
九四―九六
【姿、詞に】動作と言葉とにより。ピッカルダに、その教へを垂れしを謝し、かつ新なる教へを請へり
【いかなる機を】その全うせざりし誓ひの何なるやを聞かんとて
九七―九九
【淑女】聖キアーラ(一一九四―一二五三年)。アッシージの人、同郷の出、聖フランチェスコの高徳を慕ひて遁世しかつその助言を受けて一二一二年童貞院の基を開きその規約を定む
一〇〇―一〇二
【新郎】キリスト(マタイ、九・一五等)。これと起臥を倶にするは、晝夜のわかちなくキリストに奉仕するなり
一〇三―一〇五
【また】またその嚴正なる規約を守りて一生を送らんと誓ひたり
一〇六―一〇八
【人々】ドナーティ家の人々、特にピッカルダの兄弟コルソ
古註によれば、コルソは他の人々と共に尼寺の中に忍び入りてピッカルダを奪ひ、これをフィレンツェの人ロッセルリーニ・デルラ・トーザに嫁《とつ》がしめたりといふ、但し眞僞明らかならず
一〇九―一一一
【すべての光】月天にて最強き光。月天の諸靈のうち徳最も大いなればなるべし
一一二―一一四
【聖なる首※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]】尼のしるしの面※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]
一一五―一一七
【良き習】比丘尼の還俗を許さざる
【心の面※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]を】心はいつも尼にてありたり
一一八―一二〇
【ソアーヴェ】シュヴァーベン、ドイツ西南の一州。ホーエンシュタウフェン王家こゝより出づ
【第二の風】ホーエンシュタウフェン王家の第二の君即ちハインリヒ六世。第一の風はフリートリヒ一世にて第三の風はフリートリヒ二世なり。ブランク(L.G.Blanc)の説によればこれを風といへるはシュヴァーベン家の諸帝の權力猛くして而して永く續かざることあたかも一陣の暴風に似たるがゆゑなり、但し異説多し
【最後の威力】威力は皇帝の意なるべし、最後[#「最後」に白丸傍点]といへるは、その後皇帝なきにあらざりしも實これにともなはざればなり
【コスタンツァ】コンスタンツェ。シケリアの最初の王ロージエーロ(ルツジエーロ)の末女、一一五四年に生れ、同八五年皇帝ハインリヒ六世の妃となりてフリートリヒ二世を生み、一一九八年に死す
傳説に曰。コンスタンツェ尼となりて久しく尼寺のうちにあり、皇帝フリートリヒ一世これをわが子ハインリヒ六世の妃とし、この結婚によりてシケリアを己が帝國の領土に加へんため、密かに謀りて強ひて尼寺を去らしむ云々、但しこの説今は虚構と認めらる(ムーア『ダンテ研究』第二卷二七六頁參照)
一二一―一二三
【アーヴェ・マリーア】(マリアよ幸《さち》あれ、ルカ、一・二八にいづる天使の詞)、聖母にさゝぐる祈りの歌
一二四―一二六
【願ひの目的】ベアトリーチェ


    第四曲

ダンテの二の疑ひに對し、ベアトリーチェは、人の魂星に歸るといふ古説の非を辯じ、かつ意志の自由を説く、ダンテまたさらに一の疑ひを擧げて淑女の教を乞ふ
一―三
トマス・アクイナスの『神學大全』(一、二、一三・六)に據れり。ピッカルダの言は二つの疑問をダンテの心に起し、等しくその解答を求めしがゆゑにダンテ選擇に惑ひて問ふこと能はざりきとなり、次聯の例また同じ、オウィディウスの『メタモルフォセス』(五・一六四以下)に饑ゑたる虎の譬へあるなど思ひ合はすべし
【自由の人】自由の意志を有し、いづれをも選ぶをうる人
四―六
【犬】何れを逐ふべきか知らずして
一三―一五
【ナブコッドノゾル】ネブカドネザル。バビロニアの王なり、嘗て夢の爲に心をなやまし、所の智者等を召して夢とその解釋《ときあかし》とをともに奏せと命じ、かれらの答ふる能はざるを見、怒りのあまり悉くこれを殺さんとす、ダニエル(ダニエルロ)異象により一切を知りて王に奏し、智者等を救ふ(地、一四・一〇三―五註參照)
ベアトリーチェがダンテの言を俟たずしてその疑ひを知りかつこれを解きてその心をしづめしこと、猶ダニエルが王に問はずしてその夢を知りかつこれをときあかしてその怒りをなだめしごとし
一九―二一
誓ひを果さんとの意志だに變らずば、たとひ他人の暴虐にあひてその志を全うせずとも、罪その人に歸せざるに似たり
二二―二四
プラトンの言に、人の魂は星より出でゝ肉體に宿り、死とともに再び星に歸るとあり、汝も現に魂星にあるを見て、この言を或ひは正しかるべしと思へり
二五―二七
【毒多き】キリスト教の信仰に反すれば
二八―三〇
【セラフィーン】(複數)セラピム、諸天使中最も高貴なるもの(イザヤ、六・二參照)
【モイゼ】モーセ。舊約時代の偉人(地、四・五・五―六三參照)
【サムエール】サムエル。ヘブライ民族最後の士師にてヘブライ王國の建設者たり(サムエル前、一・二〇以下)
【いづれを】キリスト十二弟子の一なるヨハネにてもパブテスマのヨハネにても
三一―三六
諸天使諸聖徒皆エムピレオの天にあり、福の度異なれども、存在の永遠なるは一なり
【永遠の聖息】神よりいづる福。福の度異なるはこれを享くる者の力異なるによる
四〇―四二
【かく】具體的に
【後智に】人は靈的事物を直に智に訴へてさとり難し、その事物まづ具體化して官能に訴へ官能はこれが印象を想像に想像はこれを智に傳へ智はたらきてはじめてさとる
【官能の作用】sensato 官能的物象即ち官能の捉ふる物象の義
四三―四五
【手と足】或ひは神の手(歴代志略下三〇・一二等)といひ或は神の足※[#「登/几」、第4水準2−3−19](イザヤ、六六・一等)などいへるも、たゞ靈的事物を具體化せるに外ならず
四六―四八
【ガブリエール】ガブリエル。天使の長(ダニエル、八・一六及びルカ、一・一九等)
【ミケール】ミケル。同天使の長(地、七・一〇―一二註參照)
【トビアを癒しゝ天使】敬虔なるイスラエル人トビアの目を癒しゝ天使の長ラファエル(トビア、三・二五)
四九―五一
【ティメオが】プラトンがその『ティマエウス』と題する對話篇に
ティマエウス(ティメオ)はピュタゴラス派に屬するギリシアの哲人にてプラトンの友なり
ダンテ時代にカルチディオのラテン譯ありきといふ、恐らくはダンテこれによりて『ティマエウス』を知りゐたるならむ
【似ず】月天に現はるゝものは靈界の眞理の具體的表示にて、ティマイオスの意はその詞の文字通りなりと思はるれば
五八―六〇
もし星に歸るものは魂その者に非ずして、その星の影響の譽や毀なりとの意ならば、換言すればもし諸※[#二の字点、1−2−22]の星の力、肉に宿れる魂に及び、これをして或ひは善に或ひは惡に向はしむとの意ならば、その言に幾許の眞理あらむ
【矢】原、【弓】
六一―六三
【この原理】星の影響の
【ジョーヴェ、メルクリオ】神話の神々の名、人々星辰の影響を過重視するの餘り、その信ずる神々の力、星にありとし、その名を星に附するにいたれり。たとへば火星に武徳ありとしてこれに軍神アレス(マルテ)の名を附し金星に戀愛の徳ありとしてこれに戀愛の女神アプロディテの名を附しゝがごとし
【名づけしむ】或星をジョーヴェ、或星をメルクリオ、或星をマルテと
六四―六六
【我】神學の象徴としてのベアトリーチェ、即ち眞《まこと》の信仰
六七―六九
神の正義(審判)は奧妙にして量るべからず(ロマ、一一・三三)されば人間の目に不正とみゆとも、こは寧信仰に進むの一階段にて異端に導くの道にあらず、何となれば、不正と見ゆるは奧妙不測のしるしにて、奧妙なりと知るは信仰に入るの本《もと》なればなり
【われらの】天上の
【過程】argomento 今スカルタッツィニの註解にもとづきて假にこの語を用ゐたり、異説或は「證《あかし》」の義とし或は「議論」(問題)の意とす、委しくはスカルタッツィニの註を見よ
七三―七五
眞《まこと》の暴《あらび》とは、虐げらるゝ人これがためにいさゝかもその意志を屈せざる場合にのみ生ず、意志は他人の左右し能はざるものなればなり、ピッカルダ、コンスタンツェのごとき、これ眞の暴にあへるにあらず、從つてこれを理由としてその罪をいひひらく能はざるなり
七六―七八
【火が】火はいく度これを下方に向はしむともその本然の力によりて必ずまた上方に向ふごとく
七九―八一
【聖所】尼寺。身は強ひて聖所より引離さるとも、意志だに屈せずは、他人の抑壓を脱するとともに再び聖所に歸るべきなり、歸るをえて而して歸らざるはその意志の屈せるなり、罪茲にあり。但しいつ、いかに歸るをえしやは明ならず
八二―八四
【ロレンツォ】聖ラウレンティウス。皇帝ヴァレリアヌスの迫害の犧牲となりて鐡架の上に燒かれ自若として死せる(二五八年)ローマの殉教者
【ムツィオ】ローマの一青年カイウス・ムキウス・コルドゥス・スカエヴォラ。エトルリア王ポルセナを殺してローマの危急を救はんとせしも果さず、その失敗の罪を己が右手に歸し、王の目前にて自らこれを燒けり(『コンヴィヴィオ』四、五・一一五以下參照)
八八―九〇
【疑ひは……解け】原、「論は消滅し」
九一―九三
【路
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