tの一部が光において殘るすべての頂に勝ちゐたるを見たり 一二一―一二三
またたとへば、フェトンテのあつかひかねし車の轅《ながえ》の待たるゝ處はいと強く燃え、そのかなたこなたにては光衰ふるごとく 一二四―一二六
かの平和の焔章旗《オリアヒアムマ》は、その中央《たゞなか》つよくかゞやき、左右にあたりて焔一樣に薄らげり 一二七―一二九
しかしてかの中央《たゞなか》には、光も技《わざ》も各異なれる千餘の天使、翼をひらきて歡び舞ひ 一三〇―一三二
凡《すべ》ての聖者達の目の悦びなりし一の美、かれらの舞ふを見歌ふを聞きてほゝゑめり 一三三―一三五
われたとひ想像におけるごとく言葉に富むとも、その樂しさの萬分一《まんぶいち》をもあえて述ぶることをせじ 一三六―一三八
ベルナルドは、その燃ゆる愛の目的《めあて》にわが目の切《せち》に注がるゝを見て、己が目をもいとなつかしげにこれにむけ 一三九―一四一
わが目をしていよ/\見るの願ひに燃えしむ 一四二―一四四
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第三十二曲
愛の目を己が悦びにとめつゝ、かの默想者《もくさうじや》、進みて師の役《つとめ》をとり、聖なる言葉にて曰《い》ひけるは 一―三
マリアの塞《ふさ》ぎて膏を《あぶら》ぬりし疵――これを開きこれを深くせし者はその足元なるいと美しき女なり 四―六
第三の座より成る列の中、この女の下には、汝の見るごとく、ラケールとベアトリーチェと坐す 七―九
サラ、レベッカ、ユディット、及び己が咎《とが》をいたみて我を憐みたまへ[#「我を憐みたまへ」に白丸傍点]といへるその歌人《うたびと》の曾祖母《そうそぼ》たりし女が 一〇―一二
列より列と次第をたてゝ下に坐するを汝見るべし(我その人々の名を擧げつゝ花片《はなびら》より花片と薔薇を傳ひて下るにつれ) 一三―一五
また第七の段《きだ》より下には、この段にいたるまでの如く、希伯來人《エブレオびと》の女達相續きて花のすべての髮を分く 一六―一八
そは信仰がクリストを見しさまに從ひ、かれらはこの聖なる階《きざはし》をわかつ壁なればなり 一九―二一
此方《こなた》、即ち花の花片《はなびら》のみな全《まつた》きところには、クリストの降り給ふを信ぜる者坐し 二二―二四
彼方《かなた》、即ち諸※[#二の字点、1−2−22]の半圓の、空處に斷《た》たるゝところには、降り給へるクリストに目をむけし者坐す 二五―二七
またこなたには、天の淑女の榮光の座とその下の諸※[#二の字点、1−2−22]の座とがかく大いなる隔《へだて》となるごとく 二八―三〇
對《むかひ》が方《かた》には、常に聖にして、曠野、殉教、尋《つい》で二年《ふたとせ》の間地獄に堪《た》へしかの大いなるジョヴァンニの座またこれとなり 三一―三三
彼の下にフランチュスコ、ベネデット、アウグスティーノ、及びその他の人々|定《さだめ》によりてかく隔《へだて》て、圓より圓に下りて遂にこの處にいたる 三四―三六
いざ見よ神の尊《たふと》き攝理を、そは信仰の二の姿相等しくこの園に滿つべければなり 三七―三九
また知るべし、二《ふたつ》の區劃《しきり》を線《すぢ》の半《なかば》にて截《き》る段《きだ》より下にある者は、己が功徳によりてかしこに坐するにあらず 四〇―四二
他人《ひと》の功徳によりて(但し或る約束の下に)しかすと、これらは皆自ら擇ぶ眞《まこと》の力のあらざる先に解放たれし靈なればなり 四三―四五
汝よくかれらを見かれらに耳を傾けなば、顏や稚《をさな》き聲によりてよくこれをさとるをえむ 四六―四八
今や汝|異《あや》しみ、あやしみてしかして物言はず、されど鋭《さと》き思ひに汝の緊《し》めらるゝ強き紲《きづな》を我汝の爲に解くべし 四九―五一
抑※[#二の字点、1−2−22]《そも/\》この王國廣しといへども、その中には、悲しみも渇《かわき》も饑《う》えもなきが如く、偶然の事|一《ひとつ》だになし 五二―五四
そは汝の視る一切の物、永遠《とこしへ》の律法《おきて》によりて定められ、指輪はこゝにて、まさしく指に適《あ》へばなり 五五―五七
されば急ぎて眞《まこと》の生に來れるこの人々のこゝに受くる福《さいはひ》に多少あるも故なしとせじ 五八―六〇
いかなる願ひも敢てまたさらに望むことなきまで大いなる愛と悦びのうちにこの國をを康《やす》んじたまふ王は 六一―六三
己が樂しき聖顏《みかほ》のまへにて凡《すべ》ての心を造りつゝ、聖旨《みむね》のまゝに異なる恩惠《めぐみ》を與へ給ふ、汝今この事あるをもて足れりとすべし 六四―六六
しかしてこは定かに明らかに聖書に録《しる》さる、即ち母の胎内にて怒りを起しゝ雙兒《ふたご》のことにつきてなり 六七―六九
是故にかゝる恩惠《めぐみ》の髮の色の如何に從ひ、いと高き光は、これにふさはしき冠とならざるをえじ 七〇―七二
さればかれらは、己が行爲《おこなひ》の徳によらず、たゞ最初の視力の鋭さ異なるによりてその置かるゝ段《きだ》を異にす 七三―七五
世の未だ新しき頃には、罪なき事に加へてたゞ兩親《ふたおや》の信仰あれば、げに救ひをうるに足り 七六―七八
第一の世終れる後には、男子《なんし》は割禮によりてその罪なき羽に力を得ざるべからざりしが 七九―八一
恩惠《めぐみ》の時いたれる後には、クリストの全き洗禮《バッテスモ》を受けざる罪なき稚兒《をさなご》かの低き處に抑《と》められき 八二―八四
いざいとよくクリストに似たる顏をみよ、その輝のみ汝をしてクリストを見るをえしむればなり。 八五―八七
我見しに、諸※[#二の字点、1−2−22]の聖なる心(かの高き處をわけて飛ばんために造られし)の齎《もた》らす大いなる悦びかの顏に降注《ふりそゝ》ぎたり 八八―九〇
げに先にわが見たる物一としてこれの如く驚をもてわが心を奪ひしはなく、かく神に似しものを我に示せるはなし 九一―九三
しかしてさきに彼の上に降れる愛、幸《さち》あれマリア恩惠《めぐみ》滿つ者よと歌ひつゝ、その翼をかれの前にひらけば 九四―九六
天の宮人《みやびと》達四方よりこの聖歌に和し、いづれの姿も是によりていよ/\燦《きらび》やかになりたりき 九七―九九
あゝ永遠《とこしへ》の定《さだめ》によりて坐するそのうるはしき處を去りつゝ、わがためにこゝに下るをいとはざる聖なる父よ 一〇〇―一〇二
かのいたく喜びてわれらの女王の目に見入り、燃ゆと見ゆるほどこれを慕ふ天使は誰ぞや。 一〇三―一〇五
あたかも朝の星の日におけるごとくマリアによりて美しくなれる者の教へを、我はかく再び請《こ》へり 一〇六―一〇八
彼我に。天使または魂にあるをうるかぎりの剛《つよ》さと雅《みや》びとはみな彼にあり、われらもまたその然るをねがふ 一〇九―一一一
そは神の子がわれらの荷を負《お》はんと思ひ給ひしとき、棕櫚《しゆろ》を持ちてマリアの許《もと》に下れるものは彼なればなり 一一二―一一四
されどいざわが語り進むにつれて目を移し、このいと正しき信心深き帝國の大いなる高官《つかさ》達を見よ 一一五―一一七
かの高き處に坐し、皇妃にいと近きがゆゑにいと福《さいはひ》なるふたりのものは、この薔薇の二つの根に當る 一一八―一二〇
左の方にて彼と並ぶは、膽《きも》大《ふと》く味へるため人類をしてかゝる苦《にが》さを味ふにいたらしめし父 一二一―一二三
右なるは、聖なる寺院の古の父、この愛《め》づべき花の二《ふたつ》の鑰《かぎ》をクリストより委《ゆだ》ねられし者なり 一二四―一二六
また槍と釘とによりて得られし美しき新婦《はなよめ》のその時々の幸《さち》なさをば、己が死なざるさきにすべて見し者 一二七―一二九
これが傍に坐し、左の者の傍には、恩を忘れ心|恒《つね》なくかつ背《そむ》き易《やす》き民マンナに生命《いのち》を支《さゝ》へし頃かれらを率《ひき》ゐし導者坐す 一三〇―一三二
ピエートロと相對《あひむか》ひてアンナの坐するを見よ、彼はいたくよろこびて己が女《むすめ》を見、オザンナを歌ひつゝなほ目を放たじ 一三三―一三五
また最《いと》大いなる家長《いへをさ》の對《むかひ》には、汝が馳《は》せ下らんとて目を垂《た》れしとき汝の淑女を起《た》たしめしルーチア坐す 一三六―一三八
されど汝の睡りの時|疾《と》く過ぐるがゆゑに、あたかも良《よ》き縫物師《ぬひものし》のその有《も》つ織物《きれ》に適《あは》せて衣を造る如く、我等こゝに言《ことば》を止《とゞ》めて 一三九―一四一
目を第一の愛にむけむ、さらば汝は、彼の方《かた》を望みつゝ、汝の及ぶかぎり深くその輝を見るをうべし 一四二―一四四
しかはあれ、汝己が翼を動かし、進むと思ひつゝ或ひは退《しりぞ》く莫《なか》らんため、祈りによりて、恩惠《めぐみ》を受ること肝要なり 一四五―一四七
汝を助くるをうる淑女の恩惠《めぐみ》を、また汝は汝の心のわが言葉より離れざるほど、愛をもて我にともなへ。 一四八―一五〇
かくいひ終りて彼この聖なる祈りをさゝぐ 一五一―一五三
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第三十三曲
處女《をとめ》なる母わが子の女《むすめ》、被造物《つくられしもの》にまさりて己を低くししかして高くせらるゝ者、永遠《とこしへ》の聖旨《みむね》の確《かた》き目的《めあて》よ 一―三
人たるものを尊《たふと》くし、これが造主《つくりぬし》をしてこれに造らるゝをさへ厭はざるにいたらしめしは汝なり 四―六
汝の胎用にて愛はあらたに燃えたりき、その熱《あつ》さによりてこそ永遠《とこしへ》の平和のうちにこの花かくは咲きしなれ 七―九
こゝにては我等にとりて汝は愛の亭午《まひる》の燈火《ともしび》、下界人間のなかにては望みの活泉《いくるいづみ》なり 一〇―一二
淑女よ、汝いと大いにしていと強し、是故に恩惠《めぐみ》を求めて汝に就かざる者あらば、これが願ひは翼なくして飛ばんと思ふに異《こと》ならじ 一三―一五
汝の厚き志はたゞ請ふ者をのみ助くるならで、自ら進みて求めに先んずること多し 一六―一八
汝に慈悲あり、汝に哀憐惠與《あいれんえいよ》あり、被造物《つくられしもの》のうちなる善といふ善みな汝のうちに集まる 一九―二一
今こゝに、宇宙のいと低き沼よりこの處にいたるまで、靈の三界を一々《ひとつ/″\》見し者 二二―二四
伏して汝に請ひ、恩惠《めぐみ》によりて力をうけつゝ、終極《いやはて》の救ひの方にいよ/\高くその目を擧ぐるをうるを求む 二五―二七
また彼の見んことを己が願ふよりも深くは、己自ら見んと願ひし事なき我、わが祈りを悉く汝に捧げかつその足らざるなきを祈る 二八―三〇
願はくは汝の祈りによりて浮世《ふせい》一切の雲を彼より拂ひ、かくして彼にこよなき悦びを現はしたまへ 三一―三三
我またさらに汝に請ふ、思ひの成らざるなき女王よ、かく見まつりて後かれの心を永く健全《すこやか》ならしめたまへ 三四―三六
願はくは彼を護りて世の雜念に勝たしめ給へ、見よベアトリーチェがすべての聖徒達と共にわが諸※[#二の字点、1−2−22]の祈りを扶《たす》け汝に向ひて合掌するを。 三七―三九
神に愛《め》でられ尊まるゝ目は、祈れる者の上に注ぎて、信心深き祈りのいかばかりかの淑女の心に適《かな》ふやを我等に示し 四〇―四二
後|永遠《とこしへ》の光にむかへり、げに被造物《つくられしもの》の目にてその中《うち》をかく明らかに見るはなしと思はる 四三―四五
また我は凡ての望みの極《はて》に近づきゐたるがゆゑに、燃ゆる願ひおのづから心の中にて熄《や》むをおぼえき 四六―四八
ベルナルドは、我をして仰がしめんとて、微笑《ほゝゑ》みつゝ表示《しるし》を我に與へしかど、我は自らはやその思ふごとくなしゐたり 四九―五一
そはわが目明らかになり、本來|眞《まこと》なる高き光の輝のうちにいよ/\深く入りたればなり 五二―五四
さてこの後わが見しものは人の言葉より大いなりき、言葉はかゝる姿に及ばず、記憶はかゝる大いさに及ばじ 五五―五七
我はあたかも夢
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