《はかり》となるは功徳にて、恩惠《めぐみ》と善心《よきこゝろ》とより生る、次序《ついで》をたてゝ物の進むことかくの如し 一一二―一一四
同じくこの永劫《えいごふ》の春――夜の白羊宮もこれを掠《かす》めじ――に萌出《もえいづ》る第二の三《みつ》の組は 一一五―一一七
永遠《とこしへ》にオザンナを歌ひつゝ、その三《みつ》を造り成す三の喜悦《よろこび》の位の中に三の妙《たへ》なる音《ね》をひゞかしむ 一一八―一二〇
この組の中には三種《みくさ》の神あり、第一は統治《ドミナーツィオニ》、次は懿徳《ヴィルトゥーディ》、第三の位は威能《ボデスターディ》なり 一二一―一二三
次で最後《をはり》に最《いと》近《ちか》く踊り※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》る二の群《むれ》は主權《ブリンチパーティ》と首天使《アルカンゼリ》にて、最後《をはり》にをどるは、すべて樂しき天使なり 一二四―一二六
これらの位みな上方《うへ》を視る、かれらまたその力を強く下方《した》に及ぼすがゆゑに、みな神の方《かた》に引かれしかしてみな引く 一二七―一二九
さてディオニージオは、心をこめてこれらの位の事を思ひめぐらし、わがごとくこれが名をいひこれを別つにいたりたり 一三〇―一三二
されどその後グレゴーリオ彼を離れき、是においてか目をこの天にて開くに及び、自ら顧みて微笑《ほゝゑ》めり 一三三―一三五
またたとひ人たる者がかくかくれたる眞《まこと》をば世に述べたりとて異《あや》しむ勿《なか》れ、こゝ天上にてこれを見し者、これらの輪に關《かゝ》はる 一三六―
他の多くの眞《まこと》とともにこれを彼に現はせるなれば。 ―一四一
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第二十九曲
ラートナのふたりの子、白羊と天秤《てんびん》とに蔽はれて、齊《ひと》しく天涯を帶とする頃 一―三
天心が權衡《けんこう》を保つ刹那《せつな》より、彼も此も半球を換《か》へかの帶を離れつゝ權衡を破るにいたる程の間 四―六
ベアトリーチェは、わが目に勝ちたるかの一點をつら/\視つゝ、笑《ゑみ》を顏にうかべて默《もだ》し 七―九
かくて曰ふ。汝の聞かんと願ふことを我問はで告ぐ、そは我これを一切の處と時との集まる點にて見たればなり 一〇―一二
抑※[#二の字点、1−2−22]《そも/\》永遠《とこしへ》の愛は、己が幸《さいはひ》を増さん爲ならず(こはあるをえざる事なり)、たゞその光が照りわたりつゝ、我在りといふをえんため 一三―
時を超《こ》え他の一切の限《かぎり》を超え、己が無窮の中にありて、その心のまゝに己をば諸※[#二の字点、1−2−22]の新しき愛のうちに現はせり ―一八
またその先にも、爲すなきが如くにて休らひゐざりき、そはこれらの水の上に神の動き給ひしは、先後《あとさき》に起れる事にあらざればなり 一九―二一
形式と物質と、或は合ひ或は離れて、あたかも三《みつ》の弦《つる》ある弓より三の矢の出る如く出で、缺くるところなき物となりたり 二二―二四
しかして光が、玻※[#「王+黎」、第3水準1−88−35]《はり》琥珀《こはく》または水晶を照らす時、その入來るより入終るまでの間に些《すこし》の隙《ひま》もなきごとく 二五―二七
かの三《みつ》の形の業《わざ》は、みな直に成り備《そな》はりてその主より輝き出で、いづれを始めと別ちがたし 二八―三〇
また時を同じうしてこの三の物の間に秩序は造られ立てられき、而して純なる作用を授けられしもの宇宙の頂となり 三一―三三
純なる勢能|最低處《いとひくきところ》を保ち、中央には一の繋《つなぎ》、繋離るゝことなきほどにいと固《かた》く、勢能を作用と結び合せき 三四―三六
イエロニモは、天使達がその餘の宇宙の造られし時より幾百年の久しきさきに造られしことを録《しる》せるも 三七―三九
わがいふ眞《まこと》は聖靈を受けたる作者達のしば/\書《ふみ》にしるしゝところ、汝よく心をとめなば自らこれをさとるをえむ 四〇―四二
また理性もいくばくかこの眞《まこと》を知らしむ、そは諸※[#二の字点、1−2−22]の動者《うごかすもの》がかく久しく全からざりしとはその認めざることなればなり 四三―四五
今や汝これらの愛の、いづこに、いつ、いかに造られたりしやを知る、されば汝の願ひの中|三《みつ》の焔ははや消えたり 四六―四八
數《かず》を二十までかぞふるばかりの時をもおかず、天使の一部は、汝等の原素のうちのいと低きものを亂し 四九―五一
その餘の天使は、殘りゐて、汝の見るごとき技《わざ》を始む(かくする喜びいと大いなりければ、かれら※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》り止《や》むことあらじ) 五二―五四
墮落の原因《もと》は、汝の見しごとく宇宙一切の重さに壓《お》されをる者の、詛《のろ》ふべき傲慢《たかぶり》なりき 五五―五七
またこゝに見ゆる天使達は、謙《へりくだ》りて、かの善即ちかれらをしてかく深く悟るにいたらしめたる者よりかれらの出しを認めたれば 五八―六〇
恩惠《めぐみ》の光と己が功徳とによりてその視る力増したりき、是故にその意志備りて固し 六一―六三
汝疑ふなかれ、信ぜよ、恩惠《めぐみ》を受くるは功徳にて、この功徳は恩惠を迎ふる情の多少に應ずることを 六四―六六
汝もしわが言《ことば》をさとりたらんには、たとひ他《ほか》の助けなしとも、今やこの集會《つどひ》につきて多くの事を想ふをえむ 六七―六九
されど地上汝等の諸※[#二の字点、1−2−22]の學寮にては、天使に了知、記憶、及び意志ありと教へらるゝがゆゑに 七〇―七二
我さらに語り、汝をして、かゝる教へにおける言葉の明らかならざるため下界にて紛《まが》ふ眞理の純なる姿を見しむべし 七三―七五
そも/\これらの者は、神の聖顏《みかほ》を見て悦びし時よりこの方、目をこれ(一物としてこれにかくるゝはなし)に背《そむ》けしことなし 七六―七八
是故にその見ること新しき物に阻《はば》まれじ、是故にまたその想《おもひ》の分れたる爲、記憶に訴ふることを要せじ 七九―八一
されば世にては人眠らざるに夢を見つゝ、或は眞《まこと》をいふと信じ或はしかすと信ぜざるなり、後者は罪も恥《はぢ》もまさる 八二―八四
汝等世の人、理《ことわり》を究《きわ》むるにあたりて同一《おなじひとつ》の路を歩まず、これ外見《みえ》を飾るの慾と思ひとに迷はさるゝによりてなり 八五―八七
されどこれとても、神の書《ふみ》の疎《うと》んぜられまたは曲げらるゝに此《くら》ぶれば、そが天上にうくる憎惡《にくしみ》なほ輕し 八八―九〇
かの書《ふみ》を世に播《ま》かんためいくばくの血流されしや、謙《へりくだ》りてこれに親しむ者いかばかり聖意《みこゝろ》に適《かな》ふやを人思はず 九一―九三
各※[#二の字点、1−2−22]|外見《みえ》のために力め、さま/″\の異説を立つれば、これらはまた教を説く者の論《あげつら》ふところとなりて福音ものいはじ 九四―九六
ひとりいふ、クリストの受難の時は、月|退《しざ》りて中間《なか》を隔《へだ》てしため、日の光地に達せざりきと 九七―九九
またひとりいふ、こは光の自ら隱れしためなり、されば猶太人《ジュデーアびと》のみならずスパニア人《びと》もインド人も等しくその缺くるを見たりと 一〇〇―一〇二
ラーポとビンドいかにフィオレンツァに多しとも、年毎《としごと》にこゝかしこにて教壇より叫ばるゝかゝる浮説の多きには若《し》かず 一〇三―一〇五
是故に何をも知らぬ羊は、風を食ひて牧場より歸る、また己が禍ひを見ざることも彼等を罪なしとするに足らじ 一〇六―一〇八
クリストはその最初の弟子達に向ひ、往きて徒言《あだこと》を世に宣傳《のべつた》へといひ給はず、眞《まこと》の礎《いしずゑ》をかれらに授け給ひたり 一〇九―一一一
この礎のみぞかれらの唱《とな》へしところなる、されば信仰を燃《もや》さん爲に戰ふにあたり、かれらは福音を楯《たて》とも槍ともなしたりき 一一二―一一四
今や人々戲言《ざれごと》と戲語《たはけ》とをもて教へを説き、たゞよく笑はしむれば僧帽|脹《ふく》る、かれらの求むるものこの外《ほか》になし 一一五―一一七
されど帽の端《はし》には一羽の鳥の巣くふあり、俗衆これを見ばその頼む罪の赦の何物なるやを知るをえむ 一一八―一二〇
是においてかいと愚《おろか》なること地にはびこり、定かにすべき證《あかし》なきに、人すべての約束の邊《ほとり》に集《つど》ひ 一二一―一二三
聖アントニオは(贋造《まがへ》の貨幣《かね》を拂ひつゝ)これによりて、その豚と、豚より穢《けが》れし者とを肥《こや》す 一二四―一二六
されど我等主題を遠く離れたれば、今目を轉《めぐ》らして正路を見るべし、さらば時とともに途《みち》を短うするをえむ 一二七―一二九
それ天使は數《かず》きはめて多きに達し、人間の言葉も思ひもともなふあたはじ 一三〇―一三二
汝よくダニエールの現はしゝ事を思はゞ、その幾千なる語《ことば》のうちに定かなる數かくるゝを知らむ 一三三―一三五
彼等はかれらをすべて照らす第一の光を受く、但し受くる状態《ありさま》に至りては、この光と結び合ふ諸※[#二の字点、1−2−22]の輝の如くに多し 一三六―一三八
是においてか、情愛は會得《ゑとく》の作用にともなふがゆゑに、かれらのうちのうるはしき愛その熱《あつ》さ微温《ぬる》さを異にす 一三九―一四一
見よ今|永遠《とこしへ》の力の高さと廣さとを、そはこのもの己が爲にかく多くの鏡を造りてそれらの中に碎くれども 一四二―一四四
一たるを失はざること始めの如くなればなり。 一四五―一四七
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第三十曲
第六時はおよそ六千|哩《ミーリア》のかなたに燃え、この世界の陰傾きてはや殆んど水平をなすに 一―三
いたれば、いや高き天の中央《たゞなか》白みはじめて、まづとある星、この世に見ゆる力を失ひ 四―六
かくて日のいと燦《あざや》かなる侍女《はしため》のさらに進み來るにつれ、天は光より光と閉ぢゆき、そのいと美しきものにまで及ぶ 七―九
己が包むものに包まると見えつゝわが目に勝ちし一點のまはりに永遠《とこしへ》に舞ふかの凱旋も、またかくの如く 一〇―一二
次第に消えて見えずなりき、是故に何をも見ざることゝ愛とは、我を促《うなが》して目をベアトリーチェに向けしむ 一三―一五
たとひ今にいたるまで彼につきていひたる事をみな一の讚美の中に含ましむとも、わが務《つとめ》を果すに足らじ 一六―一八
わが見し美は、豈《あに》たゞ人の理解《さとり》を超《こ》ゆるのみならんや、我誠に信ずらく、これを悉く樂しむ者その造主《つくりぬし》の外になしと 一九―二一
げに茲《こゝ》にいたり我は自らわが及ばざりしを認む、喜曲または悲曲の作者もその題《テーマ》の難きに處してかく挫《くぢ》けしことはあらじ 二二―二四
そは日輪の、いと弱き視力におけるごとく、かのうるはしき微笑の記憶は、わが心より心その物を掠むればなり 二五―二七
この世にはじめて彼の顏を見し日より、かく視るにいたるまで、我たえず歌をもてこれにともなひたりしかど 二八―三〇
今は歌ひつゝその美を追ひてさらに進むことかなはずなりぬ、いかなる藝術の士も力盡くればまたかくの如し 三一―三三
さてかれは、かく我をしてわが喇叭《らつぱ》(こはその難き歌をはや終へんとす)よりなほ大いなる音にかれを委《ゆだ》ねしむるほどになりつゝ 三四―三六
敏《と》き導者に似たる動作《みぶり》と聲とをもて重ねていふ。われらは最《いと》大いなる體を出でゝ、純なる光の天に來れり 三七―三九
この光は智の光にて愛これに滿《み》ち、この愛は眞《まこと》の幸《さいはひ》の愛にて悦びこれに滿ち、この悦び一切の樂しみにまさる 四〇―四二
汝はこゝにて天堂の二隊《ふたて》の軍《いくさ》をともに見るべし、而《しか》してその一隊《ひとて》をば最後《をはり》の審判《さばき》の時汝に現はる
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