なりしなるべし 三四―三六
かくてピエートロ、容貌《かたち》の變るに劣らざるまでかはれる聲にて、續いて曰ふ 三七―三九
抑※[#二の字点、1−2−22]クリストの新婦《はなよめ》を、わが血及びリーン、クレートの血にてはぐゝめるは、これをして黄金《こがね》をうるの手段《てだて》たらしめん爲ならず 四〇―四二
否《いな》この樂しき生を得ん爲にこそ、シストもピオもカーリストもウルバーノも、多くの苦患《なやみ》の後血を注げるなれ 四三―四五
基督教徒《クリスティアーニ》なる民の一部我等の繼承者《けいしようじや》の右に坐し、その一部左に坐するは、われらの志しゝところにあらじ 四六―四八
我に委《ゆだ》ねられし鑰《かぎ》が、受洗者《じゆせんじや》と戰ふための旗のしるしとなることもまた然《しか》り 四九―五一
我を印の象《かた》となして、贏利虚妄《えいりきよまう》の特典に捺《お》し、われをして屡※[#二の字点、1−2−22]かつ恥ぢかつ憤《おこ》らしむることも亦然り 五二―五四
こゝ天上より眺むれば、牧者の衣を着たる暴《あら》き狼|隨處《いたるところ》の牧場《まきば》に見ゆ、あゝ神の擁護《みまもり》よ、何ぞ今も起《た》たざるや 五五―五七
カオルサ人《びと》等とグアスコニア人等、はや我等の血を飮まんとす、ああ善き始めよ、汝の落行先《おちゆくさき》はいかなる惡しき終りぞや 五八―六〇
されど思ふに、シピオによりローマに世界の榮光を保たしめたる尊き攝理、直ちに助け給ふべし 六一―六三
また子よ、汝は肉體の重さのため再び下界に歸るべければ、口を啓《ひら》け、わが隱さゞる事を隱す莫《なか》れ。 六四―六六
日輪天の磨羯《まかつ》の角《つの》に觸るゝとき、凍《こほ》れる水氣|片《ひら》を成してわが世の空《そら》より降るごとく 六七―六九
我はかの飾れる精氣より、さきにわれらとともにかしこに止まれる凱旋《がいせん》の水氣|片《ひら》をなして昇るを見たり 七〇―七二
わが目はかれらの姿にともなひ、間《あはひ》の大いなるによりさらに先を見るをえざるにいたりてやみぬ 七三―七五
是においてか淑女、わが仰ぎ見ざるを視、我にいふ。目を垂《た》れて汝の※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》れるさまを見るべし。 七六―七八
我見しに、はじめわが見し時より以來《このかた》、我は第一帶の半《なかば》よりその端《はし》に亘る弧線《アルコ》を悉くめぐり終へゐたり 七九―八一
さればガーデのかなたにはウリッセの狂《くるほ》しき船路《ふなぢ》見え、近くこなたには、エウローパがゆかしき荷となりし處なる岸見えぬ 八二―八四
日輪もし一天宮餘を隔《へだ》てゝわが足の下に※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》りをらずば、この小さき麥場《うちば》なほ廣く我に現はれたりしなるべし 八五―八七
たえずわが淑女と契る戀心《こひごゝろ》、常よりもはげしく燃えつゝ、わが目を再び彼にむかしむ 八八―九〇
げに自然や技《わざ》が、心を獲んためまづ目を捉《とら》へんとて、人の肉體やその繪姿《ゑすがた》に造れる餌《ゑば》 九一―九三
すべて合はさるとも、わが彼のほゝゑむ顏に向へるとき我を照らしゝ聖なる樂しみに此ぶれば物の數ならじと見ゆべし 九四―九六
しかしてかく見しことよりわが受けたる力は、我をレーダの美しき巣より引離して、いと疾《はや》き天に押し入れき 九七―九九
これが各部皆いと強く輝きて高くかつみな同じ状《さま》なれば、我はベアトリーチェがその孰《いづ》れを選びてわが居る處となしゝやを知らじ 一〇〇―一〇二
されど淑女は、わが願ひを見、その顏に神の悦び現はると思ふばかりいとうれしくほゝゑみていふ 一〇三―一〇五
中心を鎭《しづ》め、その周圍《まはり》なる一切の物を動かす宇宙の性《さが》は、己が源より出づるごとく、こゝよりいづ 一〇六―一〇八
またこの天には神意《みこころ》の外《ほか》處《ところ》なし、しかしてこれを轉らす愛とこれが降《ふら》す力とはこの神意の中に燃ゆ 一〇九―一一一
一の圈の光と愛これを容るゝことあたかもこれが他の諸※[#二の字点、1−2−22]の圈を容《い》るゝに似たり、しかしてこの圈を司《つかさど》る者はたゞこれを包む者のみ 一一二―一一四
またこれが運行は他の運行によりて測《はか》られじ、されど他の運行は皆これによりて量《はか》らる、猶十のその半《なかば》と五|分《ぶ》一とによりて測らるゝ如し 一一五―一一七
されば時なるものが、その根をかゝる鉢に保ち、葉を他の諸※[#二の字点、1−2−22]の鉢にたもつ次第は、今汝に明らかならむ 一一八―一二〇
あゝ慾よ、汝は人間を深く汝の下に沈め、ひとりだに汝の波より目を擡《もた》ぐるをえざるにいたらしむ 一二一―一二三
意志は人々のうちに良花《よきはな》と咲けども、雨の止まざるにより、眞《まこと》の李《すもゝ》惡しき實に變る 一二四―一二六
信と純とはたゞ童兒《わらべ》の中にあるのみ、頬に鬚《ひげ》の生《お》ひざるさきにいづれも逃ぐ 一二七―一二九
片言《かたこと》をいふ間|斷食《だんじき》を守る者も、舌ゆるむ時至れば、いかなる月の頃にてもすべての食物《くひもの》を貪りくらひ 一三〇―一三二
片言をいふ間母を愛しこれに從ふ者も、言語《ことば》調《とゝの》ふ時いたれば、これが葬らるゝを見んとねがふ 一三三―一三五
かくの如く、朝《あした》を齎し夕《ゆふべ》を殘しゆくものゝ美しき女《むすめ》の肌は、はじめ白くして後黒し 一三六―一三八
汝これを異《あや》しとするなからんため、思ひみよ、地には治むる者なきことを、人の族《やから》道を誤るもこの故ぞかし 一三九―一四一
されど第一月が、世にかの百|分《ぶ》一の等閑《なほざり》にせらるゝため、全く冬を離るゝにいたらざるまに、諸※[#二の字点、1−2−22]の天は鳴轟き 一四二―一四四
待ちに待ちし嵐起りて、艫《とも》を舳《へさき》の方《かた》にめぐらし、千船《ちふね》を直く走らしむべし 一四五―一四七
かくてぞ花の後に眞《まこと》の實あらむ。 一四八―一五〇
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   第二十八曲

我をして心を天堂に置かしむる淑女、幸《さち》なき人間の現世《げんぜ》を難じつゝその眞状《まことのさま》をあらはしゝ時 一―三
我はあたかも、見ず思はざるさきに己が後方《うしろ》にともされし燈火《ともしび》の焔を鏡に見 四―六
玻※[#「王+黎」、第3水準1−88−35]の果して眞《まこと》を告ぐるや否やを見んとて身を轉らし、此と彼と相合ふこと歌のその譜《ふ》におけるに似たるを見る 七―
人の如く(記憶によりて思ひ出づれば)、かの美しき目即ち愛がこれをもて紐《ひも》を造りて我を捉《とら》へし目を見たり ―一二
かくてふりかへり、人がつら/\かの天のめぐるを視るとき常にかしこに現はるゝものわが目に觸るゝに及び 一三―一五
我は鋭き光を放つ一點を見たり、げにかゝる光に照らされんには、いかなる目も、そのいと鋭きが爲に閉ぢざるをえじ 一六―一八
また世より最小《いとちひ》さく見ゆる星さへ、星の星と並ぶごとくかの點とならびなば、さながら月と見ゆるならむ 一九―二一
月日《つきひ》の暈《かさ》が、これを支《さゝ》ふる水氣のいと濃《こ》き時にあたり、これを彩《いろど》る光を卷きつゝその邊《ほとり》に見ゆるばかりの 二二―二四
間《あはひ》を隔《へだ》てゝ、一の火輪《ひのわ》かの點のまはりをめぐり、その早きこと、いと速に世界を卷く運行にさへまさると思はるゝ程なりき 二五―二七
また是は第二の輪に、第二は第三、第三は第四、第四は第五、第五は第六の輪に卷かる 二八―三〇
第七の輪これに續いて上方《うへ》にあり、今やいたくひろがりたれば、ユーノの使者《つかひ》完全《まつた》しともこれを容《い》るゝに足らざるなるべし 三一―三三
第八第九の輪また然り、しかしていづれもその數《かず》が一《いち》を距《へだゝ》ること遠きに從ひ、※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》ることいよ/\遲く 三四―三六
また清き火花にいと近きものは、これが眞《まこと》に與《あづ》かること他にまさる爲ならむ、その焔いと燦《あざや》かなりき 三七―三九
わがいたく思ひ惑《まど》ふを見て淑女曰ふ。天もすべての自然も、かの一點にこそ懸《かゝ》るなれ 四〇―四二
見よこれにいと近き輪を、しかして知るべし、その※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》ることかく早きは、燃ゆる愛の刺戟を受くるによるなるを。 四三―四五
我彼に。宇宙もしわがこれらの輪に見るごとき次第を保《たも》たば、わが前に置かるゝもの我を飽かしめしならむ 四六―四八
されど官能界にありては、諸※[#二の字点、1−2−22]の回轉その中心を遠ざかるに從つていよ/\聖なるを見るをう 四九―五一
是故にこの妙《たへ》なる、天使の神殿《みや》、即ちたゞ愛と光とをその境界《さかひ》とする處にて、わが顏ひ全く成るをうべくば 五二―五四
請《こ》ふさらに何故に模寫《うつし》と樣式《かた》とが一樣ならざるやを我に告げよ、我自らこれを想ふはいたづらなればなり。 五五―五七
汝の指かゝる纈《むすび》を解くをえずとも異《あや》しむに足らず、こはその試みられざるによりていと固くなりたればなり。 五八―六〇
わが淑女かく、而して又曰ふ。もし飽くことを願はゞ、わが汝に告ぐる事を聽き、才を鋭うしてこれにむかへ 六一―六三
それ諸※[#二の字点、1−2−22]の球體は、遍《あまね》くその各部に亘りてひろがる力の多少に從ひ、或は廣く或は狹し 六四―六六
徳大なればその生ずる福祉《さいはひ》もまた必ず大に、體大なれば(而してその各部等しく完全なれば)その容《い》るゝ福祉《ふくし》もまた從つて大なり 六七―六九
是においてか己と共に殘の宇宙を悉く轉《めぐ》らす球は、愛と智とのともにいと多き輪に適《かな》ふ 七〇―七二
是故に汝の量《はかり》を、圓《まる》く汝に現はるゝものゝ外見《みえ》に据《す》ゑずして力に据ゑなば 七三―七五
汝はいづれの天も、その天使と――即ち大いなるは優れると、小さきは劣れると――奇《くす》しく相應ずるを見む。 七六―七八
ボーレアがそのいと温和《おだやか》なる方《かた》の頬より吹くとき、半球の空あざやかに澄みわたり 七九―八一
さきにこれを曇らせし霧拂はれ消えて、天その隨處の美を示しつゝほゝゑむにいたる 八二―八四
わが淑女がその明らかなる答を我に與へしとき、我またかくの如くになり、眞《まこと》を見ること天の星を見るに似たりき 八五―八七
しかしてその言《ことば》終るや、諸※[#二の字点、1−2−22]の輪火花を放ち、そのさま熱鐡の火花を散らすに異なるなかりき 八八―九〇
火花は各※[#二の字点、1−2−22]その火にともなへり、またその數《かず》はいと多くして、將棊《しようぎ》を倍するに優ること幾千といふ程なりき 九一―九三
我は彼等がかれらをその常にありし處に保ちかつ永遠《とこしへ》に保つべきかの動かざる點に向ひ、組々《くみ/″\》にオザンナを歌ふを聞けり 九四―九六
淑女わが心の中の疑ひを見て曰ふ。最初《はじめ》の二つの輪はセラフィニとケルビとを汝に示せり 九七―九九
かれらのかく速に己が絆に《きづな》從ふは、及ぶ限りかの點に己を似せんとすればなり、而してその視る位置の高きに準じてかく爲すをう 一〇〇―一〇二
かれらの周圍《まはり》を轉《めぐ》る諸※[#二の字点、1−2−22]の愛は、神の聖前《みまへ》の寶座《フローニ》と呼ばる、第一の三《みつ》の組かれらに終りたればなり 一〇三―一〇五
汝知るべし、一切の智の休らふ處なる眞《まこと》をばかれらが見るの深きに應じてその悦び大いなるを 一〇六―一〇八
かゝれば福祉《さいはひ》が見る事に原《もと》づき愛すること(即ち後に來る事)にもとづかざる次第もこれによりて明らかならむ 一〇九―一一一
また、見る事の量
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