は》を出づる時まで、我にともなへる徳にむかひ今も我を燃《もや》す愛 八二―八四
我に勸《すゝ》めて再び汝――この徳を慕ふ者なる――と語らしむ、されば請ふ、望みの汝に何を約するやを告げよ。 八五―八七
我。新舊二つの聖經標《みふみしるし》を建《た》つ、この標こそ我にこれを指示《さししめ》すなれ、神が友となしたまへる魂につき 八八―九〇
イザヤは、かれらいづれも己が郷土《ふるさと》にて二重《ふたへ》の衣を着るべしといへり、己が郷土とは即ちこのうるはしき生の事なり 九一―九三
また汝の兄弟は、白衣《しろきころも》のことを述べしところにて、さらに詳《つまび》らかにこの默示をわれらにあらはす。 九四―九六
かくいひ終れる時、スペーレント・イン・テーまづわれらの上に聞え、舞ふ者こと/″\くこれに和したり 九七―九九
次いでかれらの中にて一の光いと強く輝けり、げにもし巨蟹宮に一のかゝる水晶あらば、冬の一月《ひとつき》はたゞ一の晝とならむ 一〇〇―一〇二
またたとへば喜ぶ處女《をとめ》が、その短處《おちど》の爲ならず、たゞ新婦《はなよめ》の祝ひのために、起《た》ち、行き、踊りに加はるごとく 一〇三―一〇五
かの輝く光は、己が燃ゆる愛に應じて圓くめぐれる二の光の許《もと》に來れり 一〇六―一〇八
かくてかしこにて歌と節とを合はせ、またわが淑女は、默《もだ》して動かざる新婦《はなよめ》のごとく、目をかれらにとむ 一〇六―一〇八
こは昔われらの伽藍鳥《ペルリカーノ》の胸に倚《よ》りし者、また選ばれて十字架の上より大いなる務を委《ゆだ》ねられし者なり。 一一二―一一四
わが淑女かく、されどその言《ことば》のためにその目を移さず、これをかたくとむることいはざる先の如くなりき 一一五―一一七
瞳を定めて、日の少しく虧《か》くるを見んと力《つと》むる人は、見んとてかへつて見る能はざるにいたる 一一八―一二〇
わがかの最後の火におけるもまたかくの如くなりき、是時聲曰ふ。汝何ぞこゝに在らざる物を視んとて汝の目を眩《まばゆ》うするや 一二一―一二三
わが肉體は土にして地にあり、またわれらの數《かず》が永遠《とこしへ》の聖旨《みむね》に配《そ》ふにいたるまでは他の肉體と共にかしこにあらむ 一二四―一二六
二|襲《かさね》の衣を着つゝ尊き僧院にあるものは、昇りし二の光のみ、汝これを汝等の世に傳ふべし。 一二七―一二九
かくいへるとき、焔の舞は、三の氣吹《いぶき》の音《おと》のまじれるうるはしき歌とともにしづまり 一三〇―一三二
さながら水を掻きゐたる櫂《かひ》が、疲勞《つかれ》または危き事を避けんため、一の笛の音《ね》とともにみな止まる如くなりき 一三三―一三五
あゝわが心の亂れいかなりしぞや、そは我是時身を轉《めぐ》らしてベアトリーチェを見んとせしかど(我彼に近くかつ福の世にありながら) 一三六―
見るをえざりければなり ―一四一
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   第二十六曲

わが視力の盡きしことにて我危ぶみゐたりしとき、これを盡きしめしかの輝く焔より一の聲出でゝわが心を惹けり 一―三
曰ふ。我を見て失ひし目の作用《はたらき》をば汝の再び得るまでは、語りてこれを償《つぐの》ふをよしとす 四―六
さればまづ、いへ、汝の魂|何處《いづこ》をめざすや、かつまた信ぜよ、汝の視力は亂れしのみにて、滅び失せしにあらざるを 七―九
そは汝を導いてこの聖地を過ぐる淑女は、アナーニアの手の有《も》てる力を目にもてばなり 一〇―一二
我曰ふ。遲速《おそきはやき》を問はずたゞ彼の心のまゝにわが目|癒《い》ゆべし、こは彼が、絶えず我を燃《もや》す火をもて入來りし時の門なりき 一三―一五
さてこの王宮を幸《さきは》ふ善こそ、或は低く或は高く愛のわが爲に讀むかぎりの文字《もじ》のアルファにしてオメガなれ。 一六―一八
目の俄にくらめるための恐れを我より取去れるその聲、我をして重ねて語るの意を起さしむ 一九―二一
その言《ことば》に曰ふ。げに汝はさらに細かき篩にて漉さゞるべからず、誰《た》が汝の弓をかゝる的《まと》に向けしめしやをいはざるべからず。 二二―二四
我。哲理の論ずる所によりまたこゝより降る權威によりて、かゝる愛は、我に象《かた》を捺《お》さゞるべからず 二五―二七
これ善は、その善なるかぎり、知らるゝとともに愛を燃《もや》し、かつその含む善の多きに從ひて愛また大いなるによる 二八―三〇
されば己の外に存する善がいづれもたゞ己の光の一|線《すぢ》に過ぎざるほど勝《すぐ》るゝ者に向ひては 三一―三三
この證《あかし》の基《もとゐ》なる眞理をわきまふる人の心、他の者にむかふ時にまさりて愛しつゝ進まざるをえじ 三四―三六
我に凡ての永遠《とこしへ》の物の第一の愛を示すもの、かゝる眞理をわが智に明《あか》し 三七―三九
眞《まこと》の作者、即ち己が事を語りて我汝に一切の徳を見すべしとモイゼにいへる者の聲これを明し 四〇―四二
汝も亦、かの尊き公布《ふれ》により、他《ほか》のすべての告示《しらせ》にまさりて、こゝの秘密を下界に徇《とな》へつゝ、我にこれを明すなり。 四三―四五
是時聲曰ふ。人智及びこれと相和する權威によりて、汝の愛のうちの最《いと》大いなるもの神にむかふ 四六―四八
されど汝は、神の方《かた》に汝を引寄する綱のこの外《ほか》にもあるを覺ゆるや、請ふ更にこれを告げこの愛が幾個《いくつ》の齒にて汝を噛むやを言現《いひあら》はすべし。 四九―五一
クリストの鷲の聖なる思ひ隱れざりき、否《いな》我はよく彼のわが告白をばいづこに導かんとせしやを知りて 五二―五四
即ちまたいひけるは。齒をもて心を神に向はしむるをうるもの、みなわが愛と結び合へり 五五―五七
そは宇宙の存在、我の存在、我を活かしめんとて彼の受けし死、及び凡そ信ずる人の我と等しく望むものは 五八―六〇
先に述べし生くる認識とともに、我を悖《もと》れる愛の海より引きて、正しき愛の岸に置きたればなり 六一―六三
永遠《とこしへ》の園丁《にはつくり》の園にあまねく茂る葉を、我は神がかれらに授け給ふ幸《さいはひ》の度に從ひて愛す。 六四―六六
我|默《もだ》しゝとき、忽ち一のいとうるはしき歌天に響き、わが淑女全衆に和して、聖なり聖なり聖なりといへり 六七―六九
鋭き光にあへば、物視る靈が、膜より膜に進み入るその輝に馳せ向ふため、眠り覺まされ 七〇―七二
覺めたる人は、判ずる力己を助くるにいたるまで、己が俄にさめし次第を知らで、その視る物におびゆるごとく 七三―七五
ベアトリーチェは、千|哩《ミーリア》の先をも照らす己が目の光をもて、一切の埃《ほこり》をわが目より拂ひ 七六―七八
我は是時前よりもよく見るをえて、第四の光のわれらとともにあるを知り、いたく驚きてこれが事を問へり 七九―八一
わが淑女。この光の中には、第一の力のはじめて造れる第一の魂その造主《つくりぬし》を慕ふ。 八二―八四
たとへば風過ぐるとき、枝はその尖《さき》を垂《た》るれど、己が力に擡《もた》げられて、後また己を高むるごとく 八五―八七
我は彼の語れる間、いたく異《あや》しみて頭《かうべ》を低《た》れしも、語るの願ひに燃されて、後再び心を強うし 八八―九〇
曰ひけるは。あゝ熟して結べる唯一《たゞひとつ》の果實《このみ》よ、あゝ新婦《はなよめ》といふ新婦を女《むすめ》子婦《よめ》に有《も》つ昔の父よ 九一―九三
我いとうや/\しく汝に祈《ね》ぐ、請ふ語れ、わが願ひは汝の知るところなれば、汝の言《ことば》を疾《と》く聞かんため、我いはじ。 九四―九六
獸包まれて身を搖動《ゆりうごか》し、包む物またこれとともに動くがゆゑに、願ひを現はさゞるををえざることあり 九七―九九
かくの如く、第一の魂は、いかに悦びつゝわが望みに添はんとせしやを、その蔽物《おほひ》によりて我に示しき 一〇〇―一〇二
かくていふ。汝我に言現はさずとも、わが汝の願ひを知ること、およそ汝にいと明らかなることを汝の知るにもまさる 一〇三―一〇五
こは我これを眞《まこと》の鏡――この鏡萬物を己に映《うつ》せど、一物としてこれを己に映《うつ》すはなし――に照して見るによりてなり 一〇六―一〇八
汝の聞かんと欲するは、この淑女がかく長き階《きぎはし》をば汝に昇るをえしめし處なる高き園の中に神の我を置給ひしは幾年前《いくとせさき》なりしやといふ事 一〇九―一一一
これがいつまでわが目の樂なりしやといふ事、大いなる憤《いきどほり》の眞《まこと》の原因《もと》、またわが用ゐわが作れる言葉の事即ち是なり 一一二―一一四
さて我子よ、かの大いなる流刑《るけい》の原因《もと》は、木實《このみ》を味《あぢは》へるその事ならで、たゞ分を超《こ》えたることなり 一一五―一一七
我は汝の淑女がヴィルジリオを出立《いでた》ゝしめし處にありて、四千三百二年の間この集會《つどひ》を慕ひたり 一一八―一二〇
また地に住みし間に、我は日が九百三十回、その道にあたるすべての光に歸るを見たり 一二一―一二三
わが用ゐし言葉は、ネムブロットの族《やから》がかの成し終へ難き業《わざ》を試みしその時よりも久しき以前《さき》に悉く絶えにき 一二四―一二六
そは人の好む所天にともなひて改まるがゆゑに、理性より生じてしかして永遠《とこしへ》に續くべきもの未だ一つだにありしことなければなり 一二七―一二九
抑※[#二の字点、1−2−22]《そも/\》人の物言ふは自然の業《わざ》なり、されどかく言ひかくいふことは自然これを汝等に委《ゆだ》ね汝等の好むまゝに爲さしむ 一三〇―一三二
わが未だ地獄に降りて苦しみをうけざりしさきには、我を裏《つゝ》む喜悦《よろこび》の本《もと》なる至上の善、世にてI《イ》と呼ばれ 一三三―一三五
その後EL《エル》と呼ばれにき、是亦|宜《うべ》なり、そは人の習慣《ならはし》は、さながら枝の上なる葉の、彼散りて此生ずるに似たればなり 一三六―一三八
かの波の上いと高く聳《そび》ゆる山に、罪なくしてまた罪ありてわが住みしは、第一時より、日の象限《しやうげん》を變ふるとともに 一三九―
第六時に次ぐ時までの間なりき。 ―一四四
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   第二十七曲

父に子に聖靈に榮光あれ。天堂|擧《こぞ》りてかく唱《とな》へ、そのうるはしき歌をもて我を醉はしむ 一―三
わが見し物は宇宙の一微笑《ひとゑみ》のごとくなりき、是故にわが醉《ゑひ》耳よりも目よりも入りたり 四―六
あゝ樂しみよ、あゝいひがたき歡びよ、あゝ愛と平和とより成る完《まつた》き生よ、あゝ慾なき恐れなき富よ 七―九
わが目の前には四《よつ》の燈火《ともしび》燃えゐたり、しかして第一に來れるものいよ/\あざやかになり 一〇―一二
かつその姿を改めぬ、木星《ジョーヴェ》もし火星《マルテ》とともに鳥にして羽を交換《とりかは》しなば、またかくの如くなるべし 一三―一五
次序《ついで》と任務《つとめ》とをこゝにて頒《わか》ち與ふる攝理、四方《よも》の聖徒達をしてしづかならしめしとき 一六―一八
わが聞ける言《ことば》にいふ。われ色を變ふと雖も異《あや》しむ莫《なか》れ、そはわが語るを聞きて是等の者みな色を變ふるを汝見るべければなり 一九―二一
わが地位、わが地位、わが地位(神の子の聖前《みまへ》にては今も空《むな》し)を世にて奪ふ者 二二―二四
わが墓所《はかどころ》をば血と穢《けがれ》との溝となせり、是においてか天上より墮《お》ちし悖《もと》れる者も下界に己が心を和らぐ。 二五―二七
是時我は、日と相對《あひむか》ふによりて朝《あした》夕《ゆふべ》に雲を染めなす色の、遍《あまね》く天に漲《みなぎ》るを見たり 二八―三〇
しかしてたとへばしとやかなる淑女が、心に怖《おそ》るゝことなけれど、他人《ひと》の過失《おちど》をたゞ聞くのみにてはぢらふごとく 三一―三三
ベアトリーチェは容貌《かたち》を變へき、思ふに比類《たぐひ》なき威能《ちから》の患《なや》み給ひし時にも、天かく暗く
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