より一の火出づ、こはいと福なる火にて、かしこに殘れる者一としてこれより燦《あざやか》なるはなかりき 一九―二一
この火歌ひつゝベアトリーチェの周邊《まはり》をめぐること三|度《たび》、その歌いと聖なりければ我今心に浮べんとすれども効《かひ》なし 二二―二四
是故にわが筆|跳越《をどりこ》えてこれを録《しる》さじ、われらの想像は、况《まし》て言葉は、かゝる襞※[#「ころもへん+責」、第3水準1−91−87]《ひだ》にとりて色|明《あかる》きに過ればなり 二五―二七
あゝかくうや/\しくわれらに請ふわが聖なる姉妹よ、汝の燃ゆる愛によりて汝は我をかの美しき球より解けり。 二八―三〇
かの福なる火は、止まりて後、息《いき》をわが淑女に向けつゝ、わがいへるごとく語れるなりき 三一―三三
この時淑女。あゝわれらの主がこの奇《く》しき悦びの鑰《かぎ》(下界に主の齎《もたら》し給ひし)を委《ゆだ》ね給へる丈夫《ますらを》の永遠《とこしへ》の光よ 三四―三六
嘗《かつ》て汝に海の上を歩ましめし信仰に就き、輕き重き種々《さま/″\》の事をもて、汝の好むごとく彼を試みよ 三七―三九
彼善く愛し善く望みかつ信ずるや否や、汝これを知る、そは汝目を萬物《よろづのもの》の描かれて視ゆるところにとむればなり 四〇―四二
されどこの王國が民を得たるは眞《まこと》の信仰によるがゆゑに、これに榮光あらしめんため、これの事を語る機《をり》の彼に來るを宜《むべ》とす。 四三―四五
あたかも學士が、師の問を發《おこ》すを待ちつゝ、これを論《あげつら》はんため――これを決《きむ》るためならず――默《もだ》して備を成すごとく 四六―四八
我はかゝる問者に答へかつかゝる告白をなすをえんため、淑女の語りゐたる間に、一切の理《ことはり》をもて備を成せり 四九―五一
いへ、良き基督教徒《クリスティアーノ》よ、汝の思ふ所を明《あか》せ、そも/\信仰といふは何ぞや。我即ち頭《かうべ》を擧げてこの言《ことば》の出でし處なる光を見 五二―五四
後ベアトリーチェにむかへば、かれ直に我に示してわが心の泉より水を注ぎいださしむ 五五―五七
我曰ふ。大いなる長《をさ》の前にてわがいひあらはすを許す恩惠《めぐみ》、願はくは我をしてよくわが思ひを述ぶるをえしめよ。 五八―六〇
かくて續いて曰ふ。父よ、汝とともに、ローマを正しき路に就かせし汝の愛する兄弟の、眞《まこと》の筆の録《しる》すごとく 六一―六三
信仰とは望まるゝ物の基見えざる物の證《あかし》なり、しかして是その本質と見ゆ。 六四―六六
是時聲曰ふ。汝の思ふ所正し、されど彼が何故にこれをまづ基の中に置き、後|證《あかし》の中に置きしやを汝よくさとるや否《いな》や。 六七―六九
我即ち。こゝにて我にあらはるゝもろ/\の奧深き事物も、全く下界の目にかくれ 七〇―七二
かしこにてはその在りとせらるゝことたゞ信によるのみ、人この信の上に高き望みを築くがゆゑに、この物即ち基に當る 七三―七五
また人|他《ほか》の物を見ず、たゞこの信によりて理《ことわ》らざるをえざるがゆゑに、この物即ち證《あかし》にあたる。 七六―七八
是時聲曰ふ。凡そ教へによりて世に知らるゝものみなかくの如く解《げ》せられんには、詭辯者の才かしこに容れられざるにいたらむ。 七九―八一
かくかの燃ゆる愛|言《ことば》に出《いだ》し、後加ふらく。この貨幣の混合物《まぜもの》とその重さとは汝既にいとよく檢《しら》べぬ 八二―八四
されどいへ、汝はこれを己が財布の中に有《も》つや。我即ち。然り、そを鑄《い》し樣《さま》に何の疑はしき事もなきまで光りて圓《まる》し。 八五―八七
この時、かしこに輝きゐたるかの光の奧より聲出でゝいふ。一切の徳の礎《いしずゑ》なるこの貴き珠は 八八―九〇
そも/\いづこより汝の許《もと》に來れるや。我。舊新二種の皮の上にゆたかに注ぐ聖靈の雨は 九一―九三
これが眞《まこと》を我に示しゝ論法にて、その鋭きに此《くら》ぶれば、いかなる證明も鈍《にぶ》しとみゆ。 九四―九六
聲|次《つい》で曰ふ。かく汝に論決せしむる舊新二つの命題を、汝が神の言《ことば》となすは何故ぞや。 九七―九九
我。この眞理を我に現はす所の證《あかし》が、ともなへる諸※[#二の字点、1−2−22]の業《わざ》(即ち自然がその爲|鐡《くろがね》を燒きまたは鐡床《かなしき》を打しことなき)なり 一〇〇―一〇二
聲我に答ふらく。いへ、これらの業の行はれしを汝に定かならしむるものは誰ぞや、他なし、自ら證《あかし》を求むる者ぞ汝にこれを誓ふなる。 一〇三―一〇五
我曰ふ。奇蹟なきに世キリストの教へに歸依《きえ》せば、是かへつて一の大いなる奇蹟にて、他の凡ての奇蹟はその百分《ぶ》一にも當らじ 一〇六―一〇八
そは汝、貧しく、饑《う》ゑつゝ、畠《はた》に入り、良木《よきき》の種を蒔《ま》きたればなり(この木昔|葡萄《ぶどう》なりしも今|荊棘《いばら》となりぬ)。 一〇九―一一一
かくいひ終れる時、尊き聖なる宮人《みやびと》等、天上の歌の調《しらべ》妙《たへ》に、「われら神を讚美す」と歌ひ、諸※[#二の字点、1−2−22]の球に響きわたらしむ 一一二―一一四
しかして問質《とひたゞ》しつゝかく枝より枝に我をみちびき、はや我とともに梢に近づきゐたる長《をさ》 一一五―一一七
重ねて曰ふ。汝の心と契《ちぎ》る恩惠《めぐみ》、今までふさはしく汝の口を啓《ひら》けるがゆゑに 一一八―一二〇
我は出でしものを可《よし》とす、されど汝何を信ずるや、また何によりてかく信ずるにいたれるや、今これを我に述ぶべし。 一二一―一二三
我曰ふ。あゝ聖なる父よ、墓の邊《ほとり》にて若《わか》き足に勝ちしほどかたく信じゐたりしものを今見る靈よ 一二四―一二六
汝は我にわがとくいだける信の本體をこゝにあらはさんことを望み、かつまたこれがゆゑよしを問ふ 一二七―一二九
わが答は是なり、我は一神《ひとりのかみ》、唯一《たゞひとり》にて永遠《とこしへ》にいまし、愛と願ひとをもてすべての天を動かしつゝ自ら動かざる神を信ず 一三〇―一三二
しかして、かゝる信仰に對しては、我に物理哲理の證《あかし》あるのみならじ、モイゼ、諸※[#二の字点、1−2−22]の豫言者、詩篇、聖傳 一三三―
及び汝等即ち燃ゆる靈に淨められし後|書録《かきしる》せる人々によりこゝより降下《ふりくだ》る眞理もまた我にこの信を與ふ ―一三八
我また永遠《とこしへ》の三位を信ず、しかしてこれらの本《もと》は一、一にして三なれば、おしなべてソノといひエステといふをうるを信ず 一三九―一四一
わがいふところの奧深き神のさまをば、福音の教へいくたびもわが心に印す 一四二―一四四
是ぞ源、是ぞ火花、後延びて強き炎となり、あたかも天《そら》の星のごとくわが心に煌めくものなる。 一四五―一四七
己を悦ばす事を聞く主《しゆ》が、僕《しもべ》やがて默《もだ》すとき、その報知《しらせ》にめでゝ、直ちにこれを抱くごとく 一四八―一五〇
かの使徒の光――我に命じて語らしめし――は、わが默しゝ時、直ちに歌ひて我を祝しつゝ、三|度《たび》わが周圍《まはり》をめぐれり 一五一―
わが言《ことば》かくその意《こゝろ》に適《かな》へるなりき。 ―一五六
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   第二十五曲

年久しく我を窶《やつ》れしむるほど天地《あめつち》ともに手を下しゝ聖なる詩、もしかの麗はしき圈《をり》―― 一―
かしこに軍《いくさ》を起す狼どもの敵《あだ》、羔《こひつじ》としてわが眠りゐし處――より我を閉《し》め出《いだ》すその殘忍に勝つこともあらば ―六
その時我は變れる聲と變れる毛とをもて詩人として歸りゆき、わが洗禮《バッテスモ》の盤のほとりに冠を戴かむ 七―九
そは我かしこにて、魂を神に知らすものなる信仰に入り、後ピエートロこれが爲にかくわが額《ひたひ》の周圍《まはり》をめぐりたればなり 一〇―一二
クリストがその代理者の初果《はつなり》として殘しゝ者の出でし球より、このとき一の光こなたに進めり 一三―一五
わが淑女いたく悦びて我にいふ。見よ、見よ、かの長《をさ》を見よ、かれの爲にこそ下界にて人ガーリツィアに詣《まうづ》るなれ。 一六―一八
鳩その侶《とも》の傍《かたへ》に飛びくだるとき、かれもこれも※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》りつゝさゝやきつゝ、互《かたみ》に愛をあらはすごとく 一九―二一
我はひとりの大いなる貴き君が他のかゝる君に迎へられ、かれらを飽《あ》かしむる天上の糧《かて》をばともに讚《ほ》め稱《たゝ》ふるを見き 二二―二四
されど會繹《えしやく》終れる時、かれらはいづれも、我に顏を垂《た》れしむるほど強く燃えつゝ、默《もだ》してわが前にとゞまれり 二五―二七
是時ベアトリーチェ微笑《ほゝゑ》みて曰ふ。われらの王宮の惠みのゆたかなるを録《しる》しゝなだゝる生命《いのち》よ 二八―三〇
望みをばこの高き處に響き渡らすべし、汝知る、イエスが、己をいとよく三人《みたり》に顯はし給ひし毎に、汝のこれを象《かたど》れるを。 三一―三三
頭《かうべ》を擧げよ、しかして心を強くせよ、人の世界よりこゝに登り來るものは、みなわれらの光によりて熟せざるをえざればなり。 三四―三六
この勵ます言《ことば》第二の火よりわが許《もと》に來れり、是においてか我は目を擧げ、かの先に重きに過ぎてこれを垂《た》れしめし山を見ぬ[#二七]
恩惠《めぐみ》によりてわれらの帝《みかど》は、汝が、未だ死なざるさきに、その諸※[#二の字点、1−2−22]の伯達《きみたち》と内殿に會ふことを許し 四〇―四二
汝をしてこの王宮の眞状《まことのさま》を見、これにより望み即ち下界に於て正しき愛を促《うなが》すものをば、汝と他《ほか》の人々の心に、強むるをえしめ給ふなれば 四三―四五
その望みの何なりや、いかに汝の心に咲くや、またいづこより汝の許に來れるやをいへ。第二の光續いてさらにかく曰へり 四六―四八
わが翼の羽を導いてかく高く飛ばしめしかの慈悲深き淑女、是時我より先に答へていふ 四九―五一
わが軍を遍《あまね》く照らすかの日輪に録《しる》さるゝごとく、戰鬪《たゝかひ》に參《あづか》る寺院にては彼より多くの望みをいだく子|一人《ひとり》だになし 五二―五四
是故にかれは、その軍役《いくさのつとめ》を終へざるさきにエジプトを出で、イエルサレムメに來りて見ることを許さる 五五―五七
さて他《ほか》の二の事、即ち汝が、知らんとてならず、たゞ彼をしてこの徳のいかばかり汝の心に適《かな》ふやを傳へしめんとて問ひし事は 五八―六〇
我是を彼に委《ゆだ》ぬ、そは是彼に難からず虚榮の本《もと》とならざればなり、彼これに答ふべし、また願はくは神恩《かみのめぐみ》彼にかく爲《な》すをえしめ給へ。 六一―六三
あたかも弟子が、その精《くわ》しく知れる事においては、わが才能《ちから》を現はさんため、疾《と》くかつ喜びて師に答ふるごとく 六四―六六
我曰ひけるは。望みとは未來の榮光の確《かた》き期待にて、かゝる期待は神の恩惠《めぐみ》と先立つ功徳より生ず 六七―六九
この光多くの星より我許《わがもと》に來れど、はじめてこれをわが心に注げるは、最大《いとおほ》いなる導者を歌へる最大いなる歌人《うたびと》たりし者なりき 七〇―七二
かれその聖歌の中にいふ、爾名《みな》を知る者は望みを汝におくべしと、また誰か我の如く信じてしかしてこれを知らざらんや 七三―七五
かれの雫《しづく》とともに汝その後《のち》書《ふみ》のうちにて我にこれを滴《したゝ》らし、我をして滿たされて汝等の雨を他《ほか》の人々にも降らさしむ。 七六―七八
わが語りゐたる間、かの火の生くる懷《ふところ》のうちにとある閃《ひらめき》、俄にかつ屡※[#二の字点、1−2−22]|顫《ふる》ひ、そのさま電光《いなづま》の如くなりき 七九―八一
かくていふ。棕櫚《しゆろ》をうるまで、戰場《いくさのに
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