語あまりに朧《おぼろ》に進まざるため、汝は今、わがこの長き言《ことば》の中なる戀人等の、フランチェスコと貧なるを知れ 七三―七五
かれらの和合とそのよろこべる姿とは、愛、驚、及び敬ひを、聖なる思ひの原因《もと》たらしめき 七六―七八
かゝれば尊きベルナルドは第一に沓《くつ》をぬぎ、かく大いなる平安を逐《お》ひて走り、走れどもなほおそしとおもへり 七九―八一
あゝ未知の富《とみ》肥沃《ひよく》の財寶《たから》よ、エジディオ沓を脱《ぬ》ぎ、シルヴェストロ沓をぬぎて共に新郎《はなむこ》に從へり、新婦《はなよめ》いたく心に適《かな》ひたるによる 八二―八四
かくてかの父たり師たりし者は己が戀人及びはや卑《いや》しき紐《ひも》を帶とせし家族《やから》とともに出立《いでた》てり 八五―八七
またピエートロ・ベルナルドネの子たりし爲にも、奇《くす》しくさげすまるべき姿の爲にも、心の怯額《おくれ》を壓《お》さず 八八―九〇
王者の如くインノチェンツィオにその嚴《いかめ》しき企《くはだて》を明《あか》し、己が分派《わかれ》のために彼より最初の印を受けたり 九一―九三
貧しき民の彼――そのいと妙《たへ》なる生涯はむしろ天の榮光の中に歌はるゝかたよかるべし――に從ふ者増しゝ後 九四―九六
永遠《とこしへ》の靈は、オノリオの手を經て、この法主《ほふしゆ》の聖なる志に第二の冠を戴かしめき 九七―九九
さて彼殉教に渇き、驕《おご》るソルダンの目前《めのまへ》にて、クリストとその從者等のことを宣べしも 一〇〇―一〇二
民心熟せず、歸依者《きえしや》なきを見、空しく止まらんよりはイタリアの草の實をえんとて歸り、その時 一〇三―一〇五
テーヴェロとアルノの間の粗《あら》き巖の中にて最後の印をクリストより受け、二年《ふたとせ》の間これを己が身に帶《お》びき 一〇六―一〇八
彼を選びてかゝる幸《さいはひ》に到らしめ給ひし者、彼を召し、身を卑《ひく》うして彼の得たる報《むくい》をば與ふるをよしとし給へる時 一〇九―一一一
正しき嗣子《よつぎ》等に薦《すゝ》むるごとく彼その兄弟達に己が最愛の女を薦め、まめやかにこれを愛せと命じ 一一二―一一四
かくして尊き魂は、かの女の懷《ふところ》を離れて己が王國に歸るを願へり、またその肉體の爲に他の柩《ひつぎ》を求めざりき 一一五―一一七
いざ思へ、大海《おほうみ》に浮ぶピエートロの船の行方《ゆくへ》を誤らしめざるにあたりて彼の侶《りよ》たるに適《ふさ》はしき人のいかなる者にてありしやを 一一八―一二〇
是ぞわれらの教祖なりける、かゝれば汝は、およそ彼に從ひてその命ずる如く爲す者の者の、良貨《よきしろもの》を積むをさとらむ 一二一―一二三
されど彼の牧《か》ふ群《むれ》は新しき食物《くひもの》をいたく貪り、そがためかなたこなたの山路《やまぢ》に分れ散らざるをえざるにいたれり 一二四―一二六
しかして彼の羊遠く迷ひていよ/\彼を離るれば、いよ/\乳に乏しくなりて圈《をり》に歸る 一二七―一二九
げにその中には害を恐れ牧者に近く身を置くものあり、されど少許《すこし》の布にてかれらの僧衣《ころも》を造るに足るほどその數少し 一三〇―一三二
さてもしわが言葉|微《かすか》ならずば、またもし汝心をとめて聽きたらんには、しかしてわが既にいへることを再び心に想ひ起さば 一三三―一三五
汝の願ひの一部は滿《み》つべし、そは汝|削《けづ》られし木を見、何故に革紐《かはひも》を纏《まと》ふ者が「迷はずばよく肥《こ》ゆるところ」と 一三六―一三八
論《あげつ》らふやを知るべければなり。
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   第十二曲

かの福なる焔|最終《をはり》の語《ことば》をいへるとき、聖なる碾石《ひきうす》たゞちに※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》りはじめたり 一―三
しかしてその未だ一周《ひとめぐり》せざるまに、いま一の碾石まろくこれを圍《かこ》みつゝ、舞をば舞に歌をば歌にあはせたり 四―六
この歌は、かのうるはしき笛よりいで、さながら元の輝《かゞやき》が映《うつ》れる光に優《まさ》る如く、われらのムーゼわれらのシレーネにまさる 七―九
イウノネその侍女《はしため》に命ずれば、相並び色も等しき二の弓、やはらかき雲の中に張られ 一〇―一二
(外《そと》の弓|内《うち》の弓より生る、その状《さま》かの流離《さすらひ》の女、日の爲に消ゆる霧かとばかり戀の爲に消たる者の言葉に似たり) 一三―一五
世の人々をして、神がノエと立て給ひし契約にもとづき、世界にふたゝび洪水なきを卜《ぼく》せしむ 一六―一八
かくの如く、これらの不朽の薔薇の二の花圈《はなわ》はわれらの周圍《まはり》をめぐり、またかくの如く、その外の圈《わ》内の圈と相適《あひかな》ひたり 一九
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