かくいへる時、我は多くの焔が段《きだ》より段にくだりてめぐり、かつめぐるごとにいよ/\美しくなるを見き 一三六―一三八
かくてかれらはこの焔のほとりに來り止まりて叫び、世に此《たぐひ》なきまで強き響きを起せり 一三九―一四一
されど我はその雷《いかづち》に堪へずして、聲の何たるを解《げ》せざりき 一四二―一四四
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   第二十二曲

驚異《おどろき》のあまり、我は身をわが導者に向はしむ、その状《さま》事ある毎《ごと》に己が第一の恃處《たのみどころ》に馳せ歸る稚兒《をさなご》の如くなりき 一―三
この時淑女、あたかも蒼《あをざ》めて息《いき》はずむ子を、その心をば常に勵《はげ》ます聲をもて、たゞちに宥《なだ》むる母のごとく 四―六
我に曰ふ。汝は汝が天に在《ある》を知らざるや、天は凡て聖にして、こゝに爲さるゝ事、皆熱き愛より出るを知らざるや 七―九
かの叫びさへかくまで汝を動かせるに、歌とわが笑とは、汝をいかに變らしめけむ、今汝これを量《はか》り知りうべし 一〇―一二
もしかの叫びの祈る所をさとりたりせば、汝はこれにより、汝の死なざるさきに見るべき刑罰を、既に知りたりしものを 一三―一五
そも/\天上の劒《つるぎ》たるや、斬るに當りて急《いそ》がず遲《おく》れじ、たゞ望みつゝまたは恐れつゝそを待つ者にかゝる事ありと見ゆるのみ 一六―一八
されど汝今身を他《ほか》の者の方《かた》にむくべし、わがいふごとく目を轉《めぐ》らさば、多くの名高き靈を見るべければなり。 一九―二一
彼の好むごとく我は目を向け、百の小さき球の群《むれ》ゐてその光を交《かは》しつゝいよ/\美しくなれるを見たり 二二―二四
我はさながら過ぐるを恐れて願ひの刺戟を衷《うち》に抑へ敢《あへ》て問はざる人のごとく立ちゐたるに 二五―二七
かの眞珠のうちの最《いと》大いにして最《いと》強く光るもの、己が事につきわが願ひを滿《みた》さんとて進み出でたり 二八―三〇
かくて聲その中《なか》にて曰ふ。汝もしわれらのうちに燃ゆる愛をわがごとく見ば、汝の思ひを言現はさむ 三一―三三
されど汝が、待つことにより、たふとき目的《めあて》に後《おく》れざるため、我は汝のかく愼しみて敢ていはざるその思ひに答ふべし 三四―三六
坂にカッシーノある山にては、往昔《そのかみ》巓に登りゆく迷へる曲《ゆが》める人多かりき 三七―三九
しかして我等をいと高うする眞理をば地に齎《ひと》しゝ者の名を、はじめてかの山に傳へしものは即ち我なり 四〇―四二
またいと深き恩惠《めぐみ》わが上に輝きたれば、我そのまはりの村里《むらざと》をして、世界を惑はしゝ不淨の禮拜《らいはい》を脱《のが》れしむ 四三―四五
さてこれらの火は皆默想に心を寄せ、聖なる花と實とを生ずる熱によりて燃《もや》されし人々なりき 四六―四八
こゝにマッカリオあり、こゝにロモアルドあり、またこゝに足を僧院の内に止めて道心|堅固《けんご》なりしわが兄弟達あり。 四九―五一
我彼に。我と語りて汝が示す所の愛と汝等のすべての焔にわが見て心をとむる好《よ》き姿とは 五二―五四
わが信頼の念を伸べ、そのさま日の光が薔薇を伸《の》べてその力のかぎり開くにいたらしむるごとし 五五―五七
是故に父よ汝に請ふ、われ大いなる恩惠《めぐみ》を受けて汝の貌《かたち》を顯《あらは》に見るをうべきや否《いな》や、定《さだ》かに我に知らしめよ。 五八―六〇
是においてか彼。兄弟よ、汝の尊き願ひは最後の球にて滿《みた》さるべし、こはわが願ひも他の凡ての願ひも皆|滿《みた》さるゝところなり 六一―六三
かしこにては誰《た》が願ひも備はり、熟し、圓《まどか》なり、かの球においてのみこれが各部はその常にありしところにとゞまる 六四―六六
そはこれ場所を占むるにあらず、軸を有《も》つに非《あらざ》ればなり、われらの梯子《はしご》これに達し、かく汝の目より消ゆ 六七―六九
族長ヤコブその頂の高くかしこに到るを見たり、こはこれがいと多くの天使を載せつゝ彼に現はれし時なりき 七〇―七二
然るに今はこれに登らんとて地より足を離す者なし、わが制《おきて》は紙を損《そこな》はんがために殘るのみ 七三―七五
僧坊たりしむかしの壁は巣窟となりぬ、法衣《ころも》はあしき粉《こな》の滿ちたる袋なり 七六―七八
げに不當の高利といふとも、神の聖旨《みむね》に逆《さから》ふこと、僧侶の心をかく狂はしむる果《み》には及ばじ 七九―八一
そは寺院の貯《たくはへ》は皆神によりて求むる民の物にて、親戚またはさらに賤《いや》しき人々の物ならざればなり 八二―八四
そも/\人間の肉はいと弱し、されば世にては、善く始められし事も、樫《かし》の生出《おひいづ》るより實を結ぶにいたるまでだに續かじ 八五―八
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