即ちその一者《ひとり》は、善意《よきおもひ》に戻《もど》る者なき處なる地獄より骨に歸れり、是|抑※[#二の字点、1−2−22]《そも/\》生くる望みの報《むくい》にて 一〇六―一〇八
この生くる望みこそ、彼の甦りその思ひの移るをうるにいたらんため神に捧げまつれる祈りに力をえしめたりしなれ 一〇九―一一一
件《くだん》の尊き魂は肉に歸りて(たゞ少時《しばし》これに宿りき)、己を助くるをうるものを信じ 一一二―一一四
信じつゝ眞《まこと》の愛の火に燃えしかば、第二の死に臨みては、この樂しみを享《う》くるに適《ふさ》はしくなりゐたり 一一五―一一七
また一者《ひとり》は、被造物《つくられしもの》未だ嘗《かつ》て目を第一の波に及ぼしゝことなきまでいと深き泉より流れ出る恩惠《めぐみ》により 一一八―一二〇
その愛を世にてこと/″\く正義に向けたり、是故に恩惠《めぐみ》恩惠に加はり、神彼の目を開きて我等の未來の贖《あがなひ》を見しめぬ 一二一―一二三
是においてか彼これを信じ、其後異教の惡臭《をしう》を忍ばず、かつその事にて多くの悖《もと》れる人々を責めたり 一二四―一二六
汝がかの右の輪の邊《ほとり》に見しみたりの淑女は、洗禮《バッテスモ》の事ありし時より一千年餘の先に當りて彼の洗禮となりたりき 一二七―一二九
あゝ永遠《とこしへ》の定《さだめ》よ、第一の原因《もと》を見きはむるをえざる目に汝の根の遠ざかることいかばかりぞや 一三〇―一三二
また汝等人間よ愼みて事を斷ぜよ、われら神を見る者といへども猶《なほ》凡ての選ばれし者を知らじ 一三三―一三五
而して我等かく缺處《かくるところ》あるを悦ぶ、我等の幸《さいはひ》は神の思召《おぼしめ》す事をわれらもまた思ふといふその幸によりて全うせらるればなり。 一三六―一三八
かくかの神の象《かたち》、わが近眼《ちかめ》をいやさんとて、われにこゝちよき藥を與へき 一三九―一四一
しかしてたとへば巧みに琵琶を奏《かな》づる者が、絃《いと》の震動《ゆるぎ》を、巧みに歌ふ者と合《あは》せて、歌に興を添ふるごとく 一四二―一四四
(憶ひ出づれば)我は鷲の語る間、二のたふとき光が言葉につれて焔を動かし、そのさま雙《さう》の目の 一四五―一四七
時|齊《ひと》しく瞬《またゝ》くに似たるを見たり
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   第二十一曲

はやわが目は再びわが淑女の顏に注《そゝ》がれ、目とともに意《こゝろ》もこれに注がれて他の一切の思ひを離れき 一―三
この時淑女ほゝゑまずして我に曰ふ。我もしほゝゑまば、汝はあたかも灰となりしときのセーメレの如くになるべし 四―六
これ永遠《とこしへ》の宮殿《みや》の階《きざはし》を傳ひていよ/\高く登るに從ひいよ/\燃ゆる(汝の見し如く)わが美しさは 七―九
和《やはら》げらるゝに非《あらざ》ればいと強く赫《かゞや》くが故に、人たる汝の力その光に當りてさながら雷に碎かるゝ小枝の如くなるによるなり 一〇―一二
われらは擧げられて第七の輝の中にあり、こは燃ゆる獅子の胸の下にてその力とまじりつゝ今下方を照らすもの 一三―一五
汝|意《こゝろ》を雙の目の行方《ゆくへ》にとめてかれらを鏡とし、いまこの鏡に見ゆる像《かたち》をこれに映《うつ》せ。 一六―一八
我わが思ひを變へしそのとき、かのたふとき姿のうちにわが目いかなる喜びをえしや、そを知る者は 一九―二一
彼方《かなた》と此方《こなた》とを權《はか》り比《くら》べてしかして知らむ、わが天上の案内者《しるべ》の命に從ふことのいかばかり我に樂しかりしやを 二二―二四
世界のまはりをめぐりつゝその名立《なだゝ》る導者の――一切の邪惡かれの治下《みよ》に滅びにき――名を負《お》ふ水晶の中に 二五―二七
我は一の樹梯《はしだて》を見たり、こは日の光に照らさるゝ黄金《こがね》の色にて、わが目の及ぶあたはざるほど高く聳《そび》えき 二八―三〇
我また段《きだ》を傳ひて諸※[#二の字点、1−2−22]の光の降るを見たり、その數《かず》は最《いと》多く、我をして天に現はるゝ一切の光かしこより注がると思はしむ 三一―三三
自然の習《ならひ》とて、晝の始め、冷やかなる羽をあたゝめんため、鴉《からす》むらがりて飛び 三四―三六
後或者は往《ゆ》きて還《かへ》らず、或者はさきにいでたちし處にむかひ、或者は殘りゐてめぐる 三七―三九
むらがり降れるかの煌《きらめき》も、とある段《きだ》に着くに及びて、またかくの如く爲すと見えたり 四〇―四二
しかして我等にいと近く止まれる光|殊《こと》に燦《あざやか》になりければ、われ心の中にいふ、我よく汝の我に示す愛を見ると 四三―四五
されど何時《いつ》如何《いか》に言ひまたは默《もだ》すべきやを我に教ふる淑女身を動かすことをせ
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