《わざ》はこの後|遍《あまね》く世に知られ、その敵さへこれについて口を噤《つぐ》むをえざるにいたらむ 八五―八七
汝彼と彼の恩惠《めぐみ》とを望み待て、彼あるによりて多くの民改まり、貧富|互《かたみ》に地を更《か》へむ 八八―九〇
汝また彼の事を心に記して携《たづさ》へ行くべし、されど人に言ふ莫《なか》れ。かくて彼は面《まのあたり》見る者もなほ信ずまじきことどもを告げ 九一―九三
後加ふらく。子よ、汝が聞きたる事の解説《ときあかし》は即ち是なり、是ぞ多からぬ年の後方《うしろ》にかくるゝ係蹄《わな》なる 九四―九六
されど汝の隣人《となりびと》等を妬《ねた》むなかれ、汝の生命《いのち》はかれらの邪惡の罰よりも遙に遠き未來に亘るべければなり。 九七―九九
かの聖なる魂|默《もだ》し、經《たていと》を張りてわが渡したる織物に緯《よこいと》を入れ終りしことをあらはせる時 一〇〇―一〇二
あたかも疑ひをいだく者が、智あり徳あり愛ある人の教へを希《ねが》ふごとく、我|曰《いひ》けるは 一〇三―一〇五
わが父よ、我よく時の我に打撃を與へんとてわが方《かた》に急ぎ進むを見る、しかしてこは思慮なき人にいと重く加へらるべき打撃なり 一〇六―一〇八
是故にわれ先見をもて身を固《かた》むるを宜《よ》しとす、さらばたとひ最愛の地を奪はるともその他の地をばわが歌の爲に失ふことなからむ 一〇九―一一一
果《はてし》なき苦しみの世にくだり、またわが淑女の目に擧げられて美しき巓をばわが離れしその山をめぐり 一一二―一一四
後また光より光に移りつゝ天を經《へ》てわが知るをえたる事を我もし語らば、そは多くの人にとりて味《あぢはひ》甚だ辛《から》かるべし 一一五―一一七
されど我もし眞理に對《むか》ひて卑怯の友たらんには、今を昔と呼ぶ人々の間に生命《いのち》を失ふの恐れあり。 一一八―一二〇
かのわが寶のほゝゑむ姿を包みし光は、まづ日の光にあたる黄金《こがね》の鏡のごとく煌《きらめ》き 一二一―一二三
かくて答ふらく。己が罪または他人《ひと》の罪の爲に曇れる心は、げに汝の言《ことば》を烈《はげ》しと感ぜむ 一二四―一二六
しかはあれ、一切の虚僞《いつはり》を棄てつゝ、汝の見し事をこと/″\くあらはし、瘡《かさ》ある處は人のこれを掻くに任《まか》せよ 一二七―一二九
汝の聲はその味《あぢ》はじめ厭《いと》はしとも、後|消化《こな》るゝに及び極めて肝要なる滋養《やしなひ》を殘すによりてなり 一三〇―一三二
汝の叫びの爲す所あたかも最《いと》高き巓をいと強くうつ風の如し、是|豈《あに》譽《ほまれ》のたゞ小《さゝ》やかなる證《あかし》ならんや 一三三―一三五
是故にこれらの天にても、かの山にても、またかの苦患《なやみ》の溪にても、汝に示されしは、名の世に知らるゝ魂のみ 一三六―一三八
そは例を引きてその根知られずあらはれず、證《あかし》して明らかならざれば、人聞くとも心安まらず、信をこれに置かざればなり。 一三九―一四一
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第十八曲
福《さいはひ》なるかの鏡は今たゞ己が思ひを樂しみ、我はわが思ひを味ひつゝ、甘さをもて苦しさを和げゐたりしに 一―三
我を神のみもとに導きゐたる淑女いひけるは。思ひを變へよ、一切の虐《しひたげ》を輕むるものにわが近きを思ふべし。 四―六
我はわが慰藉《なぐさめ》の慕はしき聲を聞きて身を轉《めぐら》せり、されどこの時かの聖なる目の中にいかなる愛をわが見しや、こゝに記《しる》さじ 七―九
これ我自らわが言《ことば》を頼《たの》まざるのみならず、導く者なくばかく遠く記憶に溯《さかのぼ》る能《あた》はざるによりてなり 一〇―一二
かの刹那《せつな》のことについてわが語るを得るは是のみ、曰く、彼を視るに及びわが情は他の一切の願ひより解かると 一三―一五
ベアトリーチェを直ちに照らせる永遠《とこしへ》の喜びその第二の姿をば美しき目に現はしてわが心を足《たら》はしゐたりしとき 一六―一八
一の微笑《ほゝゑみ》の光をもて我を服《したが》へつゝ淑女曰ふ。身を轉《めぐら》してしかして聽け、わが目の中にのみ天堂あるにあらざればなり。 一九―二一
情もし魂を悉く占むるばかりに強ければ、目に現はるゝことまゝ世に例《ためし》あり 二二―二四
かくの如く、我はわがふりかへりて見し聖なる光の輝の中に、なほしばし我と語るの意あるを認めき 二五―二七
このものいふ。頂によりて生き、常に實を結び、たえて葉を失はぬ木のこの第五座に 二八―三〇
福なる諸※[#二の字点、1−2−22]の靈あり、かれらは天に來らざりしさき、いかなるムーザをも富《と》ますばかり世に名聲《きこえ》高かりき 三一―三三
是故にかの十字架の桁《けた》を見よ、我今名をいはん、さらばその者あたか
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