分離の爲紅に變ることもなかりき[#一五四]
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   第十七曲

今|猶《なほ》父をして子に對《むか》ひて吝《やぶさか》ならしむる者、人の己を誹《そし》るを聞き、事の眞《まこと》を定《さだ》かにせんためクリメーネの許《もと》に行きしことあり 一―三
我また彼の如くなりき、而してベアトリーチェも、また先にわがために處を變へしかの聖なる燈《ともしび》も、わが彼の如くなりしを知りき 四―六
是故に我淑女我に曰ふ。汝の願ひの焔を放て、そが汝の心の象《かた》をあざやかにうけていづるばかりに 七―九
されどこは汝の言《ことば》によりてわれらの知識の増さん爲ならず、汝が渇《かわき》を告ぐるに慣《な》れ、人をして汝に飮ますをえしめん爲なり。 一〇―一二
あゝ愛するわが根よ(汝いと高くせられ、あたかも人智が一の三角の内に二の鈍角の容《い》れられざるを知るごとく 一三―一五
苟且《かりそめ》の事をその未だ在らざるさきに知るにいたる、これ時の現在《いま》ならぬはなき一の點を視るがゆゑなり) 一六―一八
われヴィルジリオと倶《とも》にありて、諸※[#二の字点、1−2−22]の魂を癒《いや》す山に登り、また死の世界にくだれる間に 一九―二一
わが將來《ゆくすゑ》の事につきて諸※[#二の字点、1−2−22]のいたましき言《ことば》を聞きたり、但し命運我を撃《う》つとも我よく自らとれに堪《た》ふるをうるを覺ゆ 二二―二四
是故にいかなる災《わざはひ》のわが身に迫《せま》るやを聞かばわが願ひ滿《み》つべし、これ豫《あらかじ》め見ゆる矢はその中る力弱ければなり。 二五―二七
さきに我に物言へる光にむかひて我かくいひ、ベアトリーチェの望むごとくわが願ひを明《あか》したり 二八―三〇
諸※[#二の字点、1−2−22]の罪を取去る神の羔《こひつじ》未だ殺されざりし昔、愚《おろか》なる民を惑《まど》はしゝその語《ことば》の如く朧《おぼろ》ならず 三一―三三
明らかにいひ定かに語りてかの父の愛、己が微笑《ほゝゑみ》の中に隱れかつ顯《あら》はれつゝ、答ふらく 三四―三六
それ苟且《かりそめ》の事即ち汝等の物質の書《ふみ》より外に延びざる事はみな永遠《とこしへ》の目に映ず 三七―三九
されど映ずるが爲にこの事必ず起るにあらず、船流れを下りゆけどもそのうつる目の然らしむるにあらざるに似たり 四〇―四二
この永遠の目より汝の行末のわが目に入り來ることあたかも樂器よりうるはしき和合の音の耳に入り來る如し 四三―四五
イッポリートが無情邪險の繼母《まゝはゝ》の爲にアテーネを去れるごとく、汝フィオレンツァを去らざるべからず 四六―四八
日毎《ひごと》にクリストの賣買《うりかひ》せらるゝ處にてこれを思ひめぐらす者これを願ひかつはや企圖《たくみ》ぬ、さればまた直ちにこれを行はむ 四九―五一
虐《しひた》げられし人々に世はその常の如く罪を歸すべし、されど刑罰はこれを頒《わか》ち與ふるものなる眞《まこと》の爲の證《あかし》とならむ 五二―五四
いと深く愛する物をば汝|悉《こと/″\》く棄て去らむ、是即ち流罪《るざい》の弓の第一に射放つ矢なり 五五―五七
他人《ひと》の麺麭《パン》のいかばかり苦《にが》く他人《ひと》の階子《はしご》の昇降《のぼりくだり》のいかばかりつらきやを汝自ら驗《ため》しみむ 五八―六〇
しかして最も重く汝の肩を壓《お》すものは、汝とともにこの溪《たに》に落つる邪惡庸愚の侶なるべし 六一―六三
かれら全く恩を忘れ狂ひ猛《たけ》りて汝に背《そむ》かむ、されどかれら(汝にあらず)はこれが爲に程なく顏を赤うせむ 六四―六六
かれらの行爲《おこなひ》は獸の如きその性《さが》の證《あかし》とならむ、されば汝|唯一人《たゞひとり》を一の黨派たらしむるかた汝にとりて善《よ》かるべし 六七―六九
汝の第一の避所《さけどころ》第一の旅舍《やどり》は、聖なる鳥を梯子《はしご》の上におくかの大いなるロムバルディア人《びと》の情《なさけ》ならむ 七〇―七二
彼汝に對《むか》ひて深き好意《よしみ》を有《も》つが故に、爲す事と求むる事との中《うち》他の人々の間にてはいと遲きものも汝等|二人《ふたり》の間にては先となるべし 七三―七五
己が功《いさを》の世に顯《あら》はるゝにいたるばかりこの強き星の力を生るゝ時に受けたる者をば汝彼の許《もと》に見む 七六―七八
人々未だこの者を知らじ、そはその年若く諸天のこれをめぐれることたゞ九年《こゝのとせ》のみなればなり 七九―八一
されどかのグアスコニア人《びと》が未だ貴きアルリーゴを欺《あざむ》かざるさきにその徳の光は、銀《かね》をも疲《つかれ》をも心にとめざる事において現はれむ 八二―八四
その諸※[#二の字点、1−2−22]の榮《はえ》ある業
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