船手を統《す》ぶる人々なるべし)。 一五四―一五六
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第十四曲
死いまだ羽を與へざるに我等の山をめぐり、己が意《こゝろ》のまゝに目を開きまた閉づる者は誰ぞや。 一―三
誰なりや我知らず、我たゞその獨りならざるをしる、汝彼に近ければ自ら問ふべし、快く彼を迎へてものいはしめよ。 四―六
たがひに凭《もた》れし二の靈右の方《かた》にてかくわが事をいひ、さて我に物いはむとて顏をあげたり 七―九
その一者《ひとり》曰ふ。あゝ肉體につゝまれて天にむかひてゆく魂よ、請ふ愛のために我等を慰め、我等に告げよ 一〇―一二
汝いづこより來りしや、また誰なりや、我等汝の恩惠《めぐみ》をみていたく驚く、たえて例《ためし》なきことのかく驚かすは宜《うべ》なればなり。 一三―一五
我。トスカーナの中部をわけてさまよふ一の小川あり、ファルテロナよりいで、流るゝこと百|哩《ミーリア》にしてなほ足れりとなさず 一六―一八
その邊《ほとり》より我はこの身をはこべるなり、我の誰なるを汝等に告ぐるは、わが名未だつよく響かざれば、空しく言《ことば》を費すに過ぎず。 一九―二一
はじめ語れるものこの時我に答へて曰ふ。我よく智をもて汝の意中を穿つをえば、汝がいへるはアルノの事ならむ。 二二―二四
その侶《とも》彼に曰ふ。この者何ぞかの流れの名を匿すこと恰も恐るべきことを人のかくすごとくするや。 二五―二七
かく問はれし魂その負債《おひめ》を償《つぐの》ひていふ。我知らず、されどかゝる溪の名はげに滅び失するをよしとす 二八―三〇
そはその源、ペロロを斷たれし高山《たかやま》の水|豐《ゆたか》なる處(かの山の中《うち》これよりゆたかなる處少なし)より 三一―三三
海より天の吸上ぐる物(諸※[#二の字点、1−2−22]の川これによりてその中に流るゝものを得《う》)を返さんとて、その注ぐ處にいたるまで 三四―三六
地の幸《さち》なきによりてなるか、または惡しき習慣《ならはし》にそゝのかさるゝによりてなるか、人皆徳を敵と見做して逐出《おひいだ》すこと蛇の如し 三七―三九
此故にかのあはれなる溪に住む者、いちじるしくその性《さが》を變へ、あたかもチルチェに飼《か》はるゝに似たり 四〇―四二
人の爲に造られし食物《くひもの》よりは橡實《つるばみ》を喰ふに適《ふさ》はしき汚《きたな》き豚の間に、この川まづその貧しき路を求め 四三―四五
後くだりつゝ群《むらが》る小犬の己が力をかへりみずして吠え猛るを見ていやしとし、その顏を曲げて彼等をはなる 四六―四八
くだり/\て次第に水嵩《みづかさ》を増すに從ひ、この詛はるゝ不幸の溝《みぞ》、犬の次第に狼に變はるをみ 四九―五一
後また多くの深き淵を傳ひてくだり、智の捕ふるを恐れざるばかりに欺罔《たばかり》滿ちたる狐の群《むれ》にあふ 五二―五四
われ聞く者あるがために豈口を噤まんや、この者この後|眞《まこと》の靈の我にあらはすところを想はば益をえむ 五五―五七
我汝の孫を見るに、彼猛き流れの岸にかの狼を獵り、かれらをこと/″\く怖れしむ 五八―六〇
彼その肉を生けるまゝにて賣り、後これを屠ること老いたる獸に異ならず、多くの者の生命《いのち》を奪ひ自ら己が譽《ほまれ》をうばふ 六一―六三
彼血に塗《まみ》れつゝかの悲しき林を出づれば、林はいたくあれすたれて今より千年《ちとせ》にいたるまで再びもとのさまにかへらじ。 六四―六六
いたましき禍ひの報《しらせ》をうくれば、その難いづれのところより襲ふとも、聞く者顏を曇らすごとく 六七―六九
むきなほりて聞きゐたるかの魂もまたこの詞にうたれ、氣色をかへて悲しみぬ 七〇―七二
一者《ひとり》の言《ことば》と一者の容子《けはひ》は、彼等の名を知らんとの願ひを我に起させき、我はかつ問ひかつ請へり 七三―七五
最初《はじめ》に我に物いへる靈即ち曰ふ。汝は汝のわがために爲すを好まざることを、枉げて我に爲さしめんとす 七六―七八
されど神の聖旨《みむね》によりてかく大いなる恩惠《めぐみ》汝の中に輝きわたれば我も汝に寄に吝《やぶさか》ならじ、知るべし我はグイード・デル・ドゥーカなり 七九―八一
わが血は嫉妬《ねたみ》のために湧きたり、我若し人の福ひを見たらんには、汝は我の憎惡《にくしみ》の色に被《おほ》はるゝをみたりしなるべし 八二―八四
我自ら種を蒔きて今かゝる藁を刈る、あゝ人類よ、侶《とも》を除かざるをえざるところに何ぞ汝等の心を寄するや 八五―八七
此はリニエールとてカールボリ家の誇また譽なり、彼の力を襲《つ》ぐものその後かしこよりいでざりき 八八―九〇
ポーと山と海とレーノの間にて、眞《まこと》と悦びに缺くべからざる徳をかくにいたれるものたゞその血統《ちすぢ》のみならず 九一―九三
有毒《うどく》の雜木《ざつぼく》これらの境界《さかひ》の内に滿つれば、今はたとひ耕すともたやすく除《のぞ》き難からむ 九四―九六
善きリーチオ、アルリーゴ・マナルディ、ピエール・トラヴェルサーロ、グイード・ディ・カルピーニア今|何處《いづこ》にかある、噫※[#二の字点、1−2−22]庶子となれる 九七―
ローマニア人《びと》等よ、フアッブロの如き者いつか再びボローニアに根差《ねざ》さむ、賤しき草の貴き枝ベルナルディン・ディ・フォスコの如き者
いつか再びファーエンツァよりいでむ、トスカーナ人《びと》よ、かのグイード・ダ・プラータ、我等と住めるウゴリーン・ダッツォ
フェデリーゴ・ティニヨーソ及びその侶《とも》、トラヴェルサーラ家アナスタージ(いづれの族《やから》も世繼なし)
また淑女騎士、人の心かく惡しくなりし處にて愛と義氣にはげまされて我等が求めし苦樂を憶ひ出づる時、我泣くともあやしむなかれ ―一一一
あゝブレッティノロよ、汝の族《やから》と多くの民は罪を避けてはや去れるに、汝何ぞ亡びざるや 一一二―一一四
バーニアカヴァールは善し、再び男子《なんし》を生まざればなり、カストロカーロは惡し、而してコーニオは愈※[#二の字点、1−2−22]あし、今も力《つと》めてかゝる伯等《きみたち》を 一一五―
生めばなり、パガーニはその鬼去るの後よからむ、されど無垢《むく》の徴《しるし》をあとに殘すにいたらじ ―一二〇
あゝウゴリーン・デ・ファントリーンよ、汝の名は安し、そは父祖に劣りてこれを辱《はづか》しむる者いづるの憂ひなければなり 一二一―一二三
いざ往けトスカーナ人よ、われらの談話《ものがたり》いたく心を苦しめたれば、今はわれ語るよりなほはるかに泣くをよろこぶ。 一二四―一二六
我等はかの愛する魂等がわれらの足音を聞けるを知れり、されば彼等の默《もだ》すをみて路の正しきを疑はざりき 一二七―一二九
我等進みてたゞふたりとなりしとき、空を擘《つんざ》く電光《いなづま》のごとき聲前より來り 一三〇―一三二
およそ我に遇ふ者我を殺さむといひ、雲|遽《にはか》に裂くれば音《おと》細《ほそ》りてきゆる雷《いかづち》のごとく過ぐ 一三三―一三五
この聲我等の耳に休歇《やすみ》をえさせし程もなく見よまた一の聲、疾《と》く續く雷に似て高くはためき 一三六―一三八
我は石となれるアグラウロなりといふ、この時われ身を近く詩人に寄せんとて一歩あとに(まへに進まず)退きぬ 一三九―一四一
四方《よも》の空はや靜かになりぬ、彼我に曰ふ。これは硬き銜《くつわ》にて己が境界《さかひ》の内に人をとどめおくべきものなり 一四二―一四四
しかるに汝等は餌をくらひ、年へし敵の魚釣《はり》にかゝりてその許に曳かれ、銜《くつわ》も呼《よび》も殆んど益なし 一四五―一四七
天は汝等を招き、その永遠《とこしへ》に美しき物を示しつゝ汝等をめぐる、されど汝等の目はたゞ地を見るのみ 一四八―一五〇
是に於てか萬事《よろづのこと》をしりたまふもの汝等を撃つ。 一五一―一五三
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第十五曲
暮《くれ》にむかひてすゝむ日のなほ殘せる路の長さは、たえず戲るゝこと稚子《をさなご》のごとき球のうち 一―
晝の始めより第三時の終りに亙りてあらはるゝところと同じとみえたり、かしこは夕《ゆふべ》こゝは夜半《よは》なりき ―六
我等既に多く山をめぐり、いまはまさしく西にむかひて歩めるをもて光まともに我等をてらしゐたりしに 七―九
我はその輝《かゞやき》ひときは重くわが額を壓《お》すをおぼえしかば、事の奇《くす》しきにおどろきて 一〇―一二
雙手《もろて》を眉のあたりに翳《かざ》し、つよきに過ぐる光を減《へ》らす一の蔽物《おほひ》をわがために造れり 一三―一五
水または鏡にあたりて光反する方に跳《は》ぬれば、くだるとおなじさまにてのぼり 一六―
その間隔《あはひ》をひとしうして垂線をはなるゝは、學理と經驗によりてしらる ―二一
我もかゝる時に似て、わが前に反映《てりかへ》す光に射らるゝごとくおぼえき、さればわが目はたゞちに逃げぬ 二二―二四
われいふ。やさしき父よ、かの物何ぞや、我これを防ぎて目を護らんとすれども益なし、またこはこなたに動くに似たり。 二五―二七
答へて我に曰ふ。天の族《やから》今なほ汝をまばゆうすとも異《あや》しむなかれ、こは人を招きて登らしめんために來れる使者《つかひ》なり 二八―三〇
これらのものをみること汝の患《うれ》へとならずして却つて自然が汝に感ずるをえさするかぎりの悦樂《たのしみ》となる時速かにいたらむ。 三一―三三
我等|福《さいはひ》なる天使の許にいたれるに、彼喜ばしき聲にていふ。汝等こゝより入るべし、さきの階《きざはし》よりははるかに易き一の階そこにあり。 三四―三六
我等既にかしこを去りて登れるとき、慈悲ある者は福なり[#「慈悲ある者は福なり」に白丸傍点]、また、悦べ汝|勝者《かつもの》よとうたふ聲|後《うしろ》に起れり 三七―三九
わが師と我とはたゞふたりにて登りゆけり、我は行きつゝ師の言《ことば》をききて益をえんことをおもひ 四〇―四二
これにむかひていひけるは。かのローマニアの魂が除く[#「除く」に白丸傍点]といひ侶[#「侶」に白丸傍点]といへるは抑※[#二の字点、1−2−22]何の意《こゝろ》ぞや。 四三―四五
是に於てか彼我に。彼は己の最大《いとおほ》いなる罪より來る損害《そこなひ》を知る、此故にこれを責めて人の歎《なげき》を少なからしめんとすとも異《あや》しむに足らず 四六―四八
それ汝等の願ひの向ふ處にては、侶と頒《わか》てば分減ずるがゆゑに、嫉妬《ねたみ》鞴《ふいご》を動かして汝等に大息《といき》をつかしむれども 四九―五一
至高《いとたか》き球の愛汝等の願ひを上にむかはしむれば、汝等の胸にこのおそれなし 五二―五四
そはかしこにては、我等の[#「我等の」に白丸傍点]所有《もちもの》と稱《とな》ふる者愈※[#二の字点、1−2−22]多ければ、各自《おの/\》の享《う》くる幸《さいはひ》愈※[#二の字点、1−2−22]多く、かの僧院に燃ゆる愛亦愈※[#二の字点、1−2−22]多ければなり。 五五―五七
我曰ふ。我若しはじめより默《もだ》したりせば、斯く足《た》らはぬことなかりしものを、今は却つて多くの疑ひを心に集む 五八―六〇
一の幸《さいはひ》を頒つにあたり、これを享くる者多ければ、享くる者少なき時より所得多きは何故ぞや。 六一―六三
彼我に。汝は心を地上の物にのみとむるがゆゑに眞《まこと》の光より闇を摘む 六四―六六
かの高きにいまして極《きはみ》なくかつ言ひ難き幸《さいはひ》は、恰も光線の艶《つや》ある物に臨むがごとく、馳せて愛にいたり 六七―六九
熱に應じて己を與ふ、されば愛の大いなるにしたがひ永劫の力いよ/\その上に加はる 七〇―七二
心を天に寄する民愈※[#二の字点、1−2−22]多ければ、深く愛すべき物愈※[#二の字点、1−2−22]多く、彼等の愛亦愈※[#二の字点、1−2−22]多し、而して彼等の互ひに己を映《うつ》すこと鏡に似たり 七三―七五
若しわが説くところ汝の饑《うゑ》を鎭《しづ》
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