しむ、されば彼等の事につきわが目もはじめ爭へるなり 一一五―一一七
されど汝よくかしこをみ、かの石の下になりて來るものをみわくべし、汝は既におのおののいかになやむやを認むるをえむ。 一一八―一二〇
噫※[#二の字点、1−2−22]心|傲《たかぶる》が基督教徒《クリステイアン》よ、幸《さち》なき弱れる人々よ、汝等|精神《たましひ》の視力衰へ、後退《あとじさり》して進むとなす 一二一―一二三
知らずや人は、裸《はだか》のまゝ飛びゆきて審判《さばき》をうくる靈體の蝶を造らんとて生れいでし蟲なることを 一二四―一二六
汝等は羽ある蟲の完《まつた》からず、這ふ蟲の未だ成り終らざるものに似たるに、汝等の精神《たましひ》何すれぞ高く浮び出づるや 一二七―一二九
天井または屋根を支ふるため肱木《ひぢき》に代りてをりふし一の像の膝を胸にあて 一三〇―一三二
眞《まこと》ならざる苦しみをもて眞の苦しみを見る人に起さしむることあり、われ心をとめて彼等をみしにそのさままた斯の如くなりき 一三三―一三五
但し背に負ふ物の多少に從ひ、彼等の身を縮むること一樣ならず、しかして最も忍耐強《しのびづよ》しと見ゆる者すら 一三六―一三八
なほ泣きつゝ、我堪へがたしといふに似たりき 一三九―一四一
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第十一曲
限らるゝにあらず、高き處なる最初《はじめ》の御業《みわざ》をいと潔く愛したまふがゆゑに天に在《いま》す我等の父よ 一―三
願はくは萬物《よろづのもの》うるはしき聖息《みいき》に感謝するの適《ふさ》はしきをおもひ、聖名《みな》と聖能《みちから》を讚《ほ》めたたへんことを 四―六
爾國《みくに》の平和を我等の許《もと》に來らせたまへ、そは若し來らずば、我等|意《こゝろばせ》を盡すとも自ら到るあたはざればなり 七―九
天使等《みつかひたち》オザンナを歌ひつゝ己が心を御前《みまへ》にさゝげまつるなれば、人またその心をかくのごとくにさゝげんことを 一〇―一二
今日《けふ》も我等に日毎のマンナを與へたまへ、これなくば、この曠野《あらの》をわけて進まんとて、最もつとむる者も退く 一三―一五
我等のうけし害《そこなひ》をわれら誰にも赦すごとく、汝も我等の功徳《くどく》を見たまはず、聖惠《みめぐみ》によりて赦したまへ 一六―一八
いとよわき我等の力を年へし敵の試《こゝろみ》にあはせず、巧みにこれを唆《そゝの》かす者よりねがはくは救ひ出したまへ 一九―二一
この最後《をはり》の事は、愛する主よ、我等|祈《ね》ぎまつるに及ばざれども、かくするはげに己の爲にあらずしてあとに殘れる者のためなり。 二二―二四
斯く己と我等のために幸《さち》多き旅を祈りつゝ、これらの魂は、人のをりふし夢に負ふごとき重荷《おもに》を負ひ 二五―二七
等しからざる苦しみをうけ、みな疲れ、世の濃霧《こききり》を淨めつゝ第一の臺《うてな》の上をめぐれり 二八―三〇
彼等もし我等のためにかしこにたえず幸《さいはひ》を祈らば、己が願ひに良根《よきね》を持つ者、こゝに彼等のために請ひまた爲しうべき事いかばかりぞや 三一―三三
我等は彼等が清く輕くなりて諸※[#二の字点、1−2−22]の星の輪にいたるをえんため、よく彼等を助けて、そのこゝより齎《もた》らせし汚染《しみ》を洗はしむべし 三四―三六
あゝ願はくは正義と慈悲速かに汝等の重荷《おもに》を取去り、汝等翼を動かして己が好むがまゝに身を上ぐるをえんことを 三七―三九
請ふいづれの道の階《きざはし》にいとちかきやを告げよ、またもし徑《こみち》一のみならずば、嶮《けは》しからざるものを教へよ 四〇―四二
そは我にともなふこの者、アダモの肉の衣《ころも》の重荷《おもに》あるによりて、心いそげど登ることおそければなり。 四三―四五
我を導く者斯くいへるとき、彼等の答への誰より出でしやはあきらかならざりしかど 四六―四八
その言にいふ。岸を傳ひて我等とともに右に來《こ》よ、さらば汝等は生くる人の登るをうべき徑《こみち》を見ん 四九―五一
我若しわが傲慢《たかぶり》の項《うなじ》を矯《た》め、たえずわが顏を垂れしむるこの石に妨げれずば 五二―五四
名は聞かざれど今も生くるその者に目をとめ、わが彼を知るや否やをみ、この荷のために我を憐ましむべきを 五五―五七
我はラチオの者にて、一人《ひとり》の大いなるトスカーナ人《びと》より生れぬ、グイリエルモ・アルドブランデスコはわが父なりき、この名汝等の間に 五八―
聞えしことありや我知らず、わが父祖の古き血と讚《ほ》むべき業《わざ》我を僭越ならしめ、我は母の同じきをおもはずして ―六三
何人をもいたく侮りしかばそのために死しぬ、シエーナ人《びと》これを知り、カムパニヤティーコの稚兒《をさなご》もまたこぞりてこれをしる 六四―六六
我はオムベルトなり、たゞ我にのみ傲慢《たかぶり》害をなすにあらず、またわが凡ての宗族《うから》をば禍ひの中にひきいれぬ 六七―六九
神の聖心《みこゝろ》の和《やは》らぐ日までわれ此罪のためにこゝにこの重荷を負ひ、生者《しやうじや》の間に爲さざりしことを死者の間になさざるべからず。 七〇―七二
我は聞きつゝ頭《かうべ》を垂れぬ、かれらのひとり(語れる者にあらず)そのわづらはしき重荷の下にて身をゆがめ 七三―七五
我を見て誰なるやを知り、彼等と倶に全く屈《かゞ》みて歩める我に辛うじて目を注ぎつゝ我を呼べり 七六―七八
我彼に曰ふ。あゝ汝はアゴッビオの譽《ほまれ》、巴里《パリージ》にて色彩《しきさい》と稱《とな》へらるゝ技《わざ》の譽なるオデリジならずや。 七九―八一
彼曰ふ。兄弟よ、ボローニア人《びと》フランコの描けるものの華《はなや》かなるには若かじ、彼今すべての譽《ほまれ》をうく、我のうくるは一部のみ 八二―八四
わが生ける間は我しきりに人を凌《しの》がんことをねがひ、心これにのみむかへるが故に、げにかく讓《ゆづ》るあたはざりしなるべし 八五―八七
我等こゝにかゝる傲慢《たかぶり》の負債《おひめ》を償ふ、もし罪を犯すをうるときわれ神に歸らざりせば、今もこの處にあらざるならむ 八八―九〇
あゝ人力の榮《さかえ》は虚《むな》し、衰へる世の來るにあはずばその頂《いたゞき》の縁いつまでか殘らむ 九一―九三
繪にてはチマーブエ、覇を保たんとおもへるに、今はジオットの呼聲《よびごゑ》高く、彼の美名《よきな》微《かすか》になりぬ 九四―九六
また斯の如く一のグイード他のグイードより我等の言語《ことば》の榮光を奪へり、しかしてこの二者《ふたり》を巣より逐ふ者恐らくは生れ出たるなるべし 九七―九九
夫れ浮世《うきよ》の名聞《きこえ》は今|此方《こなた》に吹き今|彼方《かなた》に吹き、その處を變ふるによりて名を變ふる風の一息《ひといき》に外ならず 一〇〇―一〇二
汝たとひ年へし肉を離るゝため、パッポ、ディンディを棄てざるさきに死ぬるよりは多く世にしらるとも 一〇三―一〇五
豈|千年《ちとせ》に亙らむや、しかも千年を永劫に較ぶればその間の短きこと一の瞬《またゝき》をいとおそくめぐる天に較ぶるより甚し 一〇六―
路を刻《きざ》みてわが前をゆく者はかつてその名をあまねくトスカーナに響かせき、しかるに今はシエーナにても(その頃たかぶり今けがるゝフィレンツェの劇しき怒《いかり》亡ぼされし時彼はかしこの君なりき)殆んど彼のことをさゝやく人なし ―一一四
汝等の名は草の色のあらはれてまたきゆるに似たり、しかして草をやはらかに地より生《は》え出《いで》しむるものまたその色をうつろはす。 一一五―一一七
我彼に。汝の眞《まこと》の言《ことば》善き謙遜をわが心にそゝぎ、汝わが大いなる誇《ほこり》をしづむ、されど汝が今語れるは誰の事ぞや。 一一八―一二〇
答へて曰ふ。プロヴェンツァン・サルヴァーニなり、彼心驕りてシエーナを悉くその手に握らんとせるがゆゑにこゝにあり 一二一―一二三
彼は死にしより以來《このかた》かくのごとく歩みたり、また歩みて休《やす》らふことなし、凡て世に膽《きも》のあまりに大《ふと》き者かゝる金錢《かね》を納めて贖《あがなひ》の代《しろ》とす。 一二四―一二六
我。生命《いのち》の終り近づくまで悔ゆることをせざりし靈かの低き處に殘り、善き祈りの助けによらでは 一二七―
その齡《よはひ》に等しき時過ぐるまで、こゝに登るあたはずば、彼何ぞかく來るを許されしや。 ―一三二
彼曰ふ。彼榮達を極めし頃、一切の恥を棄て、自ら求めてシエーナのカムポにとゞまり 一三三―一三五
その友をカルロの獄《ひとや》の中にうくる苦しみの中より救ひいださんとて、己が全身をかしこに震はしむるにいたれり 一三六―一三八
我またいはじ、我わが言《ことば》の暗きを知る、されど少時《しばらく》せば汝の隣人《となりびと》等その爲すところによりて汝にこれをさとるをえしめむ 一三九―一四一
この行《おこなひ》なりき彼のためにかの幽閉を解きたるものは。 一四二―一四四
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第十二曲
我はかの重荷を負へる魂と、あたかも軛《くびき》をつけてゆく二匹の牡牛のごとく並びて、うるはしき師の許したまふ間歩めり 一―三
されど師が、彼をあとに殘して行け、こゝにては人各※[#二の字点、1−2−22]帆と櫂をもてその力のかぎり船を進むべしといへるとき 四―六
我は行歩《あゆみ》の要求《もとめ》に從ひ再び身を直《なほ》くせり、たゞわが思ひはもとのごとく屈みてかつ低かりき 七―九
我既に進み、よろこびてわが師の足にしたがひ、彼も我も既に身のいかに輕きやをあらはしゐたるに 一〇―一二
彼我に曰ふ。目を下にむけよ、道をたのしからしめむため、汝の足を載する床《ゆか》を見るべし。 一三―一五
埋《う》められし者の思出《おもひで》にとて、その上なる平地《ひらち》の墓に、ありし昔の姿|刻《きざ》まれ 一六―一八
たゞ有情《うじやう》の者をのみ蹴る記憶の刺《はり》の痛みによりてしば/\涙を流さしむることあり 一九―二一
我見しに、山より突出《つきい》でて路を成せるかの處みなまた斯の如く、象《かたち》をもて飾られき、されど技《わざ》にいたりては巧みなることその比に非ず 二二―二四
我は一側《かたがは》に、萬物《よろづのもの》のうち最も尊く造られし者が天より電光《いなづま》のごとく墜下《おちくだ》るを見き 二五―二七
また一側に、ブリアレオが、天の矢に中《あた》り、死に冷《ひや》されて重く地に伏せるを見き 二八―三〇
我はティムプレオを見き、我はパルラーデとマルテを見き、彼等猶武器をとりその父の身邊《まはり》にゐて巨人等の切放たれし體《からだ》を凝視《みつ》む 三一―三三
我はネムブロットが、あたかも惑へるごとく、かの大いなる建物《たてもの》のほとりに、己と共にセンナールにてたかぶれる民をながむるをみき 三四―三六
あゝニオベよ、殺されし汝の子|七人《なゝたり》と七人の間に彫られし汝の姿を路にみしときわが目はいかに憂《うれ》はしかりしよ 三四―三六
あゝサウルよ、汝の己が劒《つるぎ》に伏してジェルボエ(この山この後|雨露《あめつゆ》をしらざりき)に死せるさまさながらにこゝに見ゆ 四〇―四二
あゝ狂へるアラーニエよ、我また汝が既に半《なかば》蜘蛛となり、幸《さち》なく織りたる織物の截餘《きれ》の上にて悲しむを見き 四三―四五
あゝロボアムよ、こゝにては汝の姿も、はやおびやかすあたはじとみえ、未だ人に追はれざるにいたく恐れて車を走らす 四六―四八
硬き鋪石《しきいし》はまたアルメオンが、かの不吉なる飾《かざり》の價の貴《たふと》さをその母にしらしめしさまを示せり 四九―五一
またセンナケリプをその子等|神宮《みや》の中にて襲ひ、その死するや、これをかしこに殘して去れるさまを示せり 五二―五四
またタミーリの行へる殘害《そこなひ》と酷《むご》き屠《ほふり》を示せり――この時彼チロにいふ、汝血に渇きたりき、我汝に血を滿さんと 五五―五七
またオロフェルネの死せるとき
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