》いふ。たゞしばしの日全くその巣に歸るまでは、汝等我に導かれてかしこにゆくをねがふなかれ 八五―八七
汝等|窪地《くぼち》にくだりてかの衆と倶にあらんより、この高臺《パルツオ》にありて彼等を見なば却つてよくその姿と顏を認むるをえむ 八八―九〇
いと高き處に坐し、その責務《つとめ》を怠りしごとくみえ、かつ侶《とも》の歌にあはせて口を動かすことをせざる者は 九一―九三
皇帝ロドルフォなりき、かれイタリアの傷を癒すをえたりしにその死ぬるにまかせたれば、人再びこれを生かさんとするともおそし 九四―九六
また彼を慰むるごとくみゆるは、モルタ、アルビアに、アルビア、海におくる水の流れいづる地を治めし者にて 九七―九九
名をオッタケッルロといへり、その襁褓《むつき》に裹《つゝ》まれし頃も、淫樂安逸をむさぼるその子ヴェンチェスラーオの鬚ある頃より遙に善かりき 一〇〇―一〇二
姿いと貴《たふと》き者と親《した》しく相かたらふさまなるかの鼻の小さき者は百合の花を萎《しを》れしめつゝ逃げ走りて死したりき 一〇三―一〇五
かしこに此《これ》のしきりに胸をうつをみよ、また彼のなげきつゝその掌《たなごゝろ》をもて頬の床となすを見よ 一〇六―一〇八
彼等はフランスの禍ひの父と舅なり、彼等彼の邪《よこしま》にして穢れたる世を送れるを知りこれがためにかく憂ひに刺さる 一〇九―一一一
身かの如く肥ゆとみえ、かつかの鼻の雄々しき侶《とも》と節《ふし》をあはせて歌ふ者はその腰に萬の徳の紐を纏ひき 一一二―一一四
若し彼の後《うしろ》に坐せる若き者その王位を繼ぎてながらへたりせば、この徳まことに器《うつは》より器に傳はれるなるべし 一一五―一一七
但し他《ほか》の嗣子《よつぎ》についてはかくいひがたし、ヤーコモとフェデリーゴ今かの國を治む、いと善きものをばその一《ひとり》だに繼がざりき 一一八―一二〇
それ人の美徳は枝を傳ひて上《のぼ》ること稀なり、こはこれを與ふるもの、その己より出づるを知らしめんとてかく定めたまふによる 一二一―一二三
かの鼻の大いなる者も彼と倶にうたふピエルと同じくわがいへるところに適《かな》ふ、此故にプーリアもプロヴェンツァも今悲しみの中にあり 一二四―一二六
げにコスタンツァが今もその夫に誇ること遠くベアトリーチェ、マルゲリータの上に出づる如くに、樹は遠く種に及ばじ 一二七―一二九
簡易の一生を送れる王、イギリスのアルリーゴのかしこにひとり坐せるを見よ、かれの枝にはまされる芽《め》あり 一三〇―一三二
彼等のうち地のいと低きところに坐して仰ぎながむる者は侯爵《マルケーゼ》グイリエルモなり、彼の爲なりきアレッサンドリアとその師《いくさ》とが 一三三―一三五
モンフェルラートとカナヴェーゼとを歎かしむるは。 一三六―一三八
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第八曲
なつかしき友に別れを告げし日、海行く者の思ひ歸りて心やはらぎ、また暮るゝ日を悼《いた》むがごとく 一―三
鐘遠くより聞ゆれば、はじめて異郷の旅にある人、愛に刺さるゝ時とはなりぬ
我は何の聲をもきかず、一の魂の立ちて手をもて請ひて、耳をかたむけしむるを見たり 七―九
この者手を合せてこれをあげ、目を東の方《かた》にそゝぎぬ、そのさま神にむかひて、われ思ひをほかに移さずといふに似たりき 一〇―一二
テー・ルーキス・アンテその口よりいづるに、信念あらはれ調《しらべ》うるはしくして悉くわが心を奪へり 一三―一五
かくて全衆これに和し、目を天球にむかはしめつゝ、聲うるはしく信心深くこの聖歌をうたひをはりき 一六―一八
讀者よ、いざ目を鋭くして眞《まこと》を見よ、そは被物《おほひ》はげに今いと薄く、内部《うち》をうかがふこと容易なればなり 一九―二一
我はかの際《きは》貴《たか》き者の群《むれ》の、やがて色|蒼《あを》ざめ且つ謙《へりくだ》り、何者をか待つごとくに默《もだ》して仰ぎながむるを見き 二二―二四
また尖《さき》の削りとられし二の焔の劒《つるぎ》をもち、高き處よりいでて下り來れるふたりの天使を見き 二五―二七
その衣《ころも》は、今|萌《も》えいでし若葉のごとく縁なりき、縁の羽に打たれ飜《あふ》られて彼等の後方《うしろ》に曳かれたり 二八―三〇
そのひとりは我等より少しく上方《うへ》にとゞまり、ひとりは對面《むかひ》の岸にくだり、かくして民をその間に挾《はさ》めり 三一―
我は彼等の頭《かうべ》なる黄金《こがね》の髮をみとめしかど、その顏にむかへば、あたかも度を超ゆるによりて能力《ちから》亂るゝごとくわが目|眩《くら》みぬ ―三六
ソルデルロ曰ふ。彼等ふたりは溪をまもりて蛇をふせがんためマリアの懷《ふところ》より來れるなり、この蛇たゞちにあらはれむ。 三七―三九
我これを聞きてそのいづれの路よりなるを知らざればあたりをみまはし、わが冷えわたる身をかの頼もしき背に近寄せぬ 四〇―四二
ソルデルロまた。いざ今より下りてかの大いなる魂の群《むれ》に入り、彼等に物言はむ、彼等はいたく汝等を見るを悦ぶなるべし。 四三―四五
下ることたゞ三歩ばかりにて我はやくも底につきしに、こゝにひとり、わが誰なるを思出さんと願ふ如く、たゞ我をのみ見る者ありき 四六―四八
はや次第に空の暮行く時なりしかど、その暗さははじめかくれたりしものを彼の目とわが目の間にあらはさざるほどにあらざりき 四九―五一
彼わが方《かた》に進み我彼の方に進めり、貴き國司ニーンよ、汝が罪人《つみびと》の中にあらざるを見て、わが喜べることいかばかりぞや 五二―五四
我等うるはしき會釋《ゑしやく》の數をつくせしとき、彼問ひていふ。汝はるかに水を渡りて山の麓に來れるよりこの方いくばくの時をか經たる。 五五―五七
我彼に曰ふ。あゝ悲しみの地を過ぎてわが來れるは今朝《けさ》の事なり、我は第一の生をうく、かく旅して第二の生をえんとすれども。 五八―六〇
わが答を聞けるとき、俄に惑へる人々のごとく、ソルデルロもかれもあとにしざりぬ 六一―六三
その一《ひとり》はヴィルジリオに向へり、また一《ひとり》は彼處《かしこ》に坐せる者にむかひ、起きよクルラード、來りて神の惠深き聖旨《みむね》より出し事を見よと叫び 六四―六六
後我にむかひ。渉《わた》るべき處なきまで己が最初《はじめ》の故由《ゆゑよし》を祕《ひ》めたまふものに汝の負ふ稀有《けう》の感謝を指して請ふ 六七―六九
汝|大海《おほうみ》のかなたに歸らば、わがジョヴァンナに告げて、罪なき者の祈り聽かるゝところにわがために聲をあげしめよ 七〇―七二
おもふに彼の母はその白き首※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《かしらぎぬ》を變へしよりこのかた(あはれ再びこれを望まざるをえず)また我を愛せざるなり 七三―七五
人この例《ためし》をみてげにたやすくさとるをえむ、女の愛なるものは見ること觸るゝことによりて屡※[#二の字点、1−2−22]燃やされずば幾何《いくばく》も保つ能はざるを 七六―七八
ミラーノ人《びと》を戰ひの場《には》にみちびく蝮蛇《まむし》も、ガルルーラの鷄のごとくはかの女の墓を飾らじ。 七九―八一
ほどよく心の中に燃ゆる正《たゞ》しき熱《あつ》き思ひの印を姿に捺《お》してかれ斯くいへり 八二―八四
わが飽かざる目は天にのみ、あたかも軸いとちかき輪のごとく星のめぐりのいとおそき處にのみ行けり 八五―八七
わが導者。子よ何をか仰ぎながむるや。我彼に。かの三の燈火《ともしび》なり、南極これが爲にこと/″\く燃ゆ。 八八―九〇
彼我に。今朝《けさ》汝が見たる四のあざやかなる星かなたに沈み、此等は彼等のありし處に上《のぼ》れるなり。 九一―九三
彼語りゐたるとき、ソルデルロ彼をひきよせ、我等の敵を見よといひて指ざしてかなたをみせしむ 九四―九六
かの小さき溪の圍《かこひ》なきところに一の蛇ゐたり、こは昔エーヴァに苦《にが》き食物《くひもの》を與へしものとおそらくは相似たりしなるべし 九七―九九
身を滑《なめらか》ならしむる獸のごとくしば/\頭を背にめぐらして舐《ねぶ》りつゝ草と花とを分けてかの禍ひの紐《ひも》は來《き》ぬ 一〇〇―一〇二
天の鷹の飛立ちしさまは我見ざればいひがたし、されど我は彼も此も倶に飛びゐたるをさだかに見たり 一〇三―
縁の翼|空《そら》を裂く響きをききて蛇逃げさりぬ、また天使等は同じ早さに舞ひ上《のぼ》りつゝその定まれる處に歸れり ―一〇八
國司に呼ばれてその傍にゐたる魂は、この爭ひのありし間、片時《かたとき》も瞳を我より離すことなかりき 一〇九―一一一
さていふ。願はくは汝を高きに導く燈火《ともしび》、汝の自由の意志のうちにて、かの※[#「さんずい+幼」、60−8]藥《えうやく》の巓に到るまで盡きざるばかりの多くの蝋をえんことを 一一二―
汝若しヴァル・ディ・マーグラとそのあたりの地のまことの消息《おとづれ》をしらば請ふ我に告げよ、我は昔かしこにて大いなる者なりき ―一一七
われ名をクルラード・マラスピーナといへり、かの老《らう》にあらずしてその裔《すゑ》なり、己が宗族《うから》にそゝげるわが愛今こゝに淨《きよ》めらる。 一一八―一二〇
我彼に曰ふ。我は未だ汝等の國を過ぎたることなし、されどエウロパ全洲の中苟も人住む處にその聞《きこえ》なきことあらんや 一二一―一二三
汝等の家をたかむる美名《よきな》は、君をあらはし土地をあらはし、かしこにゆけることなきものもまた能くこれを知る 一二四―一二六
我汝に誓ひて曰はむ(願はくはわれ高きに達するをえんことを)、汝等の尊き一族《やから》は財布と劒《つるぎ》における譽《ほまれ》の飾を失はず 一二七―一二九
習慣《ならはし》と自然これに特殊の力を與ふるがゆゑに、罪ある首《かしら》世を枉《ま》ぐれどもひとり直く歩みて邪《よこしま》の道をかろんず。 一三〇―一三二
彼。いざゆけ、牡羊《をひつじ》四の足をもて蔽ひ跨がる臥床《ふしど》の中に、日の七度《なゝたび》やすまざるまに 一三三―一三五
ねんごろなるこの意見《おもひ》は、人の言《ことば》よりも大いなる釘をもて汝の頭《かうべ》の正中《たゞなか》に釘付けらるべし 一三六―一三八
審判《さばき》の進路《ゆくて》支へられずば。 一三九―一四一
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第九曲
年へしティトネの妾《そばめ》そのうるはしき友の腕《かひな》をはなれてはや東の臺《うてな》に白《しら》み 一―三
その額《ひたひ》は尾をもて人を撃つ冷やかなる生物《いきもの》に象《かたど》れる多くの珠《たま》に輝けり 四―六
また我等のゐたる處にては、夜はその昇《のぼり》の二歩を終へ、第三歩もはやその翼を下方に枉げたり 七―九
このとき我はアダモの讓《ゆづり》を受くるによりて睡りに勝たれ、我等|五者《いつたり》みな坐しゐたりし草の上に臥しぬ 一〇―一二
そのかみの憂ひを憶ひ起すなるべし可憐《いとほし》の燕朝近く悲しき歌をうたひいで 一三―一五
また我等の心、肉を離るゝこと遠く思にとらはるゝこと少なくして、その夢あたかも神《しん》に通ずるごとくなる時
我は夢に、黄金《こがね》の羽ある一羽の鷲の、翼をひらきて空《そら》に懸《かゝ》り、降らんとするをみきとおぼえぬ 一九―二一
また我はガニメーデが攫《さら》はれて神集《かんづとひ》にゆき、その侶《とも》あとに殘されしところにゐたりとおぼえぬ 二二―二四
我ひそかに思へらく、この鳥恐らくはその習ひによりて餌をこゝにのみ求むるならむ、恐らくはこれを他《ほか》の處に得て持《もち》て舞上《まひのぼ》るを卑しむならむと 二五―二七
さてしばらく※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》りて後、このもの電光《いなづま》のごとく恐ろしく下り來りて我をとらへ、火にいたるまで昇るに似たりき 二八―三〇
鳥も我もかの處にて燃ゆとみえたり、しかして夢の中なる火燒くことはげしかりければわが睡りおのづから破れぬ 三一―三三
かのアキルレが、目覺めてそのあたりを見、何處《いづこ》にあるやをしらずして
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