れ》の中にてかなたこなたにわが顏をめぐらし、約束をもてその絆《きづな》を絶てり 一〇―一二
こゝにはアレッツオ人《びと》にてギーン・ディ・タッコの猛《たけ》き腕《かひな》に死せるもの及び追ひて走りつゝ水に溺れし者ゐたり 一三―一五
こゝにはフェデリーゴ・ノヴェルロ手を伸べて乞ひ、善きマルヅッコにその強きをあらはさしめしピサの者またしかなせり 一六―一八
我は伯爵《コンテ》オルソを見き、また自らいへるごとく犯せる罪の爲にはあらで怨みと嫉みの爲に己が體《からだ》より分たれし魂を見き 一九―二一
こはピエール・ダ・ラ・ブロッチアの事なり、ブラバンテの淑女はこれがためこれより惡しき群《むれ》の中に入らざるやう世に在る間に心構《こゝろがまへ》せよ 二二―二四
さてすべてこれ等の魂即ちはやくその罪を淨むるをえんとてたゞ人の祈らんことを祈れる者を離れしとき 二五―二七
我曰ひけるは。あゝわが光よ、汝はあきらかに詩の中にて、祈りが天の定《さだめ》を枉ぐるを否むに似たり 二八―三〇
しかしてこの民これをのみ請ふ、さらば彼等の望み空なるか、さらずば我よく汝の言《ことば》をさとらざるか。 三一―三三
彼我に。健《すこやか》なる心をもてよくこの事を思ひみよ、わが筆|解《げ》し易く、彼等の望み徒《あだ》ならじ 三四―三六
そは愛の火たとひこゝにおかるゝもののたらはすべきことをたゞしばしのまに滿すとも、審判《さばき》の頂垂れざればなり 三七―三九
またわがこの理《ことわり》を陳べし處にては、祈り、神より離れしがゆゑに、祈れど虧處《おちど》補はれざりき 四〇―四二
されどかく奧深き疑ひについては、眞《まこと》と智《さとり》の間の光となるべき淑女汝に告ぐるにあらずば心を定むることなかれ 四三―四五
汝さとれるや否や、わがいへるはベアトリーチェのことなり、汝はこの山の巓《いただき》に、福《さいはひ》にしてほゝゑめる彼の姿をみるをえむ。 四六―四八
我。主よいそぎてゆかむ、今は我さきのごとく疲れを覺えず、また山のはやその陰を投ぐるをみよ。 四九―五一
答へて曰ふ。我等は日のある間に、我等の進むをうるかぎりすゝまむ、されど事汝の思ふところと違ふ 五二―五四
いまだ巓にいたらざるまに、汝は今山腹にかくれて汝のためにその光を碎かれざる物また歸り來るを見む 五五―五七
されど見よ、かしこにたゞひとりゐて我等の方《かた》をながむる魂あり、かの者我等にいと近き路を教へむ。 五八―六〇
我等これが許にいたりぬ、あゝロムバルディアの魂よ、汝の姿は軒昂《けだか》くまたいかめしく、汝の目は嚴《おごそか》にまた緩《ゆるや》かに動けるよ 六一―六三
かの魂何事をもいはずして我等を行かしめ、たゞ恰もやすらふ獅子のごとく我等を見たり 六四―六六
されどヴィルジリオこれに近づき、登るにいと易きところを我等に示さむことを請へるに、その問ひに答へず 六七―六九
たゞ我等に我等の國と状態《ありさま》をたづねき、このときうるはしき導者マントヴァ……といひかくれば、己ひとりを世とせし魂 七〇―七二
立ちて彼のかたにむかひてそのゐし處をはなれつゝ、あゝマントヴァ人よ、我は汝の邑《まち》の者ソルデルロなりといひ、かくて二者《ふたり》相抱きぬ 七三―七五
あゝ屈辱のイタリアよ、憂ひの客舍、劇しき嵐の中の水夫《かこ》なき船よ、汝は諸州《くに/″\》の女王にあらずして汚れの家なり 七六―七八
かのたふとき魂は、たゞ己が生れし邑《まち》の麗しき名のよばるゝをきき、かく歡びてこの處に同郷人《ふるさとびと》を迎へしならずや 七九―八一
しかるに今汝の中には生者《しやうじや》敬ひをやむる時なく、一の垣一の濠に圍まるゝもの相互《あひたがひ》に噛むことをなす 八二―八四
幸《さち》なきものよ、岸をめぐりて海の邊《ほとり》の地をたづね、後汝の懷《ふところ》を見よ、汝のうちに一なりとも平和を樂しむ處ありや 八五―八七
かのユスティニアーノ汝のために銜《くつわ》を調《とゝの》へしかど、鞍空しくば何の益あらむ、この銜なかりせば恥は却つて少《すく》なかるべし 八八―九〇
あゝ眞心《まごゝろ》をもて神を崇《あが》めかつチェーザレを鞍に載すべき(汝等もしよく神の言《ことば》をさとりなば)人々よ 九一―九三
汝等手綱をとれるよりこのかた、拍車によりて矯《た》めらるゝことなければ、見よこの獸のいかばかり悍《たけ》くなれるやを 九四―九六
あゝドイツ人《びと》アルベルトよ、汝は鞍に跨るべき者なるに、この荒き御しがたき獸を棄つ 九七―九九
ねがはくは正しき審判《さばき》星より汝の血の上に降り、奇《くす》しく且つ顯著《あらは》にて、汝の後を承《う》くる者恐れをいだくにいたらんことを 一〇〇―一〇二
そは汝も汝の父も貪焚《むさぼり》のためにかの地に抑《と》められ、帝國の園をその荒るゝにまかせたればなり 一〇三―一〇五
來りて見よ、思慮なき人よ、モノテッキとカッペルレッティ、モナルディとフィリッペスキを、彼等既に悲しみ此等はおそる 一〇六―一〇八
來れ、無情の者よ、來りて汝の名門の虐《しひた》げらるゝを見、これをその難より救へ、汝またサンタフィオルのいかに安全《やすらか》なるやをみん 一〇九―一一一
來りて汝のローマを見よ、かれ寡婦《やもめ》となりてひとり殘され、晝も夜も泣き叫びて、わがチェーザレよ汝何ぞ我と倶にゐざるやといふ 一一二―一一四
來りて見よ、斯民《このたみ》の相愛することいかに深きやを、若し我等を憐れむの心汝を動かさずば、汝己が名に恥ぢんために來れ 一一五―一一七
また斯く言はんも畏《かしこ》けれど、あゝいと尊きジョーヴェ、世にて我等の爲に十字架にかゝり給へる者よ、汝正しき目を他《ほか》の處にむけたまふか 一一八―一二〇
はたこは我等の全く悟る能はざる福祉《さいはひ》のためいと深き聖旨《みむね》の奧に汝の設けたまふ備《そなへ》なるか 一二一―一二三
そは專横の君あまねくイタリアの諸邑《まち/\》に滿ち、匹夫朋黨に加はりてみなマルチェルとなればなり 一二四―一二六
わがフィオレンツァよ、汝この他事《あだしこと》をきくともこは汝に干係《かゝはり》なければまことに心安からむ、汝をこゝにいたらしむる汝の民は讚むべきかな 一二七―一二九
義を心に宿す者多し、されど漫りに弓を手にするなからんためその射ること遲きのみ、然るに汝の民はこれを口の端《はし》に置く 一三〇―一三二
公共《おほやけ》の荷を拒むもの多し、然るに汝の民は招かれざるにはやくも身を進めて我自ら負はんとさけぶ 一三三―一三五
いざ喜べ、汝しかするは宜《うべ》なればなり、汝富めり、汝泰平なり、汝|智《さと》し、わがこの言《ことば》の僞りならぬは事實よくこれを證《あかし》す 一三六―一三八
文運かの如く開け、且つ古の律法《おきて》をたてしアテーネもラチェデーモナも、汝に比《くら》ぶればたゞ小《さゝ》やかなる治國の道を示せるのみ 一三九―
汝の律法《おきて》の絲は細《こまや》かなれば、汝が十月に紡《つむ》ぐもの、十一月の半《なかば》まで保たじ ―一四四
げに汝が汝のおぼゆる時の間に律法《おきて》、錢《ぜに》、職務《つとめ》、習俗《ならはし》を變へ民を新たにせること幾度《いくたび》ぞや 一四五―一四七
汝若しよく記憶をたどりかつ光をみなば、汝は自己《おのれ》があたかも病める女の軟毛《わたげ》の上にやすらふ能はず、身を左右にめぐらして 一四八―一五〇
苦痛《いたみ》を防ぐに似たるを見む 一五一―一五三
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   第七曲

ふさはしきうれしき會釋《ゑしやく》三度《みたび》と四度《よたび》に及べる後、ソルデルしざりて汝は誰なりやといふ 一―三
登りて神のみもとにいたるを魂等未だこの山にむかはざりしさきに、オッタヴィアーンわが骨を葬りき 四―六
我はヴィルジリオなり、他《ほか》の罪によるにあらずたゞ信仰なきによりてわれ天を失へり。導者この時斯く答ふ 七―九
ふと目の前に物あらはるればその人あやしみて、こは何なり否あらずといひ、信じてしかして疑ふことあり 一〇―一二
かの魂もまたかくのごとくなりき、かくて目を垂れ、再びうや/\しく導者に近づき、僕《しもべ》の抱くところをいだきて 一三―一五
いひけるは。あゝラチオ人《びと》の榮《さかえ》よ――汝によりて我等の言葉その力の極《きはみ》をあらはせり――あゝわが故郷《ふるさと》の永遠《とこしへ》の實よ 一六―一八
我を汝に遭はしめしは抑※[#二の字点、1−2−22]何の功徳何の恩惠《めぐみ》ぞや我若し汝の言《ことば》を聞くの幸《さいはひ》をえば請ふ告げよ汝地獄より來れるかそは何の圍《かこひ》の内よりか。 一九―二一
彼これに答ふらく。我は悲しみの王土の中《うち》なる諸※[#二の字点、1−2−22]の獄《ひとや》をへてこゝに來れり、天の威力《ちから》我を動かしぬ、しかしてわれこれとともに行く 二二―二四
爲すによるにあらず爲さざるによりて我は汝の待望み我の後れて知るにいたれる高き日を見るをえざるなり 二五―二七
下に一の處あり、苛責のために憂きにあらねどたゞ暗く、そこにきこゆる悲しみの聲は歎息《ためいき》にして叫喚《さけび》にあらず 二八―三〇
かしこに我は、人の罪より釋《と》かれざりしさきに死の齒に噛まれし稚兒《をさなご》とともにあり 三一―三三
かしこに我は、三の聖なる徳を着ざれど惡を離れ他《ほか》の諸※[#二の字点、1−2−22]の徳を知りてすべてこれを行へる者とともにあり 三四―三六
されど汝路をしりかつ我等に示すをうべくば、請ふ我等をして淨火のまことの入口にとくいたるをえせしめよ。 三七―三九
答へて曰ふ。我等は定まれる一の場所におかるゝにあらず、上《のぼ》るも※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》るも我これを許さる、われ導者となりて汝と倶に 四〇―
わが行くをうる處までゆくべし、されど見よ日は既に傾きぬ、夜登る能はざれば、我等うるはしき旅宿《やどり》を求めむ ―四五
右の方《かた》なる離れし處に魂の群《むれ》あり、汝|肯《うけが》はば我は汝を彼等の許に導かむ、汝彼等を知るを喜びとせざることあらじ。 四六―四八
答へて曰ふ。いかにしてこの事ありや、夜登らんとおもふ者は他《ほか》の者にさまたげらるゝかさらずば力及ばざるため自ら登る能はざるか。 四九―五一
善きソルデルロ指にて地を擦《す》りていふ。見よ、この線《すぢ》をだに日入りて後は汝越えがたし 五二―五四
されど登《のぼり》の障礙《しやうげ》となるもの夜の闇のほかにはあらず、この闇|能力《ちから》を奪ひて意志をさまたぐ 五五―五七
天涯晝をとぢこむる間は、汝げに闇とともにこゝをくだりまたは迷ひつゝ山の腰をめぐるをうるのみ。 五八―六〇
この時わが主驚くがごとくいひけるは。さらば請ふ我等を導き、汝の我等に喜びてとゞまるをうべしといへる處にいたれ。 六一―六三
我等少しくかしこを離れしとき、我は山の窪みてあたかも世の大溪《おほたに》の窪むに似たるところを見たり 六四―六六
かの魂曰ふ。かなたに山腹のみづから懷《ふところ》をつくるところあり、我等かしこにゆきて新たなる日を待たむ 六七―六九
忽ち嶮《けは》しく忽ち坦《たひらか》なる一條の曲路我等を導いてかの坎《あな》の邊《ほとり》、縁《ふち》半《なかば》より多く失せし處にいたらしむ 七〇―七二
金、純銀、朱、白鉛、光りてあざやかなるインドの木、碎けし眞際《まぎは》の新しき縁の珠も 七三―七五
各※[#二の字点、1−2−22]その色を比ぶれば、かの懷の草と花とに及ばざることなほ小の大に及ばざるごとくなるべし 七六―七八
自然はかしこをいろどれるのみならず、また千の良《よ》き薫《かをり》をもて一の奇しきわけ難き香《にほひ》を作れり 七九―八一
我見しにこゝには溪のため外部《そと》よりみえざりし多くの魂サルウェ・レーギーナを歌ひつゝ縁草《あをくさ》の上また花の上に坐しゐたり 八二―八四
我等をともなへるマントヴァ人《びと
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