ラし
一三六―一三八
【この下なる】第一圈の。ダンテ自から誇りの罪をおそるゝこと嫉みの罪より甚しきをいへるなり
【かしこの重荷】かしこに罪を淨むる者の背にする石を我今みづから負ふ心地す
一三九―一四一
【かなたに】原文、下に(即ち第一圈に)
サピーアはダンテが淨火の各圈をめぐりゆく者なるを知らず、再び第一圈に歸りて罪を淨むる者なりとおもへるなり
一四二―一四四
【選ばれし】選ばれて禍ひを享くべき(淨、三・七三―五參照)
【動かす】汝の知人に請ひて汝のために祈らしめんとて
一四八―一五〇
【求むるもの】天上の福
【わが名を立てよ】彼等我を地獄に罰せらるとおもへば實を告げて
一五一―一五三
【タラモネ】トスカーナの南海岸にある一小港。シエーナ人これを以て商業及び軍事上の要港となさんと欲し久しく望みを囑しゐたるが一三〇三年にいたりて遂にこれを買取り、その地勢惡くして效果少なきにかゝはらず多くの資本と勞力とをこれがために費せるなり
【ディアーナ】シエーナ市及びその附近の地下にありと信ぜられし川の名。シエーナ市水に乏しければ市民費を惜しまずしてこの水を得んとせりといふ
一五四
註釋者曰。タラモネの築港工事を監督せる海軍の將士等、處の空氣あしきため病みて死せるをいへるなりと、されど異説多くして意義分明ならず
【危險を顧みざるは】異本、失ふところ多きは


    第十四曲

かの魂の一グイード・デル・ドゥーカ、アルノ沿岸の諸市及びローマニアの腐敗を慨く、また聲ありて嫉妬の罰せられし例を擧ぐ
一―三
グイード(七九―八一行註參照)の詞
四―六
リニエール(八八―九〇行註參照)の詞
一〇―一五
【一者】グイード
【汝の恩惠】汝が神よりうくる恩惠即ち生きながら冥界をめぐるをうること
一六―一八
【小川】アルノ。紆曲してトスカーナの中部を流る、長さ百二十哩
【ファルテロナ】アペンニノ山脈中の一高嶺
二八―三〇
【負債を償ひて】答へて。問はるれば答ふる義務あるがゆゑにかくいへり、グイードはリニエールの問ひに對してその義務を果せるなり
【溪の名】川の名といふに同じ、溪は川に因みてアルノの溪とよばる
三二―三三
【ペロロ】シケリア島東端の岬。シケリアはもとイタリア本土の一部なりしが地勢の變化によりてこれと分離するにいたれりとの説に從ひペロロを斷たれし云々といへるなり(『アエネイス』三・四一四以下參照)
【高山】アペンニノ連山
【水豐なる】pregno(孕める)或ひは支脈多き意に解する人あり
三四―三六
この一聯、海にいたるまでといふに同じ。天太陽の熱によりて海水を蒸發せしむれば、その蒸發せるもの雨となりて川に入り、川またこれを海に注ぐ
【その中に流るゝもの】原、己と倶に行く物
四〇―四二
【溪】アルノの溪即ちアルノ沿岸の地
【性を變へ】人たるの性を失ひて獸の如くなり
【チルチェ】名高き妖女(地、二六・八八―九三註參照)、人を獸に變ぜしむ(『アエネイス』七・一〇以下參照)
四三―四五
【豚】アルノ上流の地カセンティーノ(地、三〇・六四―六參照)の民を指す
【貧しき】水少なき
四六―四八
【小犬】Botoli(小さくして善く吠ゆる犬)アレッツオ人を指す
【顏を曲げ】カセンティーノを南に下れるアルノはアレッツオ市を距る三哩の處にいたり忽ち曲折して西に向ふ
四九―五一
【狼】フィレンツェ人を指す
五二―五四
【狐】ピサ人を指す
五五―五七
【聞く者】主としてダンテを指す
【眞の靈の】聖靈の教へに從つてわが豫言するところ
五八―六〇
【汝の孫】フルチェーリ・ダ・カールボリ。リニエールの孫、一三〇二年フィレンツェのポデスタとなりて大いに白黨を虐ぐ
六一―六三
【賣り】黒黨の賄賂をうけて多くの白黨をその敵の手に渡したればなり
六四―六六
【血】市民の
【林】フィレンツェ市
七〇―七二
【魂】リニエール
七六―七八
【好まざる】二〇―二一行參照
七九―八一
【グイード・デル・ドゥーカ】ブレッティノロ(一一二―四行註參照)の名族の出、十三世紀の人にてギベルリニ黨に屬す、傳不詳
八五―八七
【我自ら】我は己が罪によりてこの淨めの罰をうく(ガラテヤ、六・八參照)
【侶】を他人とともに頒つあたはざる世の福に(淨、一五・四三以下參照)
八八―九〇
【リニエール】リニエール・ダ・カールボリ。フォルリの名族の出、十三世紀の後半の人にてグエルフィ黨に屬す
九一―九三
【ポーと山と海とレーノの間】ローマニア。北はポー河、南はアペンニノ山脈、東はアドリアティコ海、西はレーノ河をその堺とす(地、二七・二八―三〇註參照)
【眞と悦びに】精神上及び處世上に必要なる文武の徳
【その血統】カールボリ一家
九四―九六
【有毒の雜木】敗徳の民
九七―一一一
【リーチオ】リーチオ・ダ・ヴァールボナ
リーチオ、アルリーゴ、ピエートロ、グイード等皆ローマニアの名族の出、十三世紀の人々にて仁侠を以て名高かりきといふ
【庶子】父祖の徳を繼ぐ能はざるをいふ
【フアッブロ】フアッブロ・デ・ラムベルタッチ。ボローニアのギベルリニ黨(一二五九年死)
【ベルナルディン・ディ・フォスコ】卑賤より身を起しその徳によりてファーエンツァ(ローマニア州ラーモネ河畔の町)第一流の市民となれるもの
【トスカーナ人】ダンテを指す
【グイード・ダ・プラータ】プラータはファーエンツァの附近にある町
【ウゴリーン・ダッツォ】トスカーナに名高きウバルディーニ家の者にて長くローマニアに住めりといふ
【フェデリーゴ・ティニヨーソ】リミニの人
【トラヴェルサーラ、アナスタージ】ともにラヴェンナ第一流の家柄なりしが一三〇〇年の頃殆んど斷絶の悲境にありきといふ
【處】ローマニア
【愛と義氣】或ひは戀愛のため或ひは義侠のため騎士等が多くの冒險を試みしたしく苦樂を味ひたりしその昔の日をしのぶなり
一一二―一一四
【ブレッティノロ】(今ベルティノロといふ)フォルリとチェゼナの間の町にて前出グイード及びアルリーゴ・マナルディの郷里なり
【汝の族と多くの民】族はブレッティノロを治めしマナルディ家を指せるか。スカルタッツィニ曰く、こは一二九五年ギベルリニ黨がブレッティノロより逐はれしをいふと
一一五―一二〇
【バーニアカヴァル】バーニアカヴァルロ、ラヴェンナの西にある町。十三世紀の頃この町を治めしマルヴィチーニ伯爵家には男子なかりきといふ
【カストロカーロ】モントネの溪にある町
【コーニオ】イモラ附近の町
不徳の子孫仁侠の父祖に代りて君たれば惡しといへり
【パガーニ】ファーエンツァの貴族
【鬼】パガーニ家の家長マギナルド・パガーニ・ダ・スシナーナ(地、二七・四九―五一參照)
【去る】一三〇二年に死す
【徴】美名
一二一―一二三
【ウゴリーン・デ・ファントリーン】ファーエンツァの人、徳を以て知らる、一二八二年に死し、その二子また相尋で死して家絶ゆ
一二七―一二九
かの魂等足音によりてわれらが右にゆくを知り而して何をもいはざるは即ち我等が方向を誤らざる證據なり、若し誤らば彼等必ず我等に教ふべければなり
一三〇―一三二
【聲】見えざる靈の(淨、一三・二五―七參照)
一三三―一三五
嫉妬の罰の第一例としてカインをあぐ、カインは嫉みのためにその弟アベルを殺せし者なり(創世記、四・三以下)
【およそ我に】神罰をおそれしカインの詞(創世記、四・一四)
一三九―一四一
罰第二例。アグラウロはアテナイ王ケクロップスの女アグラウロスなり、その姉妹ヘルセがヘルメス神に愛せらるゝを嫉み、神罰を蒙りて化石す(オウィディウスの『メタモルフォセス』二・七〇八以下)
一四二―一四四
【これは】これ等の例は人の心を抑制して他人の福を嫉むことなからしむるための善き誡めなり
一四五―一四七
【汝等】世人
【敵】惡魔
【銜】罰の例(淨、一三・四〇―二註參照)
【呼】徳に誘ふもの即ち徳の例。鳥を呼ぶにたとふ(地、三・一一五―七註參照)
一四八―一五〇
【美しき物】諸星(地、三四・一三六―八參照)
一五一
これ故に神は汝等を罰したまふ


    第十五曲

詩人等天使の教へに從つて階を踏み幸福の分與を論じつゝ第三圈即ち忿怒の罪の淨めらるゝところにいたる、ダンテこゝに異象によりて寛容柔和の例をみ後導者と共にすゝみて遂に一團の黒煙につゝまる
一―六
今見ゆる太陽と地平線との間は日出時の太陽と第三時(午前九時頃)の終りの太陽との間に同じ。即ち此時は日沒より三時間前(午後三時頃)なり
【球】太陽の天。そのつねに※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉して止まざること稚兒の戲るゝに似たり
【かしこ】淨火
【夕】Vespero 午後三時より日沒迄の間をいふ
【こゝ】イタリア。ダンテの計算に從へば淨火の午後三時はイエルサレムの午前三時に當り、聖都の西四十五度の位置にあるイタリアの夜半にあたる
一〇―一二
【輝】光輝のひときは強くなりてダンテの目を眩《くる》めかせしは(額を壓す)天使の光日光に加はりたればなり
一六―二一
ダンテは直接に天使より來る光を被はんとて手を目に翳せるもなほ間接の光(即ち天使よりいでて路にあたり反射してダンテを射る光)に堪ふる能はざりし次第を説きあかさんため光線反射の原理をこゝに敍せるなり
【くだるとおなじ】反射角の投射角と相等しきをいふ、この兩角相等しきがゆゑに反射線と垂線の間は投射線と垂線の間に等し
【垂線】原文、石の墜下(cader de la pietra)
二二―二四
【目は】光を避けんとてウェルギリウスの方にむかへるをいふ
三一―三三
罪清まるに從ひて光を喜ぶこといよ/\深し
三七―三九
【慈悲ある者】(マタイ、五・七)慈悲仁愛は嫉妬に反す
【勝者】嫉みの罪に勝つ者
四三―四五
【ローマニアの魂】グイード・デル・ドゥーカ(淨、一四・八五―七參照)
四六―四八
【最《いと》大いなる罪】嫉み(淨、一四・八二以下參照)
四九―五一
【處】地上の幸
五二―五四
汝等天上の幸を愛して心をこれに向はしむれば分の減ずる憂ひなし
【至高き球】エムピレオの天
五五―五七
【我等の所有と稱ふる者】幸を享くる者
【かの僧院に】聖徒の心に燃ゆる愛、僧院は天堂を指す(淨、二六・一二七―九註參照)
六四―六六
【眞の光より】われ眞を告ぐれども汝さとらず
六七―六九
【幸】神。神が己を愛する者に臨みたまふこと恰も太陽の光が光澤ある物體に臨むごとし
七〇―七二
神は己を愛する者の愛の熱度に應じて幸を與へたまふ、このゆゑに神を愛することいよ/\深ければその者のうくる幸またいよ/\大なり
七三―七五
天上の幸を愛するもの愈※[#二の字点、1−2−22]多ければ神の賜ふ幸從つて多く彼等の神を愛する愛また從つて深し(五五―七行參照)、しかして彼等がおの/\自己の幸を他の者に映《うつ》すこと鏡に似たり
七九―八一
【五の傷】天使が劒を以てダンテの額にしるせし七のPの中の五(淨、九・一一二―五參照)即ち悔恨の苦しみによりて清まる五の罪
【かの二】誇りと嫉みの
八二―八四
【次の圓】第三圈、忿怒の罪を淨むるところ
【目の】處のさまを見んとの
八五―九三
寛容の徳の第一例として聖母マリアの事蹟をあぐ。マリアその子イエスを見失ひ夫と倶にこれを尋ね求むること三日、漸くにしてそのイエルサレムの神殿内にあるを知れるも怒らず罵らず、たゞ言葉を和らげて我子よ云々といへること聖書にみゆ(ルカ、二・四一以下)
【多くの人】イエスと問答しゐたる教師等(ルカ、二・四六)
九四―一〇五
第二例としてアテナイの君ペイシストラトス(前五二七年頃死)の寛容をあぐ。嘗て一青年路にてペイシストラトスの女に接吻せしかば母怒りて夫に復讎を求めしかども夫これに應ぜざりきといふことローマ古代の文人ヴァレリウス・マクシムスの説話集にいづといふ
【これが名に】アテナイの都ははじめその命名に就いてポセイドン、アテナ二神の間に激しき爭ひありしもアテナの勝となりしためかく名づけられたりとの傳説によれり(オウィディウス『メタモルフォセス』六・七〇以下參照)
一〇六
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