ウル、ペリシテ人と戰ひて利あらず、ギルボア山上に(パレスチナにあり)自刃して死す(サムエル前、三一・一以下)
【雨露】サウルの死を悼めるダヴィデの哀歌に曰く。ギルボアの山々よ、願はくは汝等の上に露も雨も降らざれ(サムエル後、一・二一)
四三―四五
第七例は神話にいづるアラクネ(アラーニエ)の物語なり(地、一七・一六―二四註參照)
【截餘】アテナは己が技《わざ》のアラクネに及ばざるをみて怒り織女の織りたる布帛を斷てり
四六―四八
第八例。レハベアムはイスラエル王ソロモンの子なり、父の死後その民これに苛政の苦しみを訴ふ、しかるにレハベアム、少年等の言に從ひ民の請ひを退けしかば民背きて王の税吏アドラムを殺せり、王即ちいそぎ車に乘りてイエルサレムに逃ぐ(列王紀略上、一二・一以下)
【おびやかす】イスラエルの民を
四九―五一
第九例として神話にいづるエリピュレを擧ぐ
彫像にはエリピュレがその子アルクマイオンに殺さるゝ状をあらはせり
ギリシア七王の一なるアムピアラオス、己がテバイの役に死する(地、二〇・三一―六註參照)を卜知しその所在をくらましたりしに妻エリピュレ、ヘファイストスの作なる金の頸飾を得んためポリュネイケスに誘はれて夫の隱家をこれに告げたり、アルクマイオン即ち母を殺して父の仇を報ゆ
【不吉なる】これを持つ者必ず禍ひに遭ふといはるればなり
五二―五四
第十例。セナケリブ、アッシリアの王なり、倨傲にして眞の神を侮りしが嘗て己の神ニスロクを宮の中にて拜せるとき其二子アデランメレクとシヤレゼルこれを殺して逃げ去れり(列王記略下、一九・三六―七及びイザヤ、三七・三七―八)
五五―五七
第十一例にはペルシア王キルス(クロス)をあげたり、マッサガテ人の女王トミリス激戰の後キルスを破りその屍を求めて頭を截り取りこれを血をもて滿たせし革嚢の中に入れ、血に渇ける者よ今血に飽けといへりといふ古の史家の記事によれり
五八―六〇
第十二例。アッシリアの大將オロフェルネ(ホロフェルネス)、ユダヤのベツーリアといへる町を圍めるとき、寡婦ユウディットその郷土を救はんため敵陣に赴き謀をもてホロフェルネスを殺せり、アッシリア人潰走す(『ユウディット』一一・一以下)
【遺物】首なきホロフェルネスの躯
六一―六三
第十三例。トロイア(地、一・七三―五註及び地、三〇・一三―五參照)
【イーリオン】イリオン、トロイアの異名。或曰、トロイアは町、イリオンは城の名と
六四―六六
【陰と線】線は像の輪郭をいひ、陰は高低をあらはす輪郭内の變化をいふ
【墨筆】stile 鉛錫等にて作れる筆にて最初の輪郭をあらはすに用ゐるもの
六七―六九
【面見し】原文、事實を見し。實際にそれ/″\の事柄を目撃せるをいふ
七〇―七二
【エーヴァの子等】人類。ダンテは世人が古來慢心の罰せられたる多くの例あるをおもはずして相率ゐてこの罪に陷るを嘲れるなり
七三―七五
思へるよりも時の早く過ぎたるをいふ
【繋はなれぬ】彫像にのみ心奪はれて他の事を思ふの餘地なき(淨、四・一以下參照)
【さらに多く】詩人等の歩みおそければ
七九―八一
【第六の侍婢】時を晝の侍女といへり、故に今は晝の第六時の終り即ち正午なり
九一―九三
【今より後】誇りの罪除かれたれば(一一八行以下參照)
九四―九六
ダンテの叫びか天使の詞かあきらかならず
【報知】天使の言を指す、これを聞く者の罕なるは謙遜の人の少なきなり
【高く】天に昇らんために生れし人類よ、汝等誇りの誘ひにあひ世の榮光をのみ求めて地に墜るは何故ぞ
九七―九九
【額を打ち】七のP(淨、九・一一二)の一を消せるなり(一三三―五行參照)
一〇〇―一〇八
第一圈より第二圈に到る徑《こみち》の階《きざはし》を、フィレンツェ市外の一丘モンテ・アルレ・クローチ(Monte alle Croci)の階と比較せるなり
【ルバコンテ】アルノ河に架せる橋の名、今は改めてポンテ・アルレ・グラーチエといふ
【邑】フィレンツェ。非政を嘲りて反語を用ゐしなり
【寺】「サン・ミニアート・ア・モンテ」(San Min iata a Monte)といふ、モンテ・アルレ・クローチの上にあり
【右にあたり】山門をくぐりて登りゆけばしばらくにして路二つにわかる、こゝにしるせし階はそのうちの右の路にあり
【文書と樽板】當時フィレンツェに行はれし二大詐僞をあぐ
一二九九年フィレンツェのポデスタ、モンフィオリートなる者不正の行爲ありて免官せられし時その自白の中にメッセル、ニッコラ・アッチヤイオリのため虚僞の陳述を人になさしめきとの一事あり、ニッコラ聞きて、その發覺を防がんと欲しメッセル・バルト・ダグリオネ(天、一六・五五―七參照)と共謀して市の記録の中より己に不利なる事項を抹殺せり
またこの頃鹽の出納役なりしキアラモンテージ家の一人、市より鹽を受取る時は普通の量器を用ゐ、これを市民に賣渡す時は樽板一枚を取去りて小さくせるものを用ゐ、以て不正の利を貪れりといふ
【安全なりし世に】かゝる惡事の行はれざりし昔
【右にも左にも】この階のモンテ・アルレ・クローチの階と異なるところは、その甚だ狹くして登るとき左右の石身に觸るゝにあり
一〇九―一一一
【聲】voci この語も Cantaron(歌へり)も共に複數なれば歌へる者の何なるやにつきては異説多し、但し他の多くの場合と同じくこれを以てPの一を消せし天使なりとし voci を parole(詞)の義に解し又は複數を單數の意に用ゐしものと解する人あり(ムーア『批判』四一〇六頁參照)
【靈の貧しき者】マタイ、五・三。一の罪淨まれば天使その額より一のPを消しかつキリスト山上の垂訓の始めなる九福の一句を歌ふを例とす、讀者その句と淨めらるゝ罪と相關聯するを思ふべし
一一五―一一七
【平地】第一圈の
一二一―一二三
【消ゆるばかりに】人慢心によりて神を離れ、神を離るゝによりて諸惡を行ふ、故に慢心は即ち諸惡の根源なり(箴言二一・四參照)慢心滅すれば他の罪亦皆消ゆるに近し
一二七―一三二
頭に羽毛などのつきたるを知らずして歩む者、人の笑ふをきゝてはじめて異しと思ひ、手をもてさぐり求むる類
一三三―一三五
【鑰を持つもの】淨火の門を守る天使(淨、九・一一二―四)


    第十三曲

詩人等第二圈即ち嫉妬の罪の淨めらるゝところにいたれば愛の例をあぐる聲きこゆ、また毛の衣を着、瞼を縫はれて岩石の邊に坐せる多くの魂あり、その一シエーナのサピーア己が境遇をダンテに告ぐ
一―三
【截りとられ】山の側面きりひらかれて圓形の路を成すをいふ
四―六
【弧線】第二圈は第一圈よりも小さければ圈の弧線の彎曲すること從つて急なり
七―九
【象も文も】或ひは、陰も線も。石面に彫像なきをいふ
一〇―一二
【選ぶこと】路を
一三―一五
【身を】原文、右脇を動《うごき》の中心として身の左方をめぐらし。日右にありたれば身をめぐらして右にむかへるなり
一六―一八
【光】比喩の意にては神恩の光
一九―二一
【故ありて】罪のために
二五―二七
【愛の食卓】愛は嫉妬と相反す、愛の食卓に招くは愛の例を告げ示して罪を淨むる魂に愛心を養ふを求むるなり
この圈の魂はその瞼を縫はれて(七〇―七二行)物を視る能はざるがゆゑに彫像によらず聲によりて教へらる
二八―三〇
聖母マリアの事蹟を第一例とす。カナの婚禮に招かれしとき酒盡きしかばマリア人々を憐みてキリストにむかひ、彼等に酒なしといふ、キリスト即ち水を變じて酒としたまふ(ヨハネ、二・一以下)
三一―三三
第二例としてピュラデス(ピラーデ)をあぐ。神話に曰く、アガメムノン(トロイアの役にて名高きギリシア軍の總大將)の子オレステス(オレステ)、ポキス王ストロピオスの子ピュラデスと水魚の交りありき、アガメムノンを殺せしアイギストスさらにオレステスを殺さんとせしときピュラデス叫びて我こそオレステスなれといひその友に代りて死せんとせりと
三四―三六
キリストの教訓を第三例とす(マタイ、五・四四)
三七―三九
【鞭の紐】善に導く方法即ち教訓の例
四〇―四二
【銜は】嫉妬の罪を避けしむる方法はこれと異なる例即ち嫉妬の罰の例を示してこの罪を恐れしむるにあり
鞭は魂をむちうち勵まして善に向はしむる積極的教訓をいひ銜は魂を抑制して惡に遠ざからしむる消極的教訓をいふ、前者には徳の例をあげ後者には罪の罰の例をあぐ、淨火の七圈各※[#二の字点、1−2−22]この二者を備ふ
【赦の徑】第二圈と第三圈の間にある徑《こみち》、この下にいたれば天使額上よりP字の一を消去るなり、嫉妬の罰は淨、一四・一三三以下にいづ
四三―四五
【かなたを】原文、空氣を透して
四九―五一
【聖徒よと喚ばはる】或ひは、聖徒をよばはる。聖母を初め諸天使諸聖徒の助けを求むる祈りの歌(Litanie de'Santi)をうたへるなり
五八―六〇
【毛織】cilicio 馬の毛等を結びあはせて造れる粗き衣にて昔隱者これを肌に着けそのたえず身を刺すを忍びて一種の行《ぎやう》となせりといふ
六一―六六
【赦罪の日】寺院に特赦の式ある日近隣の人々赦罪を乞はんためそこに集まるを例とす、かゝる折を待ちて盲目の乞丐《かたゐ》等また寺前に集まり憐れなる言葉をいだし、あはれなる姿を示してかの人々に物乞はんとするなり
七〇―七二
目を大にして他人の境遇をうかゞふは嫉妬の人の常なれば目を縫ひふさぎてこの罪を矯む
【鷹】馴れざる鷹は人を見ればたえず恐れて逃げんとするがゆゑにこれを馴らさんため始め絲をもてその瞼を縫ひ合はす習ひありきといふ
七九―八一
路の右方即ち圈の外側は第一圈に接する斷崖あるところにてその縁平らかなればウェルギリウスはダンテの墜落を防ぎかつは圈の状況をしたしくこれに見せしめんとて自ら右側を行けるなり
八五―八七
【高き光】神
八八―九〇
願はくは神恩によりて汝等の心の汚穢《けがれ》洗ひ去られその記憶だにあとに殘らざるにいたらんことを
【これを】良心を
九一―九三
【ラチオ人】イタリア人
【益あらむ】生者に請ひてその者のために祈らしむべければ
九四―九六
【眞の都】天の都(エペソ、二・一九參照)
【旅客】天は郷土、人は旅客なり
九七―九九
【かなたに】かの魂に聞えしめんため聲を高くして語れる(一〇三―五行)をいふ
一〇三―一〇五
【登らむ】天に
一〇九―一一一
【サピーア】シエーナの貴婦人、家系不明
【智慧なく】Savia non fui 名の Sapia と savia(賢き)とを通はして文飾となせるなり
一一二―一一四
【はや降《くだり》と】われ三十五歳を過ぎしとき(地、一・一―三註參照)
一一五―一一七
【コルレ】エルザの溪の一丘上にある町の名。一二六九年シエーナ及びその他のギベルリニ黨、フィレンツェ人とこゝに戰ひて敗れ、シエーナ軍の主將プロヴェンツアーノ・サルヴァーニ(淨、一一・一二一)虜はれて殺さる
【好みたまへるもの】シエーナ軍の敗北。サピーアは極めて嫉妬深き女なればその同郷人特には當時權勢並びなきプロヴェンツァーンをそねみてその敗戰を希へるなるべしといふ
一二一―一二三
【メルロ】鳥の名、異鶫《くろつぐみ》の類
註釋者曰。こは昔の人の話柄《かたりぐさ》に、メルロは雪の頃身を縮めて元氣なけれど空少しく晴るゝをみれば直ちに勢ひを得て、冬すでに過ぐ、主よ我また汝を恐れずといふといへるによれるなりと
【恐れず】わが願ひすでに成就したれば
一二四―一二九
【ピエル・ペッティナーイオ】ピエートロ・ダ・カムピ、幼少の頃よりシエーナに住み櫛を商へるをもてペッティナーイオ(櫛商)の異名あり、その行ひ極めて清廉にして善行多し、一二八九年シエーナに死す、市民公費を以てその墓を建つといふ
【負債は】我はこゝに來りてたとひ一部なりともわが罪を贖ひ終ることあたはず、臨終に悔改めし魂の例に從ひ今猶淨火の門外に止まれるなるべし
一三三―一三五
我もいつかこのところに來りて嫉みの罪を淨めんために汝等の如く目を縫はるゝことあらむ、されどわがこゝに止まる間は短かかる
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