ェ遜の念より出でたる事なればむしろ世の王者にまさる(餘る)
【ミコル】ミカル。サウルの女にしてダヴィデの妃たりし者。王宮の窓より王の群集にまじりて躍り狂ふ姿を見、これを侮り且つ悲しめること聖書にいづ(サムエル後、六・一六及び二〇)
七三―九六
第三の例は皇帝トラヤヌスの物語なり、この物語はディオン・カッシウスの話説よりいでて中古廣く世に行はれきといふ
【グレゴーリオ】傳説に曰。皇帝トラヤヌス(五六―一一七年)の死後法王グレゴリウス一世その魂の救はれんことを神に祈りたれば皇帝この祈りのために地獄の苦しみを脱して天堂に入るをえたりと。一説には皇帝地獄より再び世に歸り洗禮を受くるにいたれりともいふ(天、二〇・一〇六―八參照)
【勝利】その祈りによりてトラヤヌスの魂を救ひ出せること即ち地獄に對する勝利
【鷲】ローマの軍旗として黄地に縫ひとれる鷲
【歸るまで】戰ひ終りて
【新しき物】神は時間に超越す、しかして萬物は皆神の顯現なり、故に神には新しき物あることなし
【奇し】かく複雜なる情の變化をあらはすは世の彫刻家の爲しあたはざるところなり
一〇〇―一〇二
【こなた】左
【民】傲慢の罪を淨むる者。この罪は七大罪のうち最も重き罪なれば最も低き處に淨めらる
一〇三―一〇五
或ひは「その好む習なる奇《めづら》しき物をみんとて眺むることにのみ凝れるわが目も、たゞちに彼の方にむかへり」
一〇六―一〇八
罪を淨むる者の苦しみ甚だ大なるを聞きて心臆し、悔改めの道を離るゝは非也
一〇九―一一一
苦しみの大なるをのみ思はずして後の福をおもへ、またいかに惡しき場合にても最後の審判の日到ればその苛責止むをおもへ
一一五―一一七
【わが目も】はじめは人の姿なるや否やを判じえざりしなり
一一八―一二〇
【石】罪の性質に應じて罰を異にすること地獄に於けるに同じ、世に自ら高うせる者今大石を負うて地にかゞむ
【なやむ】si picchia(打たるゝ、自ら打つ)註釋者多くはこれを罪を悔いて己が胸をうつ意に解すれど大石を負うて低くかゞめる者にふさはしからざるに似たり
一二四―一二六
【靈體の蝶】l'angelica farfalla(天使の如き蝶)人の魂。蟲の羽化して飛ぶどとく、我等の魂肉體をはなれ己が罪をかくさずしてゆいて審判をうくるなり
一二七―一二九
世に住む人の完全ならざるをいひてその高慢を誡めしなり
一三〇―一三二
【肱木】mensola 壁より凸出して梁の類を支ふるもの、往々人物の彫像を用ゐこれをしてその上にあるものを支ふるごとく見えしむ


    第十一曲

第二圈にいたらんため詩人等道をかの一群の靈に問ひ、その一オムベルト・アルドブランデスコの答へをききて彼等と共に右に向ふ、グッビオのオデリジまたかの群の中にありダンテを認めてこれと語りかつこれにプロヴェンツアーン・サルヴァーニの事を告ぐ
一―三
一行より二四行までは傲慢の罪を淨むる魂の祈りにてマタイ、六・九以下及びルカ、一一・二以下にみゆる主の祈りを敷衍せるもの
【限らるゝ】神の天にいますは空間の制限によりてそのいますところ定まれるがゆゑにあらず、たゞ最初の被造物即ち諸天及び天使を愛したまふこと特に深きによりてなり
四―六
【聖息】vapore 神の靈《みたま》のはたらき萬物に及ぶをいふ
七―九
【爾國の平和】天上の福
一〇―一二
人その私心を棄ててよく神意に服從すること天使のごとくなるべし
【オザンナ】Osanna 神を讚美する語(マタイ、二一・九)
一三―一五
【マンナ】manna 糧。昔イスラエルの民がアラビアの曠野にて食せるものにて(出エヂプト、一六・一三以下)こゝにては神の恩惠を指す
【曠野】マンナに因みて淨火を指せり。神恩によらざれば人、罪を淨むるあたはず
一六―一八
【功徳】我等の功徳微少にして罪を贖ふにたらざれば

一九―二一
【敵】惡魔

二二―二四
我等淨火門内にある者は惡の誘惑にあふことなければこの最後の祈りは我等のためにあらずして世人のためなり(淨、八・一九―二一註參照)
二五―二七
【旅】淨めの旅
【夢に】人|魘《おそ》はれて恰も重荷に壓せらるゝ如く感ずるをいふ
二八―三〇
【等しからざる】石の輕重により
【濃霧】誇りの氣
【臺】圈(淨、一〇・二五―七註參照)
三一―三三
【良根】神恩。神は世に住む善人の祈りを受納したまふ(淨、四・一三三―五參照)
【こゝに】世に
三四―三六
【諸※[#二の字点、1−2−22]の星の輪】諸天
三七―三九
以下四五行までウェルギリウスの詞
【正義と慈悲】神の
四〇―四二
【階】第一圈と第二圈の間の
【徑】第一圈より第二圈に通ずる狹路
五八―六三
【我】オムベルト・アルドブランデスコ。サンタフィオルの伯爵アルドブランデスコ家(淨、六・一〇九―一一註參照)の者、ギベルリニ黨に屬し屡※[#二の字点、1−2−22]シエーナと爭へるため一二五九年シエーナ人刺客を遣はしてこれを殺さしむといふ
【ラチオの者】イタリア人
【古き血】舊家なること
【母の同じ】人皆地(或曰エヴァと)を母とす
六四―六六
【カムパニヤティーコ】オムブロネの溪なる一丘上の城にてアルドブランデスコ家の所有なり、オムベルトこゝに殺さる
七〇―七二
【生者】生前傲慢にして罪を淨めざりしかば死後この罪を贖はざるをえず
七三―七五
【垂れ】ダンテ自ら省みて傲慢の罪を恐れしなり
七九―八一
【アゴッビオ】クッビオ。マルケにあり
【色彩】alluminar(Fr. enluminer)色彩を用ゐて書籍の裝飾等をなす技
【オデリジ】グッビオの色彩畫家、一二九九年ローマに死す
八二―八四
【フランコ】ボローニアの色彩畫家、十三世紀の末より世に知らる
【一部】我はたゞ先輩として譽の一部を分つのみ。或曰、オデリジはフランコの師なりきと
八八―九〇
【もし罪を】我若し在世の間に悔改むることなかりしならば今猶淨火の門内に入るをえざりしなるべし
九一―九三
【衰へる世】先輩を凌駕する人の出でざる世
【その頂の】人の榮えの時めく間いつまでか續かむ
九四―九六
【チマーブエ】ジヨヴァンニ・チマーブエ。有名なるフィレンツェの畫家(一二四〇―一三〇二年頃)
【ジオット】有名なるフィレンツェの畫家。一二六六年フィレンツェの附近なる一小村に生れ、一三三七年フィレンツェに死す、ダンテの親友なりきといふ
九七―九九
【一のグイード】グイード・カヴァルカンティ(地、一〇・五八―六〇註參照)
【他のグイード】グイード・グイニツェルリ、ボローニアの詩人(淨、二六・九一―三註參照)
【巣より逐ふ者】ダンテがかの二詩人を凌駕するを暗示したりとの説あり、されど殊更に或一人を指せるにあらずしてたゞ一般に榮枯盛衰の定めなきをいへりとの註穩當なるに似たり
一〇三―一〇八
たとひ老いて後死すとも未だ千年經ざるまに世に忘れられ疎んぜられて稚き時に死すると異なるなきにいたらむ
【パッポ、ディンディ】papro(=pane), dindi(=denari)小兒の語、邦語にて飯《まんま》、錢《ぜぜ》といふにあたる。パッポ、ディンディを棄つるは人生長じて小兒の言語を用ゐざるにいたるをいふ
【いとおそくめぐる天】原文、天にいとおそくめぐる圈。恆星の天(第八天)を指す、當時の天文學によればその一※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉に三萬六千年を要すといふ
一〇九―一一四
【ゆく者】プロヴェンツァン・サルヴァーニ。シエーナなるギベルリニ黨の首領としてその勢力あまねくトスカーナに及ぶ、一二六〇年モンタペルティの戰ひ(地、一〇・八五―七註參照)の際大いにその黨與のために力め、翌六一年モンタプルチアーノにポデスタたり、一二六九年コルレの戰ひ(淨、一三・一一五―七註參照)に敗れ、虜はれて首斬らる
【亡ぼされし】モンタペルティの戰ひにフィレンツェ人(グエルフィ黨に屬する)の大敗せるをいふ
一一五―一一七
太陽はその光熱によりて地に草を生ぜしめ後これを枯らす、かくの如く時は人を榮えしめ後その榮を奪ふ
一二四―一二六
【かくのごとく】小股に(一〇九行)、荷重ければなり
【かゝる金錢】かゝる苦しみによりてその罪を淨む
―二七―一三二
【低き處】門外(淨、四・一二七以下參照)
【善き祈り】善人の祈り
【かく來る】死後直ちに門内に來る
一三三―一三八
古註曰。ターリアコッツオの戰ひ(地、二八・一三―八並びに註參照)にプロヴェンツァーンの一友某コルラヂーノのためにシヤルルと戰ひ、とらはれて獄に下さる、この時プロヴェンツァーン、一萬フィオリーノ(金貨)を以てその命を贖ふをうるを聞き、シエーナ市中央のピアッツァ(ピアッツア・デル・カムポ)に座を設け自ら人の憐みを乞ふ、シエーナ人尊大彼がごときもの今身を低うして人の助けを求むるを見てその志をあはれみ各※[#二の字点、1−2−22]分に應じて施與す、獄中の友これによりて救はるゝことをえたりと
【震はしむ】人の憐みを乞ふのつらきに身震ふなり
一三九―一四一
【暗き】憐みを乞ふくるしさは經驗によらざれば知り難し
【隣人】フィレンツェ人。汝フィレンツェ人のために郷土を逐はれ自ら人の憐みを乞ひ自ら身を震はすに及びてはじめてよくわが詞を解せむ
一四二
【幽閉を】彼が門外に長く止まらずして早くこの處に來るをえしはこの愛この謙遜の行爲ありたるによりてなり


    第十二曲

ダンテ、ウェルギリウスの誡しめに從ひオデリジの魂とわかれて進み路上に刻める慢心の罰の例を見、かくて階《きざはし》のほとりにいたればひとりの天使その額上なる七字の一を消しこれを勵まして第二圈にむかはしむ
一―三
【魂】オデリジの
四―六
【人各※[#二の字点、1−2−22]】人皆いそぎて改悔の途に進むべきをいへり
七―九
我は歩を早めんため、自然の要求に從ひて身を直くせるもわが心は傲慢のおそるべきものなるを知りてもとのごとく低く屈めり
一六―一八
【平地の墓】tombe terragne 高く築き上げたる墓に對していへり、表を上に向けし大理石の墓石などに生前の姿を刻して死後の記念となすこと中古世に行はるといふ
一九―二一
死者の追憶を拍車にたとへしなり
二五―二七
傲慢の罰の第一例として魔王ルチーフェロを擧ぐ
【尊く】地、三四・一六―八參照
【電光】我は電光の如くサタンの天より墜ちるを見たり(ルカ、一〇・一八)
二五行より三六行に亙る四聯は皆 Vedea(我は見たり)に、次の四聯は皆O(あゝ)に、次の四聯は皆 Mostrava(示せり)にはじまり、その又次の一聯のうち第一行は Vedea に第二行はOに第三行は Mostrava にはじまる
二八―三〇
第二の例はブリアレオスなり、神話にいづる巨人の一にして巨人等が神々と爭へる時ゼウスの電光の矢に射られて死せるもの(地、三一・九七―九並びに註參照)
三一―三三
第三例。神々と戰ひて死せる巨人等
彫像にはアポロン、アテナ、アレスの三神がその父ゼウスの傍にありてフレーグラの戰ひ(地、一四・五五―六〇參照)に死せる巨人等の骸《むくろ》を見る状をあらはせり
【ティムブレオ】アポロン。トロアデ(トロイア地方の名)のテュムブレにこの神を祭れる宮あるよりかく呼べり
三四―三六
第四例は聖書よりいづ、巨人ニムロッドネムブロット(地、三一・七六―八註參照)シナルの野にて高塔を築き、その頂を天に達せしめんとして神怒に觸る(創世記、―一・一以下)
【惑へる】言語亂れて通ぜざれば
【建物】原文、勞苦。バベルの高塔を指す
三七―三九
第五例は神話にいづるニオべの物語なり、ニオベはタンタロスの女、テバイ王アムピオンの妻となりて七男七女を生みその血統、富貴、美貌及び子女の多きに誇りて己をレト神にまされりとしテバイ人のこの神に供物を捧ぐるを責めしかば、レトその二子アポロン、アルテミスを遣はしてニオべの子女を悉く殺さしむ、ニオベは悲歎のあまり化して石となれり(オウィディウスの『メタモルフォセス』六・一四六以下參照)
四〇―四二
第六例。イスラエル王サ
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