れしものを汝に告ぐべし。 一二四―一二六
彼。汝たとひ百の假面《めん》にて汝の顏を覆ふとも、汝の思ひのいと微小《さゝやか》なるものをすら、我にかくすことあたはじ 一二七―一二九
それかのものの汝に見えしは、汝が言遁《いひのが》るゝことなくしてかの永遠《とこしへ》の泉より溢《あふ》れいづる平和の水に心を開かんためなりき 一三〇―一三二
わがいかにせると汝に問へるも、こは魂肉體を離るれば視る能はざる目のみをもて見るものの問ふごとくなせるにあらず 一三三―一三五
たゞ汝の足に力をえさせんとて問へるなり、總て怠惰にて覺醒《めざめ》己に歸るといへどもこれを用ゐる事遲き者はかくして勵ますを宜しとす。 一三六―一三八
我等は夕《ゆふべ》の間、まばゆき暮《くれ》の光にむかひて目の及ぶかぎり遠く前途《ゆくて》を見つゝ歩みゐたるに 一三九―一四一
見よ夜の如く黒き一團の煙しづかに/\こなたに動けり、しかして避くべきところなければ 一四二―一四四
我等は目と澄める空氣をこれに奪はれき 一四五―一四七
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   第十六曲

地獄の闇または乏しき空《そら》に雲みち/\て暗き星なき夜《よ》の闇といふとも 一―三
我等をおほへる烟のごとく厚き粗《あら》き面※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《かほおほひ》を造りてわが目を遮りわが官に觸れしことはあらじ 四―六
われ目をひらくあたはざれば、智《さと》き頼《たのも》しきわが導者は我にちかづきてその肩をかしたり 七―九
我は瞽《めしひ》が路をあやまりまたは己を害《そこな》ふか殺しもすべき物にうちあたるなからんためその相者《てびき》に從ふごとく 一〇―一二
苛《から》き濁れる空氣をわけ、わが導者の、汝我と離れざるやう心せよとのみいへる言《ことば》に耳を傾けて歩めり 一三―一五
こゝに多くの聲きこえぬ、各※[#二の字点、1−2−22]平和と慈悲とを、かの罪を除きたまふ神の羔《こひつじ》に祈るに似たりき 一六―一八
祈りはたえずアーグヌス・デイーにはじまり、詞も節もみな同じ、さればすべての聲全く相和せるごとくなりき 一九―二一
我曰ふ。師よ、かくうたふは靈なりや。彼我に。汝のはかるところ正し、彼等は怒りの結《むすび》を解くなり。 二二―二四
我等の烟を裂き、いまだ時を月に分つ者のごとく我等の事を語る者よ、汝は誰ぞや。 二五―二七
一の聲斯く曰へり、是に於てかわが師曰ふ。汝答へよ、しかして登りの道のこなたにありや否やを問ふべし。 二八―三〇
我。あゝ身を麗しうして己が造主《つくりぬし》に歸らんため罪を淨むる者よ、汝我にともなはば奇《くす》しき事を聽くをえむ。 三一―三三
答へて曰ふ。我汝に從ひてわが行くをうる間はゆかむ、烟は見るを許さずとも聞くことこれに代りて我等を倶にあらしめむ。 三四―三六
このとき我曰ふ。我は死の解く纏布《まきぎぬ》をまきて登りゆくなり、地獄の苦しみを過ぎてこゝに來れり 三七―三九
神はわがその王宮を、近代《ちかきよ》に全く例《ためし》なき手段《てだて》によりて見るを好《よみ》したまふまで、我をその恩惠《めぐみ》につゝみたまへるなれば 四〇―四二
汝死なざる前《さき》は誰なりしや請ふ隱さず我に告げよ、また我のかくゆきて徑《こみち》にいたるや否やを告げて汝の言を我等の導《しるべ》とならしめよ。 四三―四五
我はロムバルディアの者にて名をマルコといへり、我よく世の事を知り、今はひとりだに狙《ねら》ふ人なき徳を慕へり 四六―四八
汝登らんとてこなたにゆくはよし。かく答へてまたいふ。高き處にいたらば請ふ汝わがために祈れ。 四九―五一
我彼に。我は誓ひて汝の請ふところをなさむ、たゞ我に一の疑ひあり、我もしこれを解かずば死すべし 五二―五四
こは初め單《ひとへ》なりしも今|二重《ふたへ》となりぬ、そは汝の言《ことば》、これと連《つら》なる事の眞《まこと》なるをこゝにもかしこにも定かに我に示せばなり 五五―五七
世はげに汝のいふごとく全く一切の徳を失ひ、邪惡を孕みてかつこれにおほはる 五八―六〇
されど請ふ我にその原因《もと》を指示《さししめ》し、我をして自らこれを見また人にみするをえしめよ、そは或者これを天に歸し或者地に歸すればなり。 六一―六三
憂ひの噫《あゝ》に終らしむる深き歎息《ためいき》をつきて後彼曰ひけるは。兄弟よ、世は盲《めしひ》なり、しかして汝まことにかしこより來る 六四―六六
汝等生者は一切の原因《もと》をたゞ上なる天にのみ歸し、この物必然の力によりてよく萬事を定むとなす 六七―六九
若し夫れ然らば自由の意志汝等の中に滅ぶべく、善のために喜び惡のために悲しみを得るは正しき事にあらざるべし 七〇―七二
天は汝等の心の動《うごき》に最初《はじめ》の傾向《かたむき》を與ふれども、凡て
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