四―三六
我等既にかしこを去りて登れるとき、慈悲ある者は福なり[#「慈悲ある者は福なり」に白丸傍点]、また、悦べ汝|勝者《かつもの》よとうたふ聲|後《うしろ》に起れり 三七―三九
わが師と我とはたゞふたりにて登りゆけり、我は行きつゝ師の言《ことば》をききて益をえんことをおもひ 四〇―四二
これにむかひていひけるは。かのローマニアの魂が除く[#「除く」に白丸傍点]といひ侶[#「侶」に白丸傍点]といへるは抑※[#二の字点、1−2−22]何の意《こゝろ》ぞや。 四三―四五
是に於てか彼我に。彼は己の最大《いとおほ》いなる罪より來る損害《そこなひ》を知る、此故にこれを責めて人の歎《なげき》を少なからしめんとすとも異《あや》しむに足らず 四六―四八
それ汝等の願ひの向ふ處にては、侶と頒《わか》てば分減ずるがゆゑに、嫉妬《ねたみ》鞴《ふいご》を動かして汝等に大息《といき》をつかしむれども 四九―五一
至高《いとたか》き球の愛汝等の願ひを上にむかはしむれば、汝等の胸にこのおそれなし 五二―五四
そはかしこにては、我等の[#「我等の」に白丸傍点]所有《もちもの》と稱《とな》ふる者愈※[#二の字点、1−2−22]多ければ、各自《おの/\》の享《う》くる幸《さいはひ》愈※[#二の字点、1−2−22]多く、かの僧院に燃ゆる愛亦愈※[#二の字点、1−2−22]多ければなり。 五五―五七
我曰ふ。我若しはじめより默《もだ》したりせば、斯く足《た》らはぬことなかりしものを、今は却つて多くの疑ひを心に集む 五八―六〇
一の幸《さいはひ》を頒つにあたり、これを享くる者多ければ、享くる者少なき時より所得多きは何故ぞや。 六一―六三
彼我に。汝は心を地上の物にのみとむるがゆゑに眞《まこと》の光より闇を摘む 六四―六六
かの高きにいまして極《きはみ》なくかつ言ひ難き幸《さいはひ》は、恰も光線の艶《つや》ある物に臨むがごとく、馳せて愛にいたり 六七―六九
熱に應じて己を與ふ、されば愛の大いなるにしたがひ永劫の力いよ/\その上に加はる 七〇―七二
心を天に寄する民愈※[#二の字点、1−2−22]多ければ、深く愛すべき物愈※[#二の字点、1−2−22]多く、彼等の愛亦愈※[#二の字点、1−2−22]多し、而して彼等の互ひに己を映《うつ》すこと鏡に似たり 七三―七五
若しわが説くところ汝の饑《うゑ》を鎭《しづ》めずば、汝ベアトリーチェを見るべし、さらば彼は汝のために全くこれらの疑ひを解かむ 七六―七八
今はたゞ、痛みの爲にふさがる五の傷《きず》の、とくかの二のごとく消ゆるにいたる途を求めよ。 七九―八一
我はこのとき我よくさとるといはんとおもひしかど、わがすでに次の圓に着けるを見しかば、目の願ひのために默《もだ》せり 八二―八四
こゝにて我俄かにわが官能をはなれて一の幻《まぼろし》の中に曳かれ、多くの人を一の神殿《みや》の内にみしごとくなりき 八五―八七
母たる者のやさしさを姿にあらはせしひとりの女、入口に立ち、わが子よ、何ぞ我等にかくなしたるや 八八―九〇
見よ、汝の父と我と憂へて汝を尋ねたりといひ、いひをはりて默《もだ》せしとき、第一の異象消ゆ 九一―九三
次にまたひとりの女わが前にあらはれき、はげしき怒りより生るゝとき憂ひのしたたらす水その頬をくだれり 九四―九六
彼曰ふ。汝|實《まこと》にかゝる都――これが名について神々の間にかのごとき爭ひありき、また凡ての知識の光この處より閃《きらめ》きいづ――の君ならば 九七―九九
ピシストラートよ、我等の女《むすめ》が抱きたる不敵の腕《かひな》に仇をむくいよ。されど君は寛仁柔和の人とみえ 一〇〇―一〇二
さわぐ氣色《けしき》もなくこれに答へて、我等己を愛する者を罪せば、我等の禍ひを求むる者に何をなすべきやといふごとくなりき 一〇三―一〇五
我また民が怒りの火に燃え、殺せ/\とのみ聲高く叫びあひつゝ石をもてひとりの少年《わかもの》を殺すをみたり 一〇六―一〇八
死はいま彼を壓しつゝ地にむかひてかゞましむれど、彼はたえず目を天の門となし 一〇九―一一一
かゝる爭ひのうちにも憐憫《あはれみ》を惹《ひ》く姿にてたふとき主に祈り、己を虐《しひた》ぐる者のために赦しを乞へり 一一二―一一四
わが魂|外部《そと》にむかひ、その外部《そと》なる眞《まこと》の物に歸れる時、我は己の僞りならざる誤りをみとめき 一一五―一一七
わが導者は、眠りさむる人にひとしきわが振舞をみるをえていふ。汝いかにせる、何ぞ自ら身をさゝふるあたはずして 一一八―一二〇
半レーガ餘の間、目を閉ぢ足をよろめかし、あたかも酒や睡りになやむ人のごとく來れるや。 一二一―一二三
我曰ふ。あゝやさしきわが父よ、汝耳をかたむけたまはば、我かく脛《はぎ》を奪はれしときわが前にあらは
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