《たるいた》の安全なりし世に造られき)に破らる 一〇三―一〇五
こゝにても次の圓よりいと急に垂るゝ岸、かゝる手段《てだて》によりて緩《ゆる》まりぬ、されど右にも左にも身は高き石に觸る 一〇六―一〇八
我等かしこにむかへるとき、聲ありて、靈の貧しき者は福なり[#「靈の貧しき者は福なり」に白丸傍点]と歌へり、そのさま詞をもてあらはすをえじ 一〇九―一一一
あゝこれらの徑《こみち》の地獄のそれと異なることいかばかりぞや、こゝにては入る者歌に伴はれ、かしこにては恐ろしき歎きの聲にともなはる 一一二―一一四
我等既に聖なる段《きだ》を踏みて登れり、また我はさきに平地《ひらち》にありしときより身のはるかに輕きを覺えき 一一五―一一七
是に於てか我。師よ告げよ、何の重き物我より取られしや、我行けども殆んど少しも疲勞《つかれ》を感ぜず。 一一八―一二〇
答へて曰ふ。消ゆるばかりになりてなほ汝の顏に現れるP《ピ》、その一のごとく全く削り去らるゝ時は 一二一―一二三
汝の足善き願ひに勝たるゝがゆゑに疲勞《つかれ》をしらざるのみならず上方《うへ》に運ばるゝをよろこぶにいたらむ。 一二四―一二六
頭に物を載せてあゆみ自らこれを知らざる人、他《ほか》の人々の素振《そぶり》をみてはじめて異《あやしみ》の心をおこせば 一二七―一二九
手は疑ひを霽《はら》さんため彼を助け探《さぐ》り得て、目の果し能はざる役《つとめ》を行ふ、この時わが爲せることまたかゝる人に似たりき
我はわがひらける右手《めて》の指によりて、かの鑰を持つもののわが額に刻《きざ》める文字たゞ六となれるをしりぬ 一三三―一三五
導者これをみて微笑《ほゝゑ》みたまへり
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   第十三曲

我等|階《きざはし》の頂にいたれば、登りて罪を淨むる山、こゝにふたゝび截りとられ 一―三
一の臺《うてな》邱《をか》を卷くこと第一の圈の如し、たゞ異なるはその弧線《アルコ》のいよ/\はやく曲《まが》るのみ 四―六
こゝには象《かた》も文《あや》もみえず、岸も路も滑《なめら》かにみえて薄黒き石の色のみあらはる 七―九
詩人曰ふ。我等路を尋ねんためこゝにて民を待たば、我は我等の選ぶことおそきに過ぐるあらんを恐る。 一〇―一二
かくて目を凝らして日を仰ぎ、身をその右の足に支へ、左の脇《わき》をめぐらして 一三―
いふ。あゝ麗しき光よ、汝に頼恃《よりたの》みてこの新らしき路に就く、願はくは汝我等を導け、そは導く者なくば我等この内に入るをえざればなり ―一八
汝世を暖《あたゝ》め、汝その上に照る、若し故ありて妨げられずば我等は汝の光をもて常に導者となさざるべからず。 一九―二一
心進むによりて時立たず、我等かの處よりゆくこと既にこの世の一|哩《ミーリア》にあたる間におよべり 二二―二四
この時多くの靈の、愛の食卓《つくゑ》に招かんとて懇に物いひつゝこなたに飛來る音きこえぬ、されど目には見えざりき 二五―二七
飛過ぎし第一の聲は、彼等に酒なし[#「彼等に酒なし」に白丸傍点]と高らかにいひ、これをくりかへしつゝ後方《うしろ》に去れり 二八―三〇
この聲未だ遠く離れて全く聞えざるにいたらざるまに、いま一つの聲、我はオレステなりと叫びて過行き、これまた止まらず 三一―三三
我曰ふ。あゝ父よ、こは何の聲なりや。かく問へる時しもあれ、見よ第三の聲、汝等を虐《しひた》げし者を愛せといふ 三四―三六
この時善き師。この圈|嫉妬《ねたみ》の罪をむちうつ、このゆゑに鞭《むち》の紐愛より採《と》らる 三七―三九
銜《くつわ》は必ず響きを異にす、我の量《はか》るところによれば、汝これを赦《ゆるし》の徑《こみち》に着かざるさきに聞くならむ 四〇―四二
されど目を据《す》ゑてよくかなたを望め、我等の前に坐する民あり、各※[#二の字点、1−2−22]岩にもたれて坐せり。 四三―四五
このとき我いよ/\大きく目を開きてわが前方《まへ》を望み、その色石と異なることなき衣《ころも》を着たる魂を見き 四六―四八
我等なほ少しく先に進める時、マリアよ我等の爲に祈り給へと喚《よば》はりまたミケーレ、ピエル及び諸※[#二の字点、1−2−22]の聖徒よと喚ばはる聲を我は聞きたり 四九―五一
思ふに今日地上を歩むいかに頑《かたくな》なる人といふとも、このときわがみしものをみて憐憫《あはれみ》に刺されざることはあらじ 五二―五四
我彼等に近づきてその姿をさだかに見しとき、重き憂ひは涙をわが目よりしぼれり 五五―五七
彼等は粗《あら》き毛織を纏へる如くなりき、互ひに身を肩にて支へ、しかして皆岸にさゝへらる 五八―六〇
生活《なりはひ》の途なき瞽《めしひ》等が赦罪の日物乞はんとてあつまり、彼《かれ》頭を此《これ》に寄せ掛け 六一―六三
詞の節《ふし》によるのみ
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