二
彼我に曰ふ。目を下にむけよ、道をたのしからしめむため、汝の足を載する床《ゆか》を見るべし。 一三―一五
埋《う》められし者の思出《おもひで》にとて、その上なる平地《ひらち》の墓に、ありし昔の姿|刻《きざ》まれ 一六―一八
たゞ有情《うじやう》の者をのみ蹴る記憶の刺《はり》の痛みによりてしば/\涙を流さしむることあり 一九―二一
我見しに、山より突出《つきい》でて路を成せるかの處みなまた斯の如く、象《かたち》をもて飾られき、されど技《わざ》にいたりては巧みなることその比に非ず 二二―二四
我は一側《かたがは》に、萬物《よろづのもの》のうち最も尊く造られし者が天より電光《いなづま》のごとく墜下《おちくだ》るを見き 二五―二七
また一側に、ブリアレオが、天の矢に中《あた》り、死に冷《ひや》されて重く地に伏せるを見き 二八―三〇
我はティムプレオを見き、我はパルラーデとマルテを見き、彼等猶武器をとりその父の身邊《まはり》にゐて巨人等の切放たれし體《からだ》を凝視《みつ》む 三一―三三
我はネムブロットが、あたかも惑へるごとく、かの大いなる建物《たてもの》のほとりに、己と共にセンナールにてたかぶれる民をながむるをみき 三四―三六
あゝニオベよ、殺されし汝の子|七人《なゝたり》と七人の間に彫られし汝の姿を路にみしときわが目はいかに憂《うれ》はしかりしよ 三四―三六
あゝサウルよ、汝の己が劒《つるぎ》に伏してジェルボエ(この山この後|雨露《あめつゆ》をしらざりき)に死せるさまさながらにこゝに見ゆ 四〇―四二
あゝ狂へるアラーニエよ、我また汝が既に半《なかば》蜘蛛となり、幸《さち》なく織りたる織物の截餘《きれ》の上にて悲しむを見き 四三―四五
あゝロボアムよ、こゝにては汝の姿も、はやおびやかすあたはじとみえ、未だ人に追はれざるにいたく恐れて車を走らす 四六―四八
硬き鋪石《しきいし》はまたアルメオンが、かの不吉なる飾《かざり》の價の貴《たふと》さをその母にしらしめしさまを示せり 四九―五一
またセンナケリプをその子等|神宮《みや》の中にて襲ひ、その死するや、これをかしこに殘して去れるさまを示せり 五二―五四
またタミーリの行へる殘害《そこなひ》と酷《むご》き屠《ほふり》を示せり――この時彼チロにいふ、汝血に渇きたりき、我汝に血を滿さんと 五五―五七
またオロフェルネの死せるとき、アッシーリア人《びと》の敗れ走れるさまと殺されし者の遺物《かたみ》を示せり 五八―六〇
我は灰となり窟《いはや》となれるトロイアを見き、あゝイーリオンよ、かしこにみえし彫物《ほりもの》の象《かたち》は汝のいかに低くせられ衰へたるやを示せるよ 六一―六三
すぐるゝ才ある者といふとも誰とて驚かざるはなき陰《かげ》と線《すぢ》とをあらはせるは、げにいかなる畫筆《ゑふで》または墨筆《すみふで》の妙手ぞや 六四―六六
死者は死するに生者は生くるに異ならず、面《まのあたり》見し人なりとて、わが屈《かゞ》みて歩める間に踏みし凡ての事柄を我よりよくは見ざりしなるべし 六七―六九
エーヴァの子等よいざ誇れ、汝等|頭《かうべ》を高うして行き、己が禍ひの路を見んとて目をひくく垂るゝことなかれ 七〇―七二
繋《つなぎ》はなれぬわが魂のさとれるよりも、我等はなほ多く山をめぐり、日はさらに多くその道をゆきしとき 七三―七五
常に心を用ゐて先に進めるものいひけるは。頭《かうべ》が擧げよ、時足らざればかく思ひに耽りてゆきがたし 七六―七八
見よかなたにひとりの天使ありて我等の許《もと》に來らんとす、見よ第六の侍婢《はしため》の、晝につかふること終りて歸るを 七九―八一
敬《うやまひ》をもて汝の姿容《すがたかたち》を飾れ、さらば天使よろこびて我等を上に導かむ、この日再び晨《あした》とならざることをおもへ。 八二―八四
我は時を失ふなかれとの彼の誡めに慣れたれば、彼のこの事について語るところ我に明かならざるなかりき 八五―八七
美しき者こなたに來れり、その衣《ころも》は白く、顏はさながら瞬《またゝ》く朝の星のごとし 八八―九〇
彼|腕《かひな》をひらきまた羽をひらきていふ。來れ、この近方《ちかく》に階《きざはし》あり、しかして汝等今より後は登り易し。 九一―九三
それ來りてこの報知《しらせ》を聞く者甚だ罕《まれ》なり、高く飛ばんために生れし人よ、汝等|些《すこし》の風にあひてかく墜ちるは何故ぞや 九四―九六
彼我等を岩の截られたる處にみちびき、こゝに羽をもてわが額を打ちて後、我に登《のぼり》の安らかなるべきことを約せり 九七―九九
ルバコンテの上方《かみて》に、めでたく治まる邑《まち》をみおろす寺ある山に登らんため、右にあたりて 一〇〇―一〇二
登《のぼり》の瞼しさ段《きだ》(こは文書《ふみ》と樽板
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