ならず、その外見《みえ》によりてこれに劣らず心に訴へ、早く憐《あはれみ》を人に起さしめんとするもそのさままた斯《かく》の如し 六四―六六
また日が瞽の益とならざるごとく、わがいま語れるところにては、天の光魂に己を施すを好まず 六七―六九
鐡《くろがね》の絲凡ての者の瞼《まぶた》を刺し、これを縫ふこと恰もしづかならざる鷹を馴らさんとする時に似たりき 七〇―七二
我はわが彼等を見、みづから見られずして行くの非なるをおもひてわが智《さと》き議者《はからひびと》にむかへるに 七三―七五
彼能くいはざる者のいはんと欲するところをしり、わが問ひを待たずしていふ。語れ約《つづ》まやかにかつ適《ふさ》はしく。 七六―七八
ヴィルジリオは臺《うてな》の外側《そとがは》、縁《ふち》高く繞《めぐ》るにあらねば落下る恐れあるところを行けり 七九―八一
わが左には信心深き多くの魂ありき、その恐ろしき縫線《ぬひめ》より涙はげしく洩れいでて頬を洗へり 八二―八四
我彼等にむかひていふ。己が願ひの唯《たゞ》一の目的《めあて》なる高き光を必ず見るをうる民よ 八五―八七
願はくは恩惠《めぐみ》速かに汝等の良心の泡沫《あわ》を消し、記憶の流れこれを傳ひて清く下るにいたらむことを 八八―九〇
汝等の中にラチオ人《びと》の魂ありや、我に告げよ、我そのしらせを愛《め》で喜ばむ、また我これを知らば恐らくはその者に益あらむ。 九一―九三
あゝわが兄弟よ、我等は皆一の眞《まこと》の都の民なり、汝のいへるは族客《たびびと》となりてイタリアに住める者のことならむ。 九四―九六
わが立てるところよりやゝ先にこの答へきこゆるごとくなりければ、我わが聲をかなたにひゞくにいたらしむ 九七―九九
我は彼等の中にわが言《ことば》を待つ状《さま》なる一の魂を見き、若し人いかなる状ぞと問はば、瞽《めしひ》の習ひに從ひてその頤《おとがひ》を上げゐたりと答へむ 一〇〇―一〇二
我曰ふ。登らむために己を矯《た》むる魂よ、我に答へし者汝ならば、處または名を告げて汝の事を我に知らせよ。 一〇三―一〇五
答へて曰ふ。我はシエーナ人《びと》なりき、我これらの者と共にこゝに罪の生命《いのち》を淨め、御前《みまへ》に泣きて恩惠《めぐみ》を求む 一〇六―一〇八
われ名をサピーアといへるも智慧なく、人の禍ひをよろこぶこと己が福ひよりもなほはるかに深かりき 一〇九―一一一
汝我に欺かると思ふなからんため、わがみづからいふごとく愚なりしや否やを聞くべし、わが齡の坂路《さかみち》はや降《くだり》となれるころ 一一二―一一四
わが邑《まち》の人々その敵とコルレのあたりに戰へり、このときわれ神に祈りてその好みたまへるものを求めき 一一五―一一七
彼等かしこに敗れて幸《さち》なくも逃《に》ぐれば、我はその追はるゝを見、身に例《ためし》なき喜びをおぼえて 一一八―一二〇
あつかましくも顏を上げつゝ神にむかひ、さながら一時《ひととき》の光にあへる黒鳥《メルロ》のごとく、今より後我また汝を恐れずと叫べり 一二一―一二三
我わが生命《いのち》の極《はて》に臨みてはじめて神と和《やはら》がんことを願へり、またもしピエル・ペッティナーイオその慈愛の心よりわがために悲しみその聖なる祈りの中にわが身の上を憶はざりせば、わが負債《おひめ》は今も猶|苦楚《くるしみ》に減《へ》らさるゝことなかりしなるべし 一二四―一二六
されど汝は誰ぞや――汝我等の状態《ありさま》をたづね、氣息《いき》をつきて物いふ、またおもふに目に絆《きづな》なし。 一三〇―一三二
我曰ふ。わが目もいつかこゝにて我より奪はるゝことあらむ、されどそは暫時《しばし》のみ、その嫉妬《ねたみ》のために動きて犯せる罪|少《すく》なければなり 一三三―一三五
この下なる苛責の恐れはなほはるかに大いにしてわが魂を安からざらしめ、かしこの重荷いま我を壓《お》す。 一三六―一三八
彼我に。汝かなたに歸るとおもはば、誰か汝を導いてこゝに登り我等の間に入らしめしや。我。我と倶にゐて物言はざる者ぞ是なる 一三九―一四一
我は生く、されば選ばれし靈よ、汝若し我の己が死すべき足をこの後汝のために世に動かすことをねがはば我に請へ。 一四二―一四四
答へて曰ふ。あゝこは耳にいと新しき事にて神の汝をめで給ふ大いなる休徴《しるし》なれば、汝をりふしわがために祈りて我を助けよ 一四五―一四七
我また汝の切《せち》に求むるものを指して請ふ、若しトスカーナの地を踏むことあらば、わが宗族《うから》の中に汝再びわが名を立てよ 一四八―一五〇
汝は彼等をタラモネに望みを寄する虚榮の民の間に見む(この民その望みを失ふことディアーナを求めしときより大いならむ 一五一―一五三
されどかしこにて特《こと》に危險《あやふき》を顧みざるは
前へ
次へ
全99ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
山川 丙三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング