斷たる 一〇九―一一一
わがかく説分《ときわく》る處正しくば、愛せらるゝ禍ひは即ち隣人《となりびと》の禍ひなる事亦|自《おのづ》から明かならむ、而して汝等の泥《ひぢ》の中にこの愛の生ずる状《さま》三あり 一一二―一一四
己が隣人の倒るゝによりて自ら秀でんことを望み、たゞこのためにその高きより墜つるを希ふ者あり 一一五―一一七
人の高く登るを見て己が權《ちから》、惠《めぐみ》、譽《ほまれ》及び名を失はんことをおそれ悲しみてその反對《うら》を求むる者あり 一一八―一二〇
また復讐を貪るほどに損害《そこなひ》を怨むとみゆる者あり、かゝる者は必ず人の禍ひをくはだつ 一二一―一二三
この三樣の愛この下に歎かる、汝これよりいま一の愛即ち程度《ほど》を誤りて幸を追ふもののことを聞け 一二四―一二六
それ人各※[#二の字点、1−2−22]己が魂を安んぜしむる一の幸をおぼろにみとめてこれを望み、皆爭ひてこれに就《つ》かんとす 一二七―一二九
これを見または求むるにあたりて汝等を引くところの愛|鈍《にぶ》ければ、この臺《うてな》は汝等を、正しく悔いし後に苛責す 一三〇―一三二
また一の幸《さいはひ》あり、こは人を幸にせざるものにて眞《まこと》の幸にあらず、凡ての幸の果《み》またその根なる至上の善にあらず 一三三―一三五
かゝる幸に溺るゝ愛この上なる三の圈にて歎かる、されどその三に分るゝ次第は 一三六―一三八
我いはじ、汝自らこれをたづねよ。 一三九―一四一
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第十八曲
説きをはりて後たふとき師わが足れりとするや否やをしらんと心をとめてわが顏を見たり 一―三
我はすでに新しき渇《かわき》に責められたれば、外《そと》に默《もだ》せるも内《うち》に曰ふ。恐らくは問ふこと多きに過ぎて我彼を累《わづら》はすならむ。 四―六
されどかの眞《まこと》の父はわが臆して闢《ひら》かざる願ひをさとり、自ら語りつゝ、我をはげましてかたらしむ 七―九
是に於てか我。師よ、汝の光わが目をつよくし、我は汝の言《ことば》の傳ふるところまたは陳ぶるところをみな明かに認むるをう 一〇―一二
されば請ふ、わが愛する麗しき父よ、すべての善惡の行の本《もと》なりと汝がいへる愛の何物なるやを我にときあかしたまへ。 一三―一五
彼曰ふ。智の鋭き目をわが方にむけよ、しかせば汝は、かの己を導者となす瞽《めしひ》等の誤れることをさだかに見るべし 一六―一八
夫れ愛し易く造られし魂樂しみのためにさめてそのはたらきを起すにいたればたゞちに動き、凡て己を樂します物にむかふ 一九―二一
汝等の會得《ゑとく》の力は印象を實在よりとらへ來りて汝等の衷《うち》にあらはし魂をこれにむかはしむ 二二―二四
魂これにむかひ、しかしてこれに傾けば、この傾《かたむき》は即ち愛なり、樂しみによりて汝等の中に新たに結ばるゝ自然なり 二五―二七
かくて恰も火がその體《たい》の最や永く保たるゝところに登らんとする素質によりて高きにむかひゆくごとく 二八―三〇
とらはれし魂は靈の動《うごき》なる願ひの中に入り、愛せらるゝものこれをよろこばすまでは休まじ 三一―三三
汝是に依りてさとるをえむ、いかなる愛にても愛そのものは美《ほ》むべきものなりと斷ずる人々いかに眞《まこと》に遠ざかるやを 三四―三六
これ恐らくはその客體常に良《よし》と見ゆるによるべし、されどたとひ蝋は良とも印影《かた》悉くよきにあらず。 三七―三九
我答へて彼に曰ふ。汝の言《ことば》とこれに附隨《つきしたが》へるわが智とは我に愛をあらはせり、されどわが疑ひは却つてこのためにいよ/\深し 四〇―四二
そは愛|外部《そと》より我等に臨み、魂|他《ほか》の足にて行かずば、直く行くも曲りてゆくも己が業《ごふ》にあらざればなり。 四三―四五
彼我に。理性のこれについて知るところは我皆汝に告ぐるをう、それより先は信仰に關《かゝ》はる事なればベアトリーチェを待つべし 四六―四八
それ物質と分れてしかしてこれと結び合ふ一切の靈體は特殊の力をその中にあつむ 四九―五一
この力はその作用によらざれば知られず、あたかも草木《くさき》の生命《いのち》の縁葉《みどりのは》に於ける如くその果《くわ》によらざれば現はれず 五二―五四
是故に最初の認識の智と、慾の最初の目的《めあて》を求むる情とは恰も蜜を造る本能蜂の中にある如く汝等の中にありて 五五―
そのいづこより來るや人知らず、しかしてこの最初の願ひは譽《ほめ》をも毀《そしり》をもうくべきものにあらざるなり ―六〇
さてこれに他《ほか》の凡ての願ひの集まるためには、謀りて而して許諾《うけがひ》の閾《しきみ》をまもるべき力自然に汝等の中に備はる 六一―六三
是即ち評價の源《みなもと》なり、是が善惡二の愛をあつめ且つ簸《
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