一〇九―一一一
汝我に欺かると思ふなからんため、わがみづからいふごとく愚なりしや否やを聞くべし、わが齡の坂路《さかみち》はや降《くだり》となれるころ 一一二―一一四
わが邑《まち》の人々その敵とコルレのあたりに戰へり、このときわれ神に祈りてその好みたまへるものを求めき 一一五―一一七
彼等かしこに敗れて幸《さち》なくも逃《に》ぐれば、我はその追はるゝを見、身に例《ためし》なき喜びをおぼえて 一一八―一二〇
あつかましくも顏を上げつゝ神にむかひ、さながら一時《ひととき》の光にあへる黒鳥《メルロ》のごとく、今より後我また汝を恐れずと叫べり 一二一―一二三
我わが生命《いのち》の極《はて》に臨みてはじめて神と和《やはら》がんことを願へり、またもしピエル・ペッティナーイオその慈愛の心よりわがために悲しみその聖なる祈りの中にわが身の上を憶はざりせば、わが負債《おひめ》は今も猶|苦楚《くるしみ》に減《へ》らさるゝことなかりしなるべし 一二四―一二六
されど汝は誰ぞや――汝我等の状態《ありさま》をたづね、氣息《いき》をつきて物いふ、またおもふに目に絆《きづな》なし。 一三〇―一三二
我曰ふ。わが目もいつかこゝにて我より奪はるゝことあらむ、されどそは暫時《しばし》のみ、その嫉妬《ねたみ》のために動きて犯せる罪|少《すく》なければなり 一三三―一三五
この下なる苛責の恐れはなほはるかに大いにしてわが魂を安からざらしめ、かしこの重荷いま我を壓《お》す。 一三六―一三八
彼我に。汝かなたに歸るとおもはば、誰か汝を導いてこゝに登り我等の間に入らしめしや。我。我と倶にゐて物言はざる者ぞ是なる 一三九―一四一
我は生く、されば選ばれし靈よ、汝若し我の己が死すべき足をこの後汝のために世に動かすことをねがはば我に請へ。 一四二―一四四
答へて曰ふ。あゝこは耳にいと新しき事にて神の汝をめで給ふ大いなる休徴《しるし》なれば、汝をりふしわがために祈りて我を助けよ 一四五―一四七
我また汝の切《せち》に求むるものを指して請ふ、若しトスカーナの地を踏むことあらば、わが宗族《うから》の中に汝再びわが名を立てよ 一四八―一五〇
汝は彼等をタラモネに望みを寄する虚榮の民の間に見む(この民その望みを失ふことディアーナを求めしときより大いならむ 一五一―一五三
されどかしこにて特《こと》に危險《あやふき》を顧みざるは
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