るをえざれば 一四五―一四七
我はひとりのプッチオ・シヤンカートなるをさだかに知りき、さきに來れるみたりの伴侶《なかま》の中にて變らざりしはこの者のみ 一四八―一五〇
またひとりは、ガヴィルレよ、いまも汝を悼《いた》ましむ 一五一―一五三
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第二十六曲
フィオレンツァよ、汝はいと大いなるものにて翼を海陸の上に搏《う》ち汝の名遍く地獄に藉《し》くがゆゑに喜べ 一―三
我は盜人の中にて汝の際《きは》貴《たか》き邑民《まちびと》五人《いつたり》をみたり、我之を恥とす、汝もまた之によりて擧げられて大いなる譽を受くることはあらじ 四―六
されど曙《あかつき》の夢正夢ならば、プラート(その他はもとより)の汝のためにこひもとむるもの程なく汝に臨むべし、また今既にこの事ありとも 七―九
早きに過ぎじ、事避くべきに非ざれば若かず速に來らんには、そはわが年の積るに從ひ、この事の我を苦しむる愈※[#二の字点、1−2−22]大なるべければなり 一〇―一二
我等この處を去れり、わが導者はさきに下れる時我等の段《きだ》となれる巖角《いはかど》を傳ひて上りまた我をひけり 一三―一五
かくて石橋の上なる小岩大岩の間のさびしき路を進みゆくに手をからざれば足も效《かひ》なし 一六―一八
この時我は悲しめり、わがみしものに心をむくれば今また憂へ、才を制すること恆《つね》を超ゆ 一九―二一
これわが才、徳の導きなきに走り、善き星または星より善きものこの寶を我に與へたらんに、我自ら之を棄つるなからんためなり 二二―二四
たとへば世界を照すもの顏を人にかくすこといと少なき時、丘《をか》の上に休む農夫が 二五―二七
蚊の蠅に代る比《ころはひ》、下なる溪間《たにま》恐らくはおのが葡萄を採りかつ耕す處に見る螢の如く 二八―三〇
數多き炎によりて第八の嚢《ボルジヤ》はすべて輝けり、こはわがその底のあらはるゝ處にいたりてまづ目をとめしものなりき 三一―三三
またたとへば熊によりてその仇をむくいしものが、エリアの兵車の去るをみし時の如く(この時その馬天にむかひて立上り 三四―三六
彼目をこれに注げども、みゆるはたゞ一抹の雲の如く高く登りゆく炎のみなりき) 三七―三九
焔はいづれも濠《ほり》の喉を過ぎてすゝみ、いづれもひとりの罪人《つみびと》を盜みてしかも盜《ぬすみ》をあらはすことなかりき 四〇―四二
我は見んとて身を伸べて橋の上に立てり、さればもし一の大岩をとらへざりせば押さるゝをもまたで落ち下れるなるべし 四三―四五
導者はわがかく心をとむるをみていひけるは、火の中に魂あり、いづれも己を燒くものに卷かる 四六―四八
我答へて曰ひけるは、わが師よ、汝の言によりてこの事いよ/\さだかになりぬ、されど我またかくおしはかりて既に汝に 四九―
エテオクレとその兄弟との荼毘《だび》の炎の如く上方《うへ》わかれたる火につゝまれてこなたに來るは誰なりやといはんとおもひたりしなり ―五四
彼答へて我に曰ふ、かしこに苛責せらるゝはウリッセとディオメーデなり、ともに怒りにむかへるごとくまたともに罰にむかふ 五五―五七
かの焔の中に、彼等は門を作りてローマ人《びと》のたふとき祖先をこゝよりいでしめし馬の伏勢《ふせぜい》を傷《いた》み 五八―六〇
かしこにアキルレのためにいまなほデイダーミアを歎くにいたらしめし詭計《たくみ》をうれへ、またかしこにパルラーディオの罰をうく 六一―六三
我曰ふ、彼等かの火花のなかにて物言ふをえば、師よ、我ひたすらに汝に請ひまた重ねて汝に請ふ、さればこの請ひ千度《ちたび》の請ひを兼ねて 六四―六六
汝は我に角《つの》ある焔のこゝに來るを待つを否むなかれ、我わが願ひのためにみたまふ如く身をかなたにまぐ 六七―六九
彼我に、汝の請ふところ甚だ善し、この故に我これを容る、たゞ汝舌を愼しめ 七〇―七二
我既に汝の願ひをさとりたれば語ることをば我に任《まか》せよ、そは彼等はギリシア人《びと》なりしがゆゑに恐らくは汝の言を侮るべければなり 七三―七五
焔近づくにおよびて導者は時と處をはかり、これにむかひていひけるは 七六―七八
あゝ汝等二の身にて一の火の中にあるものよ、我生ける時汝等の心に適ひ、高き調《しらべ》を世に録《しる》して 七九―
たとひいさゝかなりとも汝等の心に適へる事あらば、請ふ過ぎゆかず、汝等の中ひとり路を失ひて後いづこに死處をえしやを告げよ ―八四
年へし焔の大いなる角、風になやめる焔のごとく微《かすか》に鳴りてうちゆらぎ 八五―八七
かくて物いふ舌かとばかりかなたこなたに尖《さき》をうごかし、聲を放ちていひけるは 八八―
一年《ひとゝせ》あまりガエタ(こはエーネアがこの名を與へざりしさきの事なり)に近く我を匿《かく》せしチルチェと別れ去れる時 ―九三
子の慈愛《いつくしみ》、老いたる父の敬ひ、またはペネローペを喜ばしうべかりし夫婦《めをと》の愛すら 九四―九六
世の状態《さま》人の善惡を味はひしらんとのわがつよきねがひにかちがたく 九七―九九
我はたゞ一艘の船をえて我を棄てざりし僅かの侶《とも》と深き濶き海に浮びぬ 一〇〇―一〇二
スパニア、モロッコにいたるまで彼岸をも此岸をも見、またサールディニア島及び四方この海に洗はるゝほかの島々をもみたり 一〇三―一〇五
人の越ゆるなからんためエルクレが標《しるし》をたてしせまき口にいたれるころには 一〇六―
我も侶等もはや年老いておそかりき、右にはわれシビリアをはなれ左には既にセッタをはなれき ―一一一
我曰ふ、あゝ千萬《ちよろづ》の危難《あやふき》を經て西にきたれる兄弟|等《たち》よ、なんぢら日を追ひ 一一二―
殘るみじかき五官の覺醒《めざめ》に人なき世界をしらしめよ、汝等|起原《もと》をおもはずや
汝等は獸のごとく生くるため造られしものにあらず、徳と知識を求めんためなり ―一二〇
わがこの短き言《ことば》をきゝて侶は皆いさみて路に進むをねがひ、今はたとひとゞむとも及び難しとみえたりき 一二一―一二三
かゝれば艫《とも》を朝にむけ、櫂を翼として狂ひ飛び、たえず左に舟を寄せたり 一二四―一二六
夜は今南極のすべての星を見、北極はいと低くして海の床《ゆか》より登ることなし 一二七―一二九
我等難路に入りしよりこのかた、月下の光|五度《いつたび》冴え五度消ゆるに及べるころ 一三〇―一三二
かなたにあらはれし一の山あり、程遠ければ色薄黒く、またその高さはわがみし山のいづれにもまさるに似たりき 一三三―一三五
我等は喜べり、されどこの喜びはたゞちに歎きに變れり、一陣の旋風新しき陸《くが》より起りて船の前面《おもて》をうち 一三六―一三八
あらゆる水と共に三度《みたび》これに旋《めぐ》らし四度《よたび》にいたりてその艫《とも》を上げ舳《へさき》を下せり(これ天意《みこゝろ》の成れるなり) 一三九―一四一
遂に海は我等の上に閉ぢたりき 一四二―一四四
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第二十七曲
語りをはれるため、焔はすでに上にむかひて聲なく、またやさしき詩人の許しをうけてすでに我等を離れし時 一―三
その後《うしろ》より來れるほかの焔あり、不律の音を中より出して我等の目をその尖《さき》にむけしめき 四―六
たとへばシチーリアの牡牛が(こは鑢《やすり》をもて己を造れる者の歎きをその初聲《はつごゑ》となせる牛なり、またかくなせるや好し) 七―九
苦しむ者の聲によりて鳴き、銅《あかがね》の器《うつは》あたかも苦患《なやみ》に貫かるゝかと疑はれし如く 一〇―一二
はじめは火に路も口もなく、憂ひの言《ことば》かはりて火のことばとなれるも 一三―一五
遂に路をえて登り尖《さき》にいたれる時、こゝにその過ぐるにのぞみて舌よりうけし動搖《ゆるぎ》を傳へ 一六―一八
いひけるは、わが呼ぶ者よ、またいまロムバルディアの語にていざゆけ我また汝を責めずといへる者よ 一九―二一
我おくれて來りぬとも請ふ止まりて我とかたるを厭ふなかれ、わが燃ゆれどもなほ之を厭はざるを見よ 二二―二四
汝若しわが持來れるすべての罪を犯せる處、かのうるはしきラチオの國よりいまこの盲《めしひ》の世に落ちたるならば 二五―二七
ローマニヤ人《びと》のなかに和ありや戰ひありや我に告げよ、我はウルビーノとテーヴェレの源なる高嶺《たかね》との間の山々にすめる者なればなり 二八―三〇
我はなほ心を下にとめ身をまげゐたるに、導者わが脇に觸れ、汝語るべしこれラチオの者なりといふ 三一―三三
この時既にわが答成りければ我ためらはずかたりていふ、下にかくるゝたましひよ 三四―三六
汝のローマニヤには今も昔の如く暴君等の心の中に戰ひたえず、たゞわが去るにあたりて顯著《あらは》なるものなかりしのみ 三七―三九
ラヴェンナはいまも過ぬる幾年《いくとせ》とかはらじ、ポレンタの鷲これを温《あたゝ》め、その翼をもてさらにチェルヴィアを覆ふ 四〇―四二
嘗て長き試みに耐へ、フランス人《びと》の血染めの堆《つか》を築ける邑《まち》は今緑の足の下にあり 四三―四五
モンターニアを虐《しひた》げし古き新しきヴェルルッキオの猛犬《あらいぬ》は舊《もと》の處にゐてその齒を錐《きり》とす 四六―四八
夏より冬に味方を變ふる白巣《しろす》の小獅子はラーモネとサンテルノの二の邑《まち》を治む 四九―五一
またサーヴィオに横を洗はるゝものは野と山の間にあると等しく暴虐と自由の國の間に生く 五二―五四
さて我こゝに汝に請ふ、我等に汝の誰なるやを告げよ、人にまさりて頑ななるなかれ、(かくて願はくは汝の名世に秀でんことを) 五五―五七
火はその習ひにしたがひてしばらく鳴りて後とがれる鋒《さき》をかなたこなたに動かし、氣息《いき》を出していひけるは 五八―六〇
我若しわが答のまた世に歸る人にきかるとおもはゞこの焔はとゞまりてふたゝび搖《ゆら》めくことなからん 六一―六三
されどわがきくところ眞《まこと》ならば、この深處《ふかみ》より生きて還れる者なきがゆゑに、我汝に答ふとも恥をかうむるの恐れなし 六四―六六
我は武器の人なりしがのち帶紐僧《コルヂーリエロ》となれり、こはかく帶して罪を贖はんとおもひたればなり、また我を昔の諸惡にかへらしめし 六七―六九
かの大いなる僧(禍ひ彼にあれ)微《なか》つせばわれこの思ひの成れるを疑はず、されば請ふ事の次第と濫觴《おこり》とをきけ 七〇―七二
我未だ母の與へし骨と肉とをとゝのへる間、わが行《おこなひ》は獅子に似ずして狐に似たりき 七三―七五
我は惡計《たくらみ》と拔道《ぬけみち》をすべてしりつくし、これらの術《わざ》をおこなひてそのきこえ地の極《はて》にまで及べり 七六―七八
わが齡《よはひ》すゝみて人おの/\その帆をおろし綱をまきをさむる時にいたれば 七九―八一
さきにうれしかりしものいまはうるさく、我は悔いまた自白して身を棄てき、かくして救ひの望みはありしをあゝ幸《さち》なし 八二―八四
第二のファリセイびとの王ラテラーノに近く軍《いくさ》を起し、(こはサラチーノ人またはジュデーア人との戰ひにあらず 八五―八七
その敵はいづれも基督教徒《クリスティアーノ》にてしかもその一人《ひとり》だにアークリに勝たんとてゆきまたはソルダーノの地に商人《あきびと》たりしはなし) 八八―九〇
おのが至高の職をも緇衣の分をもおもはず、また帶ぶるものいたく瘠するを常とせし紐《ひも》のわが身にあるをも思はず 九一―九三
あたかもコスタンティーンが癩を癒されんとてシルヴェストロをシラッティに訪へる如く、傲《たかぶり》の熱を癒されんとて 九四―
この者我を醫《くすし》として訪へり、彼我に謀を求め我は默《もだ》せり、その言《ことば》醉へるに似たりければなり ―九九
この時彼我に曰ふ、汝心に懼るゝ勿れ、今よりのち我汝の罪を宥さん、汝はペネストリーノを地に倒さんためわがなすべき事を我に教へよ 一〇〇―一〇二
汝の知る如く我は天を閉ぢまた開くをうるなり、この故に鑰《かぎ》二あり、こは乃ち我よりさきに位にあり
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