めしものは諂《へつらひ》なりき、わが舌これに飽きしことなければなり 一二四―一二六
こゝに導者我に曰ひけるは、さらに少しく前を望み、身穢れ髮亂れかしこに不淨の爪もて 一二七―一二九
おのが身を掻《か》きたちまちうづくまりたちまち立ついやしき女の顏を見よ 一三〇―一三二
これ遊女《あそびめ》タイデなり、いたく心に適《かな》へりやと問へる馴染《なじみ》の客に答へて、げにあやしくとこそといへるはかれなりき 一三三―一三五
さて我等の目これをもて足れりとすべし 一三六―一三八
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   第十九曲

あゝシモン・マーゴよ、幸なき從者《ずさ》等よ、汝等は貪りて金銀のために、徳の新婦《はなよめ》となるべき 一―三
神の物を穢れしむ、今|喇叭《らつぱ》は汝等のために吹かるべし、汝等第三の嚢《ボルジヤ》にあればなり 四―六
我等はこの時石橋の次の頂《いたゞき》まさしく濠の眞中《まなか》にあたれるところに登れり 七―九
あゝ比類《たぐひ》なき智慧よ、天に地にまた禍ひの世に示す汝の技《わざ》は大いなるかな、汝の權威《ちから》の頒《わか》ち與ふるさまは公平なるかな 一〇―一二
こゝに我見しに側《かは》にも底にも黒める石一面に穴ありて大きさ皆同じくかついづれも圓《まろ》かりき 一三―一五
思ふにこれらは授洗者《じゆせんじや》の場所としてわが美しき聖ジョヴァンニの中に造られしもの(未だ幾年《いくとせ》ならぬさき我その一を碎けることあり 一六―一八
こはこの中にて息絶えんとせし者ありし爲なりき、さればこの言《ことば》證《あかし》となりて人の誤りを解け)より狹くも大きくもあらざりしなるべし 一九―二一
いづれの穴の口よりも、ひとりの罪ある者の足およびその脛腓《はぎこむら》まであらはれ、ほかはみな内にあり 二二―二四
二の蹠《あしうら》火に燃えて關節《つがひめ》これがために震ひ動き、そのはげしさは綱《つな》をも組緒《くみを》をも斷切るばかりなりき 二五―二七
油ひきたる物燃ゆれば炎はたゞその表面《おもて》をのみ駛するを常とす、かの踵《くびす》より尖《さき》にいたるまでまた斯くの如くなりき 二八―三〇
我曰ふ、師よ、同囚《なかま》の誰よりも劇しく振り動かして怒りをあらはし猛き炎に舐《ねぶ》らるる者は誰ぞや 三一―三三
彼我に、わが汝をいだいて岸の低きをくだるを願はゞ汝は彼によりて彼と彼の
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