》のひとりその背をあらはし、またこれをかくすこと電光《いなづま》よりも早かりき 二二―二四
またたとへば濠水《ほりみづ》の縁《ふち》にむれゐる蛙顏をのみ出して足と太《ふと》やかなるところをかくすごとく 二五―二七
罪人等四方にうかびゐたるが、バルバリッチヤの近づくにしたがひ、みなまた煮《にえ》の下にひそめり 二八―三〇
我は見き(いまも思へば我心わなゝく)、一匹《ひとつ》の蛙殘りて一匹《ひとつ》飛びこむことあるごとくひとりの者のとゞまるを 三一―三三
いと近く立てるグラッフィアカーネ、脂にまみれしその髮の毛を鐡搭《くまで》にかけ、かくして彼をひきあぐれば、姿さながら河獺《かはうそ》に似たりき 三四―三六
我は此時彼等の名を悉く知りゐたり、これ彼等えらばれし時よく之に心をとめ、その後彼等互に呼べる時これに耳を傾けたればなり 三七―三九
詛はれし者共聲をそろへて叫びていふ、いざルビカンテよ、汝爪を下して彼奴《かやつ》の皮を剥《は》げ 四〇―四二
我、わが師よ、おのが敵の手におちしかの幸なき者の誰なるやをもしかなはゞ明《あきら》めたまへ 四三―四五
わが導者その傍《かたへ》にたちよりていづくの者なるやをこれに問へるに、答へて曰ひけるは、我はナヴァルラの王國の生《うまれ》なりき 四六―四八
父|無頼《ぶらい》にして身と持物とを失へるため、わが母我を一人《ひとり》の主に事へしむ 四九―五一
我はその後善き王テバルドの僕《しもべ》となりてこゝにわが職《つとめ》をはづかしめ、今この熱をうけてその債《おひめ》を償ふ 五二―五四
この時口の左右より野猪《ゐのこ》のごとく牙露はれしチリアットはその一の切味《きれあぢ》を彼に知らせぬ 五五―五七
よからぬ猫の群のなかに鼠は入來れるなりけり、されどバルバリッチヤはその腕にて彼を抱《かゝ》へて曰ふ、離れよ、わが彼をおさゆる間 五八―六〇
かくてまた顏をわが師にむけ、ほかに聞きて知らんと思ふことあらば、害《そこな》ふ者のあらぬまに彼に問へといふ 六一―六三
導者、さらば今ほかの罪人等のことを告げよ、この脂の下に汝の識れるラチオの者ありや、彼、我は少しくさきに 六四―
その隣の者と別れしなりき、あゝ我彼と共にいまなほかくれゐたらんには、爪も鐡搭《くまで》もおそれじものを ―六九
この時リビコッコは我等はや待ちあぐみぬといひてその腕を鐡鉤《かぎ》に
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