路傍の木乃伊
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)木乃伊《ミイラ》に
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 私は遠からず路傍の木乃伊《ミイラ》になってしまいそうな気がする。口をポカンと開いた……眼の前の空間を凝視した……。
 私は中学を卒業した切り上の学校に行かないが、その中学時代が小説の耽読時代であった。漱石、蘆花、紅葉、馬琴、為永、大近松、世阿弥、デュマ、ポー、ホルムズ、一千一夜物語、イソップなぞ片端《かたはし》から読んだ。二葉亭、涙香《るいこう》、思案外史、鴎外なぞも漁った。
 それから自然主義の勃興にぶつかった。
 自然主義一流のコクメイな写実式の描写を、気の永い努力で無理に読み味わっては感心した。これが文学だな……と思って熱心に模倣し愛誦していた。絵でも音楽でも西洋風の写実主義のものを尊重した。とにかく西洋人の仕事を矢鱈に崇拝して、唯物個人主義的な観念に深入りして行った。
 私ばかりでない。その頃の日本人は皆謙遜であった。西洋文化を見境いもなく吸収するのに忙がしかった。同じ日本の風景でも日本人の手に成ったものは頭から軽蔑して、毛唐のタッチばかりを随喜した。毛唐のヨサ
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