がわからなければ芸術はわからないとまで云い合っていた。
そのうちに西洋流の唯物資本主義が日本で飽満して、腐敗して、自己分解を初めた。
唯物資本主義者の根本思想が、表面忠君愛国の美名に仮装されていながら内実は、社会主義者と同様の虚無思想であり、その生活の目標が弱肉強食と黄金万能の動物的享楽以外の何物でもない事がわかった……無良心、無節操、無意気、無感激な、ただその時その時の風まかせで生きて行く人間でなければ、大衆生活の仲間入りが出来ないように訓練された資本主義、唯物主義、個人主義者の子孫たち……そのような投遣《なげや》りな傾向の日本の大衆が滔々《とうとう》としてエロ、グロ、ナンセンスの芸術に走り、犯罪小説、もしくは探偵小説のスリルに没入して行った。それはさながらにアル中、モヒ中の患者たちのように、そうした極端な刺戟をアトからアトから渇望し初めた。唯物個人主義の支配階級の連中が、その黄金の力で常に飽満しているエロ、グロ、ナンセンスの残忍、深刻なものを、彼等の夢の中に求めて止《や》まなくなった。
非常な勢いで発達して来た日本国内の印刷能力が、これに呼応し、活躍して、忽《たちま》ちの中
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