、出帆間際まで船医が帰って来なかった。だからトウトウ待ち切れないで船を出したという話を、船に乗ると直ぐにボーイに聞かされた位である。
私はソンナ内幕を聞いているうちに、コイツは物騒な船に乗ったもんだと思った。しかし実をいうと私は、その水夫長の世話でこの船へ便乗して、ボルネオに密航するつもりだったので今更驚いても追っ付かなかった。
もっともソウいう私もまだ若かった。最近にヤンキーのインチキ野郎を一人、半殺しにしたのが八釜《やかま》しくなって、領事の顔を立てるために香港を飛び出した位の荒武者だったから、普通人程にビク付きはしなかった。殊に強慾な水夫長はシコタマ掴まされている関係上、私を特別の親友扱いにして、やたらにチヤホヤしてくれたのであったが、しかし、それでも私は、陸《おか》の上と海の上と、勝手が非常に違うことを知っていたので、停泊中の二三日ばかりは頗《すこぶ》る神妙にして、水夫長の室《へや》に小さくなっていた。
香港を出てから二日の間、コレダケの人間が皆揃って食堂に出た。つまり私を入れた都合六人の上級船員が、一番先に食事をするのであったが、阿片《アヘン》を積む船だけに相当|美味《
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