は背《せ》の高い、色の黒い、チョット仏蘭西《フランス》人に見える英国人であった。経歴はよくわからないが、何となくスゴイ感じのする無口な男で、海員クラブでも相当押しが利いていた。
一等運転手は若いハイカラなヤンキー、客船《メイルボート》出身だけに淡水と、襟《カラ》と、ワイシャツの最大浪費者だと聞いた。二等運転手は猶太《ジュー》系の鷲鼻《わしばな》を持った小男で、人種はよくわからない。世界中の言葉を使ってクルクルと働きまわる男、機関長は理窟っぽいコルシカ人と聞いたが成る程、憂鬱そうな風付《ふうつ》きがどこやらナポレオンに似ていた。
それから水夫長は純粋のジョンブル式ビール樽《だる》で、船長よりも風采が堂々としていた。おまけに腕力が絶倫と来ているので、頭の上らないのは古くから居る船長だけ……気に入らないと運転手にでもメリケンを喰わせるというのだから、船の中のぬし[#「ぬし」に傍点]みたような男に違いない。水夫でもウッカリ反抗したら最後、足を捉《つか》まえて海に放り込むという評判を、まだ陸に居るうちに海員仲間から聞いた。ツイこの間も香港に着く前にチョットした口論から船医をノシてしまったので
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