且つ、想像だに及ぼし得ないところで御座いました。
 この事が例に依って世間に洩れ伝わりますと、その評判の素晴らしさというものは又特別で御座いました。「名裁判長ウイグ[#「ウイグ」は太字]氏は今日こそ、さしもの難事件を解決するに違いない」というので多大のセンセーション[#「センセーション」は太字]を捲き起しましたらしく、朝刊の報道するところに依りますとこの町に到着する列車の一等席は昨日から全部売り切れという盛況だったそうで……私も今日の午後になってから時間通りに裁判所に出頭すべく向うの町角まで参りますと、群集のために馬車が進められなくなりましたばかりでなく、目敏《めざと》い新聞記者連に取り巻かれそうになりましたので、慌てて馬車を引返して、ちょうどお宅に面しております未決監の、賄《まかない》部屋の勝手口から命からがら逃げ込む始末で御座いました。
 けれども、そうしてヤットの事で第一号法廷に立つ段になりますと、私は尚更の事、気を奪われてしまいました。正面に居並ぶ裁判長、陪席判事以下、弁護士、書記に到るまで、平生に倍した人数が法服|厳《いか》めしく、綺羅星《きらぼし》のようで……そのほか十二人
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