、悩ましさというものはトテモ局外者の想像の及ぶところでは御座いますまい。私達兄弟はお互いに、お互いの気持を知り過ぎる位知り合っているのです。相手の心がソックリそのまま自分の心なのですからドウにもコウにも仕様がないのです。殺し合う事も出来なければ逃げ出す事も出来ませぬ。又レミヤ[#「レミヤ」は太字]はレミヤ[#「レミヤ」は太字]で二人の心を、恋人の敏感さで見透かしながらも、どっちをどうする事も出来ないというような、この世に又とない苦しみに囚われてしまいましたので、そのために三人が三人共、行く末の相談どころでなく、口を利き合う事すら出来ない……さながらに生きながら地獄に堕《お》ちたような有様になってしまいました。
 中にもレミヤ[#「レミヤ」は太字]は同じ姿と、おなじ心と姿の恋人が二人眼の前で睨み合っているという、夢のような恐ろしい事実に、死ぬ程悩まされましたせいか、葬儀が済んでから一週間も経たぬうちに見る眼も気の毒なくらい瘠せ衰えてしまいました。そうしてドッと病床に就いてお医者様のお見舞いを受けるようになりましたが、喰べ物はもとよりの事、お薬も咽喉《のど》に通らないという弱りようで、放っ
前へ 次へ
全54ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング