ませんでした。人の噂によりますと、蝶よ花よは愚かな事、ゴムのお庭に水銀の池を湛えむばかり……出来る事ならイエス[#「イエス」は太字]様を家庭教師にしてマリヤ[#「マリヤ」は太字]様を保姆《ほぼ》にしたい位だったそうで、あらん限りの手を尽して育てました甲斐がありましたものか、レミヤ[#「レミヤ」は太字]はだんだんと生長するに連れて、実に絵にも筆にも描けない美しい姿と、指のさしようもない柔順な心を持った娘になって参りました。そうして、両親の大自慢の中に、十七の花の齢を重ねたのがチョウド一昨々年の事で御座いました。
 レミヤ[#「レミヤ」は太字]は実に、世にも比《たぐ》いのない天使の生れがわりで御座いました。その心も「否《ノー》」という言葉を知らないのかと思われるくらい柔和で、両親の言葉に反《そむ》いた事が生れて一度もないばかりでなく、女一通りの学問や、手仕事の勉強は申すも更らなり、毎朝、毎夜のお祈りや、あの固くるしい、長たらしい説教やお祈りをする天主教会への日曜|毎《ごと》の参詣を、物心ついてから一度も欠かした事がないので、年老いた僧正様から「娘のお手本」と賞め千切られる程の信心家で御座い
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