の入口まで来て立ち止まったが、その姿を見ると、流石《さすが》の老医パーポン[#「パーポン」は太字]氏も、思わず小説の読みさしを取り落して、肱掛椅子から立ち上った。
その患者は苅り立ての頭をピッタリ二ツに分けて、仕立卸《したておろ》しのフロック[#「フロック」は太字]に縞ズボン[#「ズボン」は太字]という、リュウとした礼服姿をしていたが、どうしたものか、顔の色が瀬戸物のように真青で、眉が垂直に逆立って、血走った両眼が鼻の附け根の処へ一つになるほど引き付けられている。鼻から下は白いハンカチ[#「ハンカチ」は太字]でシッカリと押えられているので様子がわからないが、その形相の恐ろしさというものは、トテモ人間とは思えない。サタン[#「サタン」は太字]の死に顔か、メデュサ[#「メデュサ」は太字]の首かと思われる乱脈な青筋を顔一面に走り出さしたまま、手探りをするようにしてドクトル[#「ドクトル」は太字]の椅子の方へソロリソロリと近付いて来るのであった。
椅子から立ち上ったパーポン[#「パーポン」は太字]氏は余りの恐ろしさに膝頭をガクガクと震わした。生命《いのち》あっての物種という恰好で、横の手術
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