レミヤ」は太字]と正式の結婚をする。これは天意だから仕方がないときめて、失恋した方は永久にハルスカイン[#「ハルスカイン」は太字]夫妻の前に姿を見せぬ。決して執念を残さない約束を今からしておく事。
(四)三人の生命を同時に救う途《みち》は、この以外に絶対にない事をレミヤ[#「レミヤ」は太字]に説き聞かせて、レミヤ[#「レミヤ」は太字]が承知をしたならば、二本の籤《くじ》を作らせて二人で引く事。
(五)レミヤ[#「レミヤ」は太字]がもし承知をしなければ、二人はレミヤ[#「レミヤ」は太字]の眼の前でピストル[#「ピストル」は太字]を出して狙い合う事。それでもレミヤ[#「レミヤ」は太字]が黙っているならば一、二、三を合図に引金を引く事――以上――
[#ここで字下げ終わり]
以上は大同小異の文句でしたが、こうした極端な場合になっても、二人の考えがコンナにまで一致しようとは全く思いもかけませんでしたので、二人は唇を白くして驚き合った事でした。そうして今更に宿命の恐ろしさに震え上りつつ、相並んでレミヤ[#「レミヤ」は太字]の病室の扉をノック[#「ノック」は太字]した事でした。
二人が別々に書いたノートの切端《きれはし》を、瘠せ細ったレミヤ[#「レミヤ」は太字]の両手に渡しますと、レミヤ[#「レミヤ」は太字]は未だスッカリ読んでしまわぬうちに涙を一パイに湛えました。そうして二枚の紙片を大切そうに重ねて枕の下に入れますと私達の手を執《と》って、自分の胸の上でシッカリと握手をさせました。
「お二人とも死なないで頂戴。……仲よくしてちょうだい……」
と云ううちに窶《やつ》れた頬を真赤に染めて、白い布団に潜ってしまいました。
レミヤ[#「レミヤ」は太字]はその翌る日から、お医者様がビックリされるほど元気を回復し初めました。そうしてそれから一週間目には以前とは見違えるほど晴れやかな顔に、美しくお化粧をして、私たちと一所《いっしょ》の食卓に着いてくれましたが、その時の食事の愉快でお美味《いし》かった事ばかりは永久に説明の言葉を発見し得ないであろうと思われる位で御座いました。
私達二人はその席上でレミヤ[#「レミヤ」は太字]の手から籤を引いてドチラが先に帽子と外套を取るかを決めましたが、その結果はこのお話の筋に必要がありませんから略さして頂きます。
(5)[#「(5)」は縦中横]
三人は、それから後病気一つせずに、固く約束を守り続ける事が出来ました。そうして私達兄弟は学校に居る時よりもズット面白おかしく日曜を楽しみ合うようになりましたが、一方にレミヤ[#「レミヤ」は太字]も頗《すこぶ》る満足しているらしく見えました。私達が二人ともアルマチラ[#「マチラ」は太字]と名が附いておりましたお蔭で、二人の夫を持っている気持ちなぞはミジンもしないらしく、極めて公平に真情を籠《こ》めて私たちに仕えてくれましたので、私達兄弟は今更ながら自分達の妙案にツクヅク感心した事でした。そうして二人とも新婚生活の楽しさと、独身生活の呑気さとを交る交る飽満しておりましたが、レミヤ[#「レミヤ」は太字]も亦レミヤ[#「レミヤ」は太字]で、こうした幸福と満足は、神様の特別の思し召しから来た事に違いないと信じて、教会へ行く度に感謝の祈祷を捧げない事はないと申しておりました。
しかし私たち三人のこうした平和な生活はそうそう長くは続きませんでした。それから未だ半年も経たないうちに、レミヤ[#「レミヤ」は太字]が早くも姙娠した事がわかったのです。そうしてそれが判明《わか》ると同時に私達兄弟は、ちょうどボート・レース[#「ボート・レース」は太字]の日が迫って来るような不安と圧迫感に襲われ初めたのです。
二人はそれから後、日曜を一緒に楽しむは愚かな事、口を利くだけの心の余裕すら失くして終《しま》ったのです。中にも私はレミヤ[#「レミヤ」は太字]が行き付けの天主教会に献金をして、僧正の位を持っているという老牧師に天祐を祈ってもらったり、何人もの産婆にレミヤ[#「レミヤ」は太字]を診察させて、生れる日取りを勘定してもらっては肝を冷したり、そうかと思うと有名な占い婆の門口で今一人のアルマチラ[#「マチラ」は太字]とぶつかり合って、赤面しながら引き返したり……なぞ、あらん限りの下らない事ばかりを、選《よ》りに選って繰り返しておりましたが、そんな事をしているうちにもレミヤ[#「レミヤ」は太字]のお腹は容赦なくせり出して来て、今にも赤ん坊が飛び出しそうになって参りました。
私共がそれに連れて夢中になってしまった事は申す迄もありませぬ。
日記帳と首引きをしながら、
「……今日生れては大変だが」
と指折り数えて青くなっているうちにヤット弟の週間を通り越して自分の週間に這入っ
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