わり]
[#ここから1字下げ、折り返して3字下げ]
……………………ここまで書くうちに次第次第に手がふるえ出し、文字が固苦しく乱れ始めて、とうとう中止する。
[#ここから改行天付き、折り返して3字下げ]
●探偵の手登場……ツカツカと机に近づき、立ったまま握手を求める
◇悪人の手…………ペンを棄て、さも愉快そうに立ち上ってこれに応じ、椅子を指して「サアドウゾ」というこなし……。
●探偵の手…………椅子に腰かけ、ハンカチで汗を拭う。
●女中の手登場……探偵の前に珈琲を置いて退場……。
◇悪人の手…………悠々と椅子に腰を下し、机の上のシガーケースを取り上げ、蓋を開いて探偵にすすめる。
●探偵の手…………軽く左右に振って断る。
◇悪人の手…………かすかにふるえつつ、自分でマッチを擦り、葉巻に吸いつける。
●探偵の手…………机の上に書きかけになっている晩餐会の礼状を指し「そこで盗んだものを下さい」という風に両手を軽く重ねてさし出す。
◇悪人の手…………強く否定して、身の潔白を表明する。
●探偵の手…………礼状の文字のふるえを指し、鋭く詰問する。
◇悪人の手…………非常に激昂し、固く握り締めて机をドンドンとたたき「出て行け」と命ずる如く入口の扉《ドア》を指す。
●探偵の手…………皮肉に屈《ま》げたり伸ばしたりして悪人を指し、嘲弄しつつ立ち上る。
◇悪人の手…………ソロソロとポケットのピストルを探り、半分程引き出す。
●探偵の手…………往来に面した窓を指し、腕時計の時間「九時半」を指し示しつつ退場……………。
◇悪人の手…………ピストルを握り締めたまま見送る。
[#ここから1字下げ、折り返して3字下げ]
……………………やがてピストルをポケットに押し込み、急いで手袋をはめレターペーパーの書きかけを下の二三枚と一緒に破って、これもポケットに捻じこみ、机の上に投げ出した身のまわりのものを取り上げ、電燈を消して、探偵のあとを逐《お》うて行く……。
[#ここで字下げ終わり]
――〔間〕――
[#ここから改行天付き、折り返して3字下げ]
◇美人の手登場……しずかに電燈をつける。
[#ここから1字下げ、折り返して3字下げ]
……………………指環をはめ直し、指先に残っている化粧のあとをハンカチで拭い消しなぞしながら、何気なく机の案内状と葉書とを取り上げてみる。
……………………さも嬉し
前へ
次へ
全5ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング