そうに両手を打ち合わせる。
……………………インキをつけたまま投げ出してあるペンを、ソッと取り上げて「出席槻田万策」と書いてある横に、優しい筆跡で「同 シズ子」と並べて書き「欠席」の文字を消そうとして、インキの切れたのに気付き、つけ足そうとする。
……………………と………インキ壺の中に何か落ち込んでいるのに気がついて、ペン先で二三度突つき、その中の一個をかき上げると、ハッとしてペン軸を取り落す。
……………………ワナワナとふるえる指でレターペーパーを二三枚破って、吸取紙の下に重ねて、机のまん中に置き、抽出からピンセットを取り出して、インキの中にさし入れ、宝石を一つ一つ拾い上げてインキを切り、スッカリ紙に包み、その上からハンカチでくるんで懐に入れる。
……………………別の新しいハンカチを取り出して泣く風情……。
……………………そのまま静に、電燈を消して退場……。
[#ここで字下げ終わり]
    ――〔間〕――
[#ここから改行天付き、折り返して3字下げ]
●探偵の手登場……左右とも手袋をはめたまま、ソロソロと机に探り近づく。
[#ここから1字下げ、折り返して3字下げ]
……………………懐中電燈を照し、そこいらを調べまわる。………紙屑籠………唾壺《つばつぼ》………小型の瓦斯《ガス》ストーブなぞ……。
……………………大きなインキ瓶の口が濡れているのに気付き、取り上げて二三回振ってみてから又下に置く。
……………………机のまわりを押しこころみて、秘密の落し戸の有無をたしかめる。
……………………次に、机の抽出しを下から上へ順々に検査して、机の表面まで懐中電燈を持って来る。
……………………まず、案内状の回答用葉書に新しく「同 シズ子」と書いたのを照し「欠席」の文字の上のカスレタペンの痕《あと》を検《あらた》め、次いでインキに濡れたピンセットを照し出す。
……………………すぐにインキが半分以上減っている壺に電燈をさしつける。
……………………右手を握りしめて「占《し》めた」というこなし……。
……………………懐中電燈を消して退場……。
[#ここで字下げ終わり]

     第二の場面[#「第二の場面」は太字]

[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
…………暗い部屋に置いたピアノのキーのところ、三尺四尺ばかり……。
…………楽譜は置いてない……。
…………一方の窓
前へ 次へ
全5ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング