血しほを刺しもみで
さびしからずや
悪を説く君

夕ぐれは
人の瞳の並ぶごとし
病院の窓の
向うの軒先

真夜中に
枕元の壁を撫でまはし
夢だとわかり
又ソツと寝る

親の恩を
一々感じて行つたなら
親は無限に愛しられまい

屍体の血は
コンナ色だと笑ひつゝ
紅茶を
匙でかきまはしてみせる

梅毒と
女が泣くので
それならば
生かして置いてくれようかと思ふ

紅い日に煤煙を吐かせ
青い月に血をしたゝらせて
画家が笑つた

黒い大きな
吾が手を見るたびに
美しい真白い首を
掴み絞め度くなる

闇の中を誰か
此方を向いて来る
近づいてみると
血ダラケの俺……

投げこんだ出刃と一所に
あの寒さが残つてゐよう
ドブ溜の底

煙突が
ドン/\煙を吐き出した
あんまり空が清浄なので……

雪の底から抱へ出された
仏様が
風にあたると
眼をすこし開けた

病人は
イヨ/\駄目と聞いたので
枕元の花の
水をかへてやる

  *     *     *

宇宙線がフンダンに来て
イラ/\と俺の心を
キチガヒにしかける

隣室に誰か来たぞと盲者が云ふ
妻は行き得ず
ジツト耳を澄ます

眼が開いたら
芝居
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