火の如きカンナの花の
咲き出づる御寺の庭に
地獄を思ふ
昨日までと思うた患者が
まだ生きて
今朝の大雪みつめて居るも
お月様は死んでゐるの
と児が問へば
イーエと母が答へけるかな
胃袋の空つぽの鷲が
電線に引つかゝつて死んだ
青い/\空
踏切にジツと立ち止まる人間を
遠くから見てゐる
白昼の心
青空の冷めたい心が
貨物車を
地平線下に吸ひ込んでしまつた
自分自身の葬式の
行列を思はする
野の涯に咲くのいばらの花
*死
自殺しても
悲しんで呉れる者が無い
だから吾輩は自殺するのだ
馬鹿にされる奴が一番出世する
だから
自殺する奴がエライのだ
何遍も自殺し損ねて生きてゐる
助けた奴が
皆笑つてゐる
あたゝかいお天気のいゝ日に
道ばたで乞食し度いと
皆思つてゐる
悟れば乞食
も一つ悟れば泥棒か
も一つ悟ればキチガヒかアハハ
致死量の睡眠薬を
看護婦が二つに分けて
キヤツキヤと笑ふ
振り棄てた彼女が
首を縊《くく》つた窓
蒲団かむればハツキリ見える
*見世物師の夢
満洲で人を斬つたと
微笑して
肥えふとりたる友の帰り来る
明るい部屋で
冷めたい帽子
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