卵
夢野久作
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)鱗雲《うろこぐも》
−−
三太郎君は勉強に飽きて裏庭に出ました。
空には一面に白い鱗雲《うろこぐも》が漂うて、淡い日があたたかく照っておりました。その下に立ち並ぶ郊外の家々は、人の気はいもないくらいヒッソリとして、お隣りとの地境《じざかい》に一パイに咲いたコスモスまでも、花ビラ一つ動かさずに、淡い空の光りをいろんな方向に反射しておりました。
その花の蔭の黒いジメジメした土の上に初生児《あかんぼ》の頭ぐらいの白い丸いものが見えます。
「オヤ……何だろう」
と三太郎君は不思議に思い思い近寄ってみますと、それは一つの大きな卵で、生白い殻《から》が大理石のような光沢を帯びておりました。その横の地面に竹片《たけぎれ》か何かで字を書いて、卵と一所《いっしょ》に輪形の曲線で包んでありました。
……三太郎様へ……露子より。
三太郎君はハッとして慌てながらその文字を下駄《げた》で踏み消しました。そうしてコスモスの花越しに、空地続きになっている裏隣りの二階をあおぎました。
その二階は階下と一所に雨戸が閉まっていて「
次へ
全9ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング