わず前にノメリそうになった拍子に、真暗なお庭の沓脱石《くつぬぎいし》のあたりへ卵をコロリと取り落しました。……と同時にバッチャリと潰れた音がしたと思うと間もなく、生あたたかい、酸っぱいような小便のにおいがムラムラと顔に迫って来ましたので、三太郎君は、ヨロヨロとあとしざりしながら顔をそむけました。
空には一面に星が散らばっていました。
三太郎君は、あとをも見ずにピッシャリと窓を閉めました。全身の汗がヒヤヒヤと冷え乾いて行くのを感じつつ、寝床にもぐって、ワナワナとふるえておりましたが、そのうちにウトウトしたと思うと、又、ハッと眼を醒ましました。あとを掃除しておかなければならぬと思って……。
恐る恐る雨戸を開いて見ますと、いつの間にか夜が明けて、外はアカアカとした小春日和《こはるびより》でした。裏庭の隅にはまだ、コスモスの白い花が、黒い枝の間にチラリホラリと咲き残っています。
沓脱石の処には何のあとかたもありませんでした。おおかた昨夜のうちに近所の犬か猫かが来て嘗《な》めてしまったのだろうと思われる位キレイになっておりました。
三太郎君はホッとしました。そうして何喰わぬ顔で朝食前
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