の幻覚に過ぎないのじゃないか知らん。神経衰弱から湧《わ》き出した、一種のあられもないイリュージョンじゃないかしらん……。
 ……イヤ……そうなんだそうなんだ……イリュージョンだイリュージョンだ……。
 ……俺は一種の自己催眠にかかってコンナ下らない事を考え続けて来たのだ。俺の神経衰弱がこの頃だんだん非道《ひど》くなって来たために、自己暗示の力が無暗《むやみ》に高まって来たお蔭でコンナみじめな事ばかり妄想するようになって来たのだ。
 ……ナアーンダ。……何でもないじゃないか……。
 ……妻のキセ子も、子供の太郎も、まだチャンと生きているのだ。太郎はモウ、とっくの昔に学校に行き着いているし、キセ子は又キセ子で、今頃は俺の机の上にハタキでも掛けているのじゃないか。あの大切な「小学算術」の草案の上に……。
 ……アハハハハハハ……。
 ……イケナイイケナイ。こんな下らない妄想に囚《とら》われていると俺はキチガイになるかも知れないぞ……。
 ……アハ……アハ……アハ……。
 彼はそう思い思い、スッカリ軽い気持になって微笑しいしい、又も上半身を傾けて、線路の上を歩き出そうとした。するとその途端に、
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