自身の手で、彼のタッタ一人の愛児を惨死に陥れて、彼をホントウの独《ひとり》ポッチにしてしまうべく、不可抗的な運命を彼自身に編み出させて行った不可思議な或る力の作用を今一度、数学の解式のようにアリアリと展開し初めたのであった。
それは大寒中には珍らしく暖かい、お天気のいい午後のことであった。
彼は二三日前から風邪を引いていて、その日も朝から頭が重かったので、いつもの通り夕方近くまで居残って学校の仕事をする気がどうしても出なかった。だから放課後一時間ばかりも経《た》つと、やはり、何かの用事で居残っていた校長や同僚に挨拶《あいさつ》をしいしい、生徒の答案を一パイに詰めた黒い鞄を抱え直して、トボトボと校門を出たのであった。
ところで校門を出てポプラの並んだ広い道を左に曲ると、彼の住んでいる山懐《やまふところ》の傾斜の下まで、海岸伝いに大きな半円を描いた国道に出るのであったが、しかし、その国道を迂廻《うかい》して帰るのが、彼にとっては何よりも不愉快であった。……というのは距離が遠くなるばかりでなく、この頃《ごろ》著しく数を増した乗合《のりあい》自動車やトラック、又は海岸の別荘地に出這入《
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