ける自分の魂の姿を、骸骨がバイオリンを弾いている姿に描きあらわして不朽《ふきゅう》の名を残したものである。
 ……又、これを普通人の例に取って見ると、身体《からだ》が弱かったり、年を老《と》って死期が近付いたりした人間は、認識の帰納力とか意識の綜合力とかいったような中心主力《ドミナント》が弱って来る結果、意識の自然分解作用がポツポツあらわれ初める。時々、どこからか自分の声に呼びかけられるようになる。だから身体が弱かった場合か、又は相当年を老った人間で、正体の無い声に呼びかけられるような事があったならば、自分の死期の近づいた事に就いて慎重なる考慮をめぐらすべきである」云々《うんぬん》……。
 この論文の一節を読んだ時に彼は、思わずゾッとして首を縮めさせられた。生れ付き虚弱な上に、天才的な、極度に気の弱い性格を持っている彼が、そうした不可思議な現象に襲われる習慣を持っているのは、当然過ぎる位当然な事と思わせられた。そうしてそれ以来、普通人よりも天才とか狂人とかいう者の頭の方が合理的に動いているものではないか知らんと、衷心《ちゅうしん》から疑い出す一方に、時折り彼を呼びかけるその声が、果して
前へ 次へ
全54ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング