も……実は江戸からチラチラと隠密が入込んでおりまする」
「ゲエッ……早や来ておりまするか」
「シイッ……黒封印(極秘密)で御座るぞ。……主君《との》の御気象が、大公儀へは余程、大袈裟に聞こえていると見えてのう。この程、大阪乞食の傀儡師《くぐつまわし》や江戸のヨカヨカ飴屋、越後|方言《より》の蚊帳《かちょう》売りなぞに変化《へんげ》して、大公儀の隠密が入込みおる。城内の様子を探りおる……という目明し共の取沙汰じゃ。コチラも抜からず足を付けて見張らせている。イザとなれば一人洩らさず大濠《おおほり》へ溺殺《ふしづけ》にする手配りを致しているがのう……油断も隙もならぬ。名君、勇君とあれば、御連枝《ごれんし》でも構わず取潰すが、三代以後の大公儀の目安(方針)らしい。尤も島津は太閤様以来|栄螺《さざえ》の蓋を固めて、指一本指させぬ天険に隠れておるけに、徳川も諦めておろう。……されば九州で危いのはまず黒田と細川(熊本)であろう……と備後《びんご》殿(栗山)も美作《みまさか》殿(黒田)も吾儕《われら》に仰せ聞けられたでのう。そのような折柄に、左様な申立てで塙代奴を取潰いて、薩州と事を構えたならば却って
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